第十四話【非核保有国の新たなる策略】

「今ひとつ言わせて貰えば『核兵器禁止条約』、あれにどう説明をつける? あれは非核保有国が核保有国に立ち向かっているんじゃないのかね。数の力で」砂藤首相は言った。


「総理、あなたは心にも無いことを言っている! あなたは『核兵器禁止条約』など支持していない。アメリカの提供する核の傘を当てにしようとしていただけじゃないか」


「確かに。それは難しくなってしまったようだ」


「アメリカの核の傘が当てにならないと考えるならなおさら刺激しちゃいけない。もう北朝鮮は核を持ってるんだ。政治家は特に与党は、総理大臣は現実主義者でなくちゃいけない」


「私は現実主義だが」


「どこがです?」


「核の傘の基本理念は『核には核を』という現実主義だ。私はこの原則を貫いているつもりだ」


「どう貫いているのか理解できませんが」


「核兵器を持ってしまった北朝鮮に言うことを聞かせられるのはやはり核兵器を持った国以外あり得ない。アメリカがダメならロシアと中国を動かせばいい、と、そういうことだ。核保有国に対抗できるのは核保有国だけだ。その核保有国をどう動かすかを考えるのが我々の仕事だ」


「小国への侵略をそそのかすことが私達の仕事なのか⁉」


「核兵器を放棄すればロシアや中国が北朝鮮を占領するための大儀名分は無くなる。そして核兵器が自国を護らないという証明にも繋がる」


「だが核兵器を持った大国が一国を占領できるという悪しき先例となる!」


「そうはならない。なぜなら『北朝鮮が核を売る可能性がある。核兵器がテロリストの手に渡ったら確実に使われる。核兵器を使わせないために北朝鮮を占領する』と核保有国に言わせることができるからだ」


「意味が解りませんが」


「解らないのかね? ロシアや中国といった核保有国自身に『核兵器を使わせないため』と言わせるところに意味がある。ひとたび『使わせない』を大義名分にした以上は自らの都合で『使うぞ』とも言えなくなる」


「ロシアや中国ですぞ総理、彼らは平然と『自分たちは使うぞ』と言うかもしれない」


「加堂さん、あなたも言うね」


「えっ、あっ、いや今のは本心とは少し違うというか——」


「彼らが『自分たちだけは核を使う』と言ったら言ったで別に構わんよ。その時はロシアや中国の地位を失墜させることが可能となる。その時こそネガティブキャンペーンの機会到来だ。『核兵器禁止条約』という一種数の暴力でロシアや中国を非難の海に沈めることができる」


「ふん、そんな虚勢が通じるものか」


「世の中の流れなんて解らんよ。内燃機関を動力とする自動車が今や絶滅危惧種になりかかっているじゃないか。核保有国と非核保有国を比べれば非核保有国の方が圧倒的に数が多いのは事実だ。そんな中核保有国が横暴をすれば連中の権威など簡単に失墜させることができる」


「それが虚勢だと言うんです」


「加堂さん、核保有国が国際的地位を落とす事は好ましいことだ」


「そりゃ好ましいでしょうな。基本は、ですが」


「つまり第二次世界大戦の戦勝国が国際的地位を落とす」


「なっ⁉」


「核兵器を持っていることを理由に公然とその連中の国際政治力を磨り潰せれば最終的に我が国の国益となる」


「あなたは極右か⁉」


「そんな『キョクウ』なんていう単語一つのレッテル貼りが今どき効くかね? 私はまず『核兵器を持っていても使えない兵器にする』ことを目的としている。『テロリストが核兵器を使うのは悪いが国家が使う分には構わない』などと、人を納得させうる意見だろうか?」

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