第二節:冬。

 吐いた息が白くなりようやく冬を感じ出した。

 君のぬくもりに心を溶かしていた日々は簡単に崩れた。

 心を閉ざしたわけでも、捨てたわけでもない。


 冷え切って、欠片かけらもない希望を捨て切れずにいるだけだ。



 ――君と、話したい。


 そんな衝動が起こった直後には、もう体が動いていた。受験生で外出することも部活で動くこともなかった体はなまりのように重かったが、そんなことはどうでもよかった。


「あ――」


悠翔ゆうと君?」

紅音あかね

「えっ……と」

「紅音」

「……うん」

 声が出ない。喉が詰まる。肺が潰れたような感覚にさいなまれる。

「――やっぱり、なんでもない。じゃあな」

「待って! 私は、悠翔君のこと――」


 ***

 そこからは、記憶がない。すりガラスのように不鮮明で、ぼやけていて、何も憶えていない。

 しかし、一つ確かなことはあった。俺が彼女に撲殺されかけた、ということだ。病院のベッドは簡素で、面白味なんてまったくない。別に病院のベッドに面白味を求めているわけではないが。


 希望なんて、持たない方が良かった。最初からなかったものを、無理にあるふりをしても、何も残らなかった。いて言えば、悲愴感だけが胸の奥に深く突き刺さっただけだった。



君がいだいた想いは、何だ。

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