第四節:秋。

 乾いた風がほおを撫で、ひゅ――と小気味のいい音が過ぎ去っていく。

 10月もすでに中旬を迎え、上着を羽織はおらないと少し肌寒い。秋は比較的好きな季節だが、思い出としては苦いものしかない。

 二年前の秋。苦い、というには中途半端かもしれないが、彼女と別れた。かなりひどい別れ方――などではなく、自然に気持ちが冷めて別れたような流れだった。しかし、こちらが好きなまま、思いっきり振られた方がよかったのかもな、と今では思う。


 ***


悠大ゆうたー」

「んー、どした?」

「私、悠大と別れたい」

 あやうく笑いそうになった。付き合って1年目の日の、デートのときのことだった。お互い自分の生活で忙しく、会わないうちに気持ちが薄れていくのは必然的だったと言っても過言ではない。

 正直、ほっとした。俺から言い出す勇気なんて、とてもじゃないけどなかった。

「いいよ。別れよ」

「………」

千秋ちあき……?」

「――わかった。明日から、友達。違うね、知り合いだね」


 千秋の声が少し震えていたことに、俺はまったく気づかなかった。


 ***


 帰り道、彼女が静かに泣いていたのを悠大はまだ知らない。

 彼女が、俺の気持ちを確認するために聞いたなんて知るよしもなかった。



 嫌われていたかった。

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