第14話 大日如来

そして今、真は見知らぬ敵の攻撃を受けている。 隠れるのが遅かったようだ。敵は、我々の想像を超えて敏捷だった。


法師を誘拐されたことに動揺して、打つ手が後手に回ってしまった。これは明らかに、真のミスだった。


守っているのは6人の密僧だ。1度目の襲撃で2人やられている。これ以上の手練れはこの村にはいなかった。すなわち、ここまで侵入されたら、真では太刀打ちできない。


それ故、最後のチャンスとして、敵が押し入ってくるのを覚悟で飛翔を試みた。真は素っ裸で横たわっている。その上に、弘子はまたがっている。




真は不乱に真言を唱えている。


「オン・キリク・ギャグ・ウン・ソワカ」


「オン・キリク・ギャグ・ウン・ソワカ」


下着だけ脱いだ弘子は目を閉じ、盛んに腰を動かしている。真の上に乗る弘子のあえぎはだんだん大きくなる。快楽の嵐が始まっていく。弘子は何度も、小さなあえぎを漏らす。


だんだん腰の動きが円をえがきだす。台風と同じなのだ。小さな快楽は渦を巻き竜巻と化す。快楽の力が大きいほど、瞑想の世界へ入っていけるのである。台風のような快楽は外円である。強ければ中の真空地帯は固定される。


弘子は無に入った。頭の中は真っ白となり、次第に形を整えていく。


しばらくすると蛇のような形になった。竜である。弘子の頭の中の竜は、一気に下腹部へ走り始めた。その瞬間、弘子の膣はうねり始めた。真の陰茎を不思議な蠕動でしごき始めている。


その快楽は真に移る。真は、上りつめる快楽を利用してワープしようとしているのだ。何度かのうねりをとらえ、大きな波を待つ。突然、脳髄から大きなパルスが流れ落ちれくる。


真はこの波に乗った。乗ったと同時にいきなり、阿字観に入った。彼は今、大きな月輪の中にいた。


大日如来の思念を真は感じた。


「私はあなたに会うことが出来る」


そう思念したとたん、結跏趺坐をした大日如来は目の前に現れた。真も結跏趺坐をしている。


「私は貴方と重なることが出来る」


これはすべて、瞑想の中のイメージの世界である。大日如来は、近づいてきて真と重なった。真は大日如来になったのだ。




静かに目を開ける。目の前に、阿修羅が立っている。


「真、お前は今、地獄にいる」


静かに、阿修羅は言い放った。右手に持つ太刀を、いきなり頭へ振り下ろす。真は避けようとした。


「わっはっはっ・・・」


大音響で阿修羅の笑い声が響きわたる。


「命が惜しいか。これは妄想ではないぞ、この太刀を受ければ本当に死ぬのだ。リセットなどは出来ないんだ。お前はパソコンではない。飛翔など世迷い言だ」


そういうと、いきなり真の腕を切り落とした。血が滝のように落ちていく。激痛が走った。真の心配が本当になった。


阿修羅の言葉は、ほんの僅かな真の恐怖を見事にとらえていたのだ。瞑想の中でも死んでしまう。その考えが頭の隅から、中央へ一気に広がっていった。


次の瞬間、右手が切り落とされる。今度は、もっと激しい激痛が来た。


「うおおおお・・・」


真は倒れそうになった。




ドドーン


立木達は、祭壇の裏にあった、隠し扉をプラスチック爆弾で吹き飛ばした。荒木は、先にとびこむ。部屋の奥では、真たちがセックスの真っ最中である。


「何だ、こいつらは」


荒木が異様な光景を目にしてたじろぐ。立木も後に続く。部屋を見渡し、二人を確認した。そして、ためらわず女に標準を会わせ、いきなり、ぶっ放した。


弘子は真の男根が萎えかかってるのがわかった。必死で腰を振るが効果がなかった。


焦っていた。その時、弘子の頭を立木のマグナムがぶっ飛ばした。何も感じることのないまま、首なし死体となった。


体は一瞬遅く死ぬ。そのせいで膣は不思議なしまり方をした。断末魔の動きだった。真の男根をねじるように締め上げたのだった。


真は蘇った。萎えていたものが、力を取り戻した。不思議だが、突然大きな命が真の中になだれ込んできたのだ。


瞑想の中で、真は大日如来になっている。再び阿修羅が現れた。


「切られると死ぬぞ」


大日如来は無言でほほえむ。


「そんなに死にたければ殺してやろう」


阿修羅は、太刀を振り上げて頭の上に振り落とした。如来は半眼のまま、阿修羅の太刀を見つめている。スローモーションのように阿修羅の太刀は、如来の頭の中を通過していく。


脳から、鼻、目、口、肺、胃、腸、イメージ通りに剣は進んで行く。ついに、大日如来は真っ二つになった。そして、いきなり目の前が暗くなった。


真は死んだのだった。





「荒木、こいつを担ぎ出せ」


立木は冷たく言い放つ。


「はっ」


荒木は首のない弘子を無造作に脇に片づけ、真を抱きかかえようとした。荒木は、真の瞳孔を調べた。


「死んでます」


「ふん、セックス死か。まあいい。これは俺達の責任ではない」


立木はインカムで沢田へ連絡をする。


「もう、戦いはすんだ。こっちへ来て必要だと思われる物を持ち出せ」


沢田達は、まだ寺の外の木立にいた。立木が2人は足手まといになると判断して、その場にいるように指示をしていたのだ。


「へい、わかりました。すぐ行きます」


紀子と顔を見合わせて、ほっとした。


「助かったぜ。俺達が、こんな化け物達と戦おうなんて無理があるんだ。この俺様は、肉体労働は向いてないんでな」


「早く行きましょう」


2人はへっぴり腰で、立木のいる場所を目指して走っていった。




立木は本部に連絡した。


「標的を捕捉完了。


ただし、踏み込んだ時には真は、すでに死亡。標的を持ち帰る。村には、残り70名ほどの住民が潜んでいると思われる。ただちに後続部隊を送り、殲滅作戦を敢行せよ。すべて皆殺しにしろ。以上」


「もういいだろう。荒木、念のため、その男に手錠と足かせをつけろ」




死んでいる男にも油断しないのは立木の信条だ。荒木は沢田と紀子に手錠と足かせを渡した。


沢田はいわれるままに、まっぱだかの真に足かせをした。 紀子も、手錠をかけようとした。


ふと紀子は微細な反応を感じた。


「あら、意識のかけらがまだ残っているわ」


脳死に至っていないのだろう。念のため、スキャンしてみた。精神を集中し、やさしく真の頭の中へ入っていく。青白く光る細い光線が脳を輪切りにしていく。


ゆっくり頭の先から下の方をスキャンした。極々微弱なパルスが不規則な間をおいて流れている。


それは死んでしまった脳にまとわりついて残っている帯電性の意識波で、死亡と判断しても間違いない。


紀子は真の原意識から引き上げようとしたが、ふと赤いパルスの点滅が気になった。スキャンを始めたときはなかった点滅だ。頭の中をなで回すように調べていくうちに、突然反応したらしい。


念のため、もう一度赤いパルスのまわりを、紀子の意識の手でなで回す。撫でまわすうちに赤い色が緑に変わった。


今度は点滅していない。さっきよりはっきりしている。紀子は、意識の触覚を急いで引っ込める。


「あのぅ・・・」


紀子が立木に話そうとした。


その時に、パラパラバラと微かなヘリコプターの音が西の空から聞こえてきた。後続部隊が到着したのだ。

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