第17話 不動明王
しばらく、スピーカーから何も聞こえなかった。白い部屋の真はじっとしていた。マジックミラーには、黙り込んでいる真の姿が映っている。上半身裸で、至る所に絆創膏が張ってある。実験と称して、あちこちを切り刻まれたあとだった。
不意に、スピーカーのスイッチが入った。
「真君、今度は私がメインの相手だ。よろしく」
真は目をつむったままだ。
「スーパーマン君。何を考えているのかね」
赤城はおどけた声で話し出した。
「もう一つわかったことがあるよ。君たちは密教というもので変身を遂げたが、不活性遺伝子を活性化させる物質がほぼ判明したよ。
それは特殊なアドレナリンだ。立川流とはセックスの快楽を利用しての変身だ。快楽とは私達からいわせると化学作用の一つなんだ。異常なまでの快楽がこいつを多量に分泌させる。これが活性化物質の元になる。まあ一回、君たちに立川流のセックスを見せてもらえば、ほぼ正確にわかるだろう。クックックッ」
赤城は興奮していた。凄いおもちゃを手にしたと思っているのだ。
また、赤城は淫猥な性的趣味を持っている。隠れてSMプレイにはまっているのだ。まさに今回は、趣味と実益をかねた楽しい仕事となった。
真はゆっくり目を開けた。
「赤城君とかいったね」
重々しい声だ。神の声とはこんな声なんだろう。人間の音声をモノラルとすれば、真の声はサラウンド方式のハイファイステレオ音声なのだ。
「この2日間で、私には様々な情報が入ってきた」
「情報だと」
赤城は、その声に圧倒されたが、高慢な姿勢は崩しようもない。これが性格なのだ。
「空気中に含まれている、におい、小さな虫達、花粉、様々なものが教えてくれたのだ」
「さすがはスーパーマンだ。虫や、花粉のお友達とは思わなかったな」
赤城は、真の怯えのない堂々さに怖さを感じていた。その怖さを知られたくないようにヒステリックになっていく。
「もういい」
不機嫌なな声を上げると急にスピーカーを切ってしまった。
なぜ真の体が地球上の様々な生物の能力を持っているかというと、それは情報収集のためなのだ。植物、動物、魚、虫。様々なもの達は種の情報網は持っているのだが、他者に伝えることが難しい。それはパソコンでいうフォーマットの違いから来る。だが真はすべての情報を受け入れる事が出来るのだ。
真はすっかり、顔つきが変わっていた。たった1時間の問答の間に、自覚したのだった。目は鋭く見開かれ、口元は引き締まっている。裸なのに気づいたのか、ベットの白いシーツを体に巻き付け、シーツの端を破りひもにしてバンド代わりにした。そして静かに立ち上がった。
マジックミラーにうつる真の姿は、まさしく不動明王のようだ。
一族達は、地下2階の5つの部屋に分けられて収容されていた。立木達にとらえられ、子供達を人質にされた一族は、いわれるままに、ここに収容されたのだった。しかし、真の飛翔は、みんなが感じ取っていた。
一族達はすべて進化種である。一族みんなに不思議な活力がみなぎり始めていた。それは真が進化種として目覚めた時からであった。
進化の不思議というのは、一つの種に個別的に起こるのではなく、いっせいに起こると考えられている。それは1個体の突然変異だけでは、生き延びていく可能性はゼロに等しく、生物種間に不思議な連携が考えられている。
また、進化による変化も、徐々に起こったかのように思われがちだが、たとえば、目などという複雑な器官ができあがるときは、突然すべてができあがらなくては、機能を発揮できないことからみて、やはり劇的な変化が同時に生物に現れると考えられている。
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