第十九話【大韓民国の価値観と利益】
さすがの加堂官房長官(?)も『大韓民国を助けるために戦争協力だ』などというスローガンは日本国民に受け入れられないと認めるしかなかった。
「それは正しい感覚だ。が、政治家たる者もう一歩踏み込んでなぜ『そんなことは言えない』かを考えてみるべきだ」砂藤首相は言った。
「なぜ考える必要があるんですか?」と加堂官房長官。
「この状態のままでは戦争協力したために選挙で大敗、政権交代ということすら考えられる。いいかね、これは他人事じゃない。私だけの問題だと思ったら大間違いだということだ。加堂さん、政権内野党をやっている場合じゃないんだぞ」
加堂官房長官は押し込められ何も言えなくなる。
それは党内の反砂藤派に対する強烈な牽制球でもあった。このところ『与党は物言える政党だ』として反砂藤の立場をアピールする議員達がマスコミに持ち上げられている状況があった。
砂藤首相は尚もキツく言う。
「——『大韓民国を助けるための戦争協力』を日本国民が受け入れてくれるなら問題は起こらない。だが現実はそうじゃない。そこで受け入れて貰うためになにがどう変わればいいか、『考えろ』、ということだ。本来ならばこんなことは『日韓友好』を謳う日韓議員連盟のセンセイ方の仕事だ。彼らは口で無責任に『友好を』と言うばかりで考えることをしない。『大韓民国を助けるための戦争協力』が日本国民に受け入れられそうもない理由、政治家ならまずそこから考え始めるべきだ」
砂藤首相はじっと加堂官房長官を見て目を逸らさない。
加堂官房長官は悩みながら答えを絞り出す。
「——つまり、その、左翼・左派・リベラルは元々『戦争反対』で『憲法九条改正反対』ですから韓国のためだとか言われても賛同するはずがありません」
「では中道・右派・右翼辺りは?」
「一部の右翼は『大韓民国を助けるため』に賛同するかもしれません」
「そもそも『右翼』なんてあまりいないんじゃないか」
「しかし中道や右派ならある程度は理解してくれるのでは……」
「〝ある程度〟ってどの程度?」
「解りませんよそんなことは。しかし韓国は『基本的価値観を共有する隣国』だったはずです」
「〝だった〟なんて過去形になってるじゃないか」
「揚げ足を取らないで下さい。ともかくです、ある程度の価値観と戦略的利益とを共有しているはずです」
「解ってるんだろ加堂さん、そんな理屈じゃ日本国民の説得など不可能なことくらい。なにせ外国のための戦争をやろうってんだ。その外国にある程度の好感度ってものがなけりゃ最低限の協力すら否定される。だいたい韓国の持っている価値観と聞いて日本人がまず思い浮かべるのは『慰安婦問題』じゃないか。そして韓国の利益ってのは『慰安婦問題で世界中から未来永劫日本人が責め立てられること』じゃあないのかね」
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