すれ違う君と。

淺野 武蔵

beginning story.

第一節:夏。

 もう二年目になるだろうか。

 そんなことを考えていたのは、夏休みの――中学三年の夏、ある夜の日だった。曖昧な記憶をどうにか再生しようと、普段まったくと言っていいほど使わない頭をフル回転させたが心の引き出しはビクともしない。

 あの日、流した涙でびてしまったのだろうか。

 もう、忘れよう。何度そう思ったことか。それでも、忘れることなんて出来なかった。微かな記憶の中の彼女は、そんなことをさせてくれなかった。いや、俺はそんな彼女を忘れることなんて、出来やしないだろう。少なくとも俺にはできなかった。

 もう一度だけ彼女に会えたら、どんなに嬉しいだろうか。君は喜ぶだろうか、悲しむだろうか。――それとも俺のことなんて忘れているだろうか。

そんなことはどうでもいい。

 君が俺のことをどう思っていようが、そんなことは関係ないのだ。

二度と会えないとわかっているから。

 引っ越しの時の君は、泣き顔を裏に隠し――作り笑顔で去っていった。思い切り泣いてくれた方が、まだこっちも笑って送り出す気になったのに。感情を押し殺す君に、かけられる言葉なんてなかった。



 君は今、どうしているんだろう。


 二年ぶりに、『君に会いたい』――そう、強く思った。

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