第5話:アールグレイの香

一週間後の夜


カナタ「お茶を入れますが、何がいいですか?」


サクラ「・・・では、アールグレイのミルクティーを」


カナタ「はい」


カップを渡されて


カナタ「その後、いかがでしたか?」


サクラ「・・・それが、迷っています」


カナタ「そうですか」


サクラ「はい」


カナタ「・・・実はですね、先週、紅茶がおいしいと言っていただけたのが、うれしくて」


サクラ「え?ああ、そうですか?」


カナタ「はい、お店だとケーキの味をほめていただけるお客様はいるのですが、紅茶の味についてないかコメントしていただけるということが、ないんですよね・・・」


サクラ「・・・ああ、なるほど。いわれてみればそうですね、紅茶は脇役的な・・・」


カナタ「はい・・・すこし、種明かしをしましょう」


サクラ「種明かし・・・ですか」


カナタ「記憶に価値を付けた人にはそのまま、その記憶を背負ってもらうことにしています」


サクラ「・・・はあ?」


カナタ「値段の付く記憶というのはその人に必要な記憶だと思っています、値段を付けた場合はお客様から、このお店と私の記憶を消してお帰りいただいています。」


サクラ「・・・」


カナタ「値段をつけない場合・・・全くの無価値、または自分の命を捨ててでも忘れたい・・・まあ、その記憶のせいで自殺する危険がある場合といえばいいのか・・・そういった場合に記憶を操作しています。その場合もこのお店と私の記憶も一緒に消しています」


サクラ「・・・なるほど」


カナタ「あなたは値段なんていらないといった後に、紅茶のお代にしたいとおっしゃりましたので、困りました。あなたにとって必要なのかどうか少し考えてもらおうと思って一週間の時間をつくりました。」


サクラ「・・・そうですか・・・」


カナタ「あなたの記憶はあなたを構成するうえでとても大切な記憶だとも思えます」


サクラ「・・・はい、この一週間悩みました、この記憶がなくなったら、私が私ではなくなってしまうのだろうと・・・先週、カナタさんに話を聞いてもらって、ミルクティーをいただいた瞬間に・・・なんていえばいいのでしょう?・・・崩れたというか・・・」


カナタ「そうですか」


サクラ「・・・あ、いい意味でですよ」


カナタ「はい」


サクラ「だから・・・記憶は大事にしたいと思っています」


カナタ「・・・それはよかった、では・・・どうしましょうかね」


サクラ「え?」

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