第七話 わたし
あれ以来、津村がわたしを凌辱することはなく、わたしの席にやってきて、わたしについての質問を投げ掛けては、満足そうに自分の席に戻っていくのだった。
母親が死んだ時はどう思ったか、死んでみたいと思ったことは、おれに犯されて感じていたか、などと、はっきり言って最低の質問だらけだった。彼が質疑によってなにを企図しているかは計りかねたが、会話の中から彼の人間性は掴みかけていた。おそらく、彼もまたわたしに対してそうしているように──。
津村は
津村は、他人とは相容れない。それでもわたしに対する執着を見せるのは、暴行した当事者がのうのうと登校してくるという初体験に戸惑い、今のところは嗜虐心より好奇心が勝っているに過ぎない。もし津村の好奇心が満たされたならば、彼は再度わたしに対して牙を剥くだろう。わたしの生命を脅かさないのであれば別に構わないが、それで満足するような人間だろうか。性を弄ぶことに飽きたら、この手の人間は容易く次の娯楽にステップを践むだろう。
そこまで考えて、わたしの脳裏に電流が走る。次の娯楽──。
自分でも、ここまで邪悪なことを思い付くとは驚いた。いや、あの邪悪な父親の種から生まれたのだ。むしろ正着だといえよう。急に、膝が笑いだす。あの暴君に、その存在自体を永久に違法だと判決することができる。罪悪感は無い。あの男は殺されて当然だ。あの男を殺してはじめて、わたしの人生は動き出す。
わたしはなんのために生まれてきたのか。親に愛されず、醜い瞳を貰い、下劣な身体を引きずって、それでもずっと考えてきた。街路樹は街路樹としての役割を与えられて街路樹として生きていく。では、人間は?人間は生まれてきた役割を与えられぬまま、ただ生まれて、生きていく。もし、この
わたしは席を立った。迷いを断ち切るように、一歩一歩しっかりと足を進める。津村の席の前まで来た。彼は数人のクラスメイトと他愛の無い会話をしている。
「津村くん」わたしが声をかけると、津村は今までの一般的な男子高校生の仮面の下から、一瞬だけ、ほんの一瞬だけだが
「話があるの」
クラスメイトには見せない、獰猛な笑み。
わたしは、決意をもって猛獣の手綱に手をかけた。
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