第十話【日中首脳・電話会談(その3)】
「プゥチャーチン大統領にも同じことを話しましたが放射能の怖ろしさは既に世界中に知れ渡っています。我が国では2011年3月の東日本大震災に伴って発生した大津波によって原子力発電所が事故を起こし放射能漏れを起こしました。駆けつけた外国の救助ボランティアのいくつかは放射能と聞いて恐慌状態に陥り到着するなり本国に帰国してしまいました。核攻撃を受けた広島・長崎が奇跡の復興を遂げたのは放射能に関しての知識が普及していなかったが故の蛮勇があったればこそです。貨物船水爆テロで廃墟となってしまった都市を復興させようと働く人間など、もはやいません。失われた繁栄は二度と取り戻せないのです」
葉首相は半ば呆然としながら砂藤首相の話を聞いていた。砂藤の話しはまだ続いている。
「私はICBMというのは目くらましだと考えています。最大の危険は北朝鮮の核兵器そのものです。もはや北朝鮮核問題は一刻の猶予もありません」
〝北朝鮮が核兵器を輸出しないよう国際社会が結束し約束をさせればいい〟
いつものテンプレートに沿った音声が無意識に口から出ていた。『対話で解決』という常套句。
「葉先生、心底そう思って言っていますか? 北朝鮮が国際社会と結んだ約束を忠実に守り続けるとそう信じていますか?」
〝……一理はある……〟
プゥチャーチン大統領同様、中華人民共和国を率いる立場にある葉首相もまたマヌケな指導者になることは躊躇われたのであった。砂藤首相はダメを押すようにさらに続ける。
「ではもう一つそれに足しましょう。北朝鮮とイスラム教徒の間には一切の遺恨はありません——」
うぅん、と葉首相はうめき声を出す。
「北朝鮮がイスラム過激派に核兵器を売ろうと、北朝鮮にとってリスクはありません」
さらにうめき声。
「マレーシアでの事件を思い出して下さい。北朝鮮の最高指導者の兄がマレーシアの空港で暗殺された事件を。あの時の彼らのやり口を思い出して下さい」
〝VXガスでしたか〟
「それは殺害するために使われた凶器に過ぎません。最大の焦点は北朝鮮が東南アジアの女性の手を血で汚させて暗殺を成功させたということです。北朝鮮工作員の男たちは全て本国に無事帰還しています。このやり方は核テロでも使えるということです」
〝北朝鮮はミサイルを使わずに目的を達成すると言うのか?〟
「ミサイルを使ったら最後、誰がやったか分かってしまう。その結果空爆されるでしょう? だから他人にやらせるんです」
葉首相は悩み始めた。
(現実に北朝鮮は国内の〝親中派〟を根こそぎ排除している。何らかの悪心を抱いているのは確実だ……)
だがしかし——
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