第24話 大量絶滅
立木はもう一度椅子に座り直した。
「会長、私が変身したのもウィルスのせいですよ。今地球上には、不思議なウィルスが蔓延しているのです。もちろん一般の人々には何の影響もない無害なウィルスです。
ところが、こいつはある種の人間に反応する。つまり、僕たちみたいな進化種と呼ばれる一族に、過激な変身を起こさせるものです。
そう、さなぎから蝶のようにです。そして神に感染したウィルスは、神の細胞の中で突然変異をして、人間に感染します。これが、神のウィルスの正体です。
神といわれる一族の復活の本当の目的は、ウィルスの宿主になることなんです。会長が、この現実を理解できなくて当たり前です。私の蘇った記憶に間違いありません。
後天的に得た情報は人間には、次の世代に伝えることが出来ません。しかし、私は進化種と呼ばれるものです。あなた方には理解できない事が可能なんですよ」
「おまえ達からすれば、私たちは未開人なのか」
「そうです。私とあなたとはそれほど生物的な開きがあるのです。しかし、私は人類のたった一人の味方です。神と呼ばれた者達。彼らは世界各地で人間を滅ぼすウィルスの宿主として復活するでしょう。これまでたびたび進化種は復活していました。それは人類の歴史に記載されている聖者たちを調べればわかると思います。
しかし今までの神達はウィルスの宿主にはならなかった。超人的な能力だけを得て人間界に現れたのです。
しかし今回の復活は、これまでとは訳が違います。地球史レベルでの遺伝子の復活です。今まで解明されている地球史によると、これまで5回の絶滅を命は経験しています。大量絶滅とよばれている絶滅です。ビックファイブとも呼ばれています」
「大量絶滅だと」
稲川も赤木も、立木の話に身動きさえ出来なかった。話しのレベルがぜんぜん違っていたからだ。立木は、淡々と話を続けた。
「命たちは、ある種の条件で、進化と呼ばれる変態を繰り返しました。そして謎の絶滅をしています。
ペルム紀末の大量絶滅は、ご存知のとおり、海生生物のうち96パーセント、全ての生物種で見ても90パーセントの生物が絶滅しています。色んな絶滅を生き延びてきた三葉虫さえ、ついに絶滅したのです」
「それは神の遺伝子の仕業なのか」
乱造の目はうつろになっていた。
「たぶん間違いないと思われます」
「現在は完新世と呼ばれています。現在でも種の絶滅は進行しており、その絶滅率は70パーセントとも言われています。つまり6度目の大量絶滅はすでに進行しています。そして、人類にとどめをさす為の遺伝子が復活しました。これが神の遺伝子です。
今後、一定期間を経た後、第二の覚醒をするでしょう。それは殺人ウィルスのばらまきの為です。
これは防ぎようが無いでしょう。殺人ウィルスは、人間にとってどんな作用を及ぼすかは今はわかりませんが、人類にピリオドを打つものです。彼たちが復活したのはそのためなのです」
乱造は驚いた。
「ちょっと待ってくれ。彼たちは進化種として人類の上に立ち、地球に君臨するのじゃないのか。」
「違います。彼らは破壊者です。それ以上の役目はありません」
「それじゃ地球は誰の手に移るのか」
「それはわかりません。しかしそのために私が存在するのです。私は神を経たウィルスに感染しません。やはり、神と同じ構造をしているからです。更に、私には神のウィルスを更に変化させる体質を持っているのです。
私のウィルスに感染した者は、神のウィルスに対抗できるのです。私は、神と戦うために存在しているのです。そして、これまで幾度も、神の目を盗んで命を持続させてきたのです。今度も、彼らと戦わなくてはなりません。それが宿命なのです」
「まてよ、立木がウィルスに感染しないというなら、すぐにでも、ワクチンが作れるのではないか」
「今の時代ならそれが出来るかもしれません。そのために赤城さん、あなたが必要なのですよ。」
急に自分の名前が出てきて、本人がびっくりした。
「それなら、あのカンブリアシンドロームは何なのだ。彼ら達が現れる以前だぞ」
赤城はあくまでも反抗的だ。
「あれは、あらゆる生物相の遺伝子の悪あがきみたいなものです。今回滅んでいく遺伝子の最後の抵抗なんです。生物界も新種のウィルスの感染症が起きているのでしょう。今人類の中で発生しているエイズなどは、余震みたいな物です。いや神々を復活させる為のエピローグなのかもしれませんね」
「しかし、わからないことが一つある。なぜ今神々は復活したのだ」
「たぶん、地球という環境の中で、人類は暴走しすぎたのかもしれません。神の出現は私の想像を遙かに越えていて、理解できないのです。地球規模の事なのか、宇宙規模のことなのか不明です。
しかし、何かの意思で命は誕生したのです。カンブリアの生物大爆発や恐竜の絶滅、人類の誕生。全て遺伝子の働きによるものです。
人類は遺伝子の意思で生き延びた命なのです。遺伝子はウィルスを利用して命をコントロールしてきました。しかし、今回の出来事はその遺伝子の意志をも踏みにじる暴挙です。遺伝子さえも命乞いをしているのです」
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