第7話 上人天地寺

日之影町上人村に近い雑木林の中。杉やクヌギ、コナラ等が無造作におい茂っている。足元は湿った枯葉で覆い尽くされている。まだ日が高いのに薄暗く、木漏れ日がレースのカーテンのように足元まで届こうとしている。


三人は雑草の中に立っている。立木の部下の荒木、それと島田紀子、沢田敦。3人は特殊部隊と呼ばれている。


島田紀子はテレパスとよばれる精神感応が出来、沢田敦は念力と呼ばれる能力を持っていた。いずれも、研究所で集められた人間だったが、その能力が買われ高額の報酬で部隊に入ったのだ。


ただ、部隊といっても実戦の経験はなく、その力は未知数だった。荒木は立木の傭兵時代からの子飼の部下で、特殊部隊の指揮を任されていた。強さに関しての憧れは人一倍で、立木に心酔している。


絶対服従だった。身長165cmでがっちりしているのだが、本人はやや低い身長が強烈な劣等感となっている。なめし皮のような浅黒い皮膚と、細い目と薄い唇。冷酷さがにじみ出ている。


今回共に行動する二人は超能力者といっても、只の民間人である。そして荒木は超能力者達を信用していなかった。まず、何の努力もしないで能力を持っている事への不満があり、そしてこんなチャラチャラしている奴等は根っから嫌いなのだ。結局僅かな能力を過大に宣伝するペテン師だと思っている。今回の作戦で、初めて実戦に挑むのだが、2人とも軍隊に向いてるとは思えなかった。


「今回の作戦は人身誘拐である。適当と思える人間のあたりを付けたら、すばやく行動を起こす。地元警察には根回しがすんでいるので、躊躇なくやれ」


「どんな奴を捕まえればいいんですか、だんな」


迷彩色の戦闘服を着ているのだが、襟のボタンを開けズボンも腰ではいている。何を着てもこうなるのだろう。その沢田が、ねちっこく聞く。もとチンピラやくざの言い回しが鼻につく言い方だ。


「なるべく死にかけている奴がいいと、指示を受けている」冷酷な口調で荒木は答える。


「あたいは何をすればいいの」


島田紀子の間の抜けた声が頼りない。まだ二十代の幼い顔立ちだが、髪を金髪に染め、目の回りのメイクもかなり派手めである。


「いいか、2人とも夫婦者の旅行者を装って、まず探りを入れるのだ。目星がついたら俺に連絡しろ。決定は俺が下す」ますます冷酷な口調になった。


「わかったよ。おい紀子、行くぞ」


「はいよ」


2人は、渋々里に下りていった


「頼りない奴らだ」吐き捨てるようにつぶやいた。



国道から細い道を少し行くと、盆地のように少し開けている土地がある。田んぼが少しあり、その奥に集落があった。上人村は30軒ぐらいの古い家が、点在していた。


病院も、派出所もなく、車一台通れるほどの砂利道一本が外界に通じるものだった。二人は道に迷った夫婦という設定で、うろついている。ただ、人通りがなく戸惑っていた。


目についた村の真ん中にある、お寺へ歩いていった。古びた門には、上人天地寺という看板が掛かってある。門をくぐると少し広い境内がある。庭箒を持って作務衣を着た男がちらりと二人を見つけたが、無視している。



「こんにちは」


沢田が笑顔で訪ねる。


「道に迷ったみたいようですね。ここはどこですか」


地図を片手に如才なく演技をする。作務衣の男が用心深そうな目で見つめている。


「どっかに泊まれるところはありますか」 と猫なで声で紀子も調子を合わせる。


「いや、この村にはそんな施設がありません」と素っ気なく答える。


「あーそうですか。困ったなー」


「来た道をまっすぐ戻れば1時間で町に出ますよ」とあくまでも素っ気ない。


「そうしようよ、アツシ」


勘のいい紀子が、演じる。2人は、素早く引き下がった。




作務衣の男は、2人が見えなくなるまで立ち止まっていた。


「紀子、これじゃ、しょうがないなー。とりつくしまがないぞ」


「そうねー。一瞬だけどあの坊主にスキャンをかけてみたの。そしたら、青い点滅がたくさん感じたの。だいぶ警戒されてるわね」


「青い点滅?それだけかよ。お前はテレパスだろう。もっとよくわからないのか」


「テレパスだっていろんな種類があるのよ。私の場合、色で感情を理解するの」


紀子は、自尊心を傷つけられているのだ。 不機嫌に口を尖らせている。。


「何だ、その程度なのか。警戒されているくらい俺でもわかったよ」


粗雑さはチンピラの特性だ。舌打ちしながら言い放つ。


「それじゃ、夜になったらこの寺に忍び込むとするか。情報じゃ爺がこの寺に住んでいるということだからな。あのこわい荒木の旦那に連絡しとけよ」


沢田は当然のように主導権を握った。


「わかったわよ」


ふくれっ面の紀子は、携帯カバーをハネ開けた。

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