第七話【日ロ首脳・電話会談(その4)】

「日本は出しませんよ」あっさりと砂藤首相は言い切った。


〝もう一度訊くが日本はロシアと中国の北朝鮮駐留経費の支払いの意志は無いと?〟


「ありません」再び砂藤首相は言った。


 ことある事にカネを出すと言い出す日本が今回に限りカネは出さないという。不審と不満を感じたものかプゥチャーチン大統領は尋ねた。


〝カネの問題は深刻だ。何かをしようとすれば費用というものが掛かる。まさか我が国(ロシア)や中国に『自腹を切れ』と言うつもりなら話しにならない提案だ。そこの説明を訊きたい〟


「簡単です。北朝鮮自身には自立再建の力があります。国富を惜しげもなく核兵器とミサイル開発につぎ込んできたのがこれまでの彼らです。つぎ込む必要が無くなればその分お金は浮くでしょう。それにいくらかは同じ民族である大韓民国に拠出してもらえばいいのではないですか」


〝まさか日本は全く出さないというつもりなのか?〟


「誤解の無いように言っておきますがロシア軍や中国軍の進駐費は出せないということです。ある意味当たり前の話しです」


〝まあそれはその通りだろう〟


「ただし、北朝鮮が国連の管理下ということになれば、人道支援の名目である程度まではカネを出すことが出来る」


〝なるほど、『人道』か。『悪逆無道な政権から人民を救う』、そういう目的を示しておけばあのアメリカ人達も簡単に非難はできなくなる〟


「ただし『人道』を語るからには速やかに事を決しなければなりません」


〝ある意味我がロシア軍の手際の良さが試されているというわけか〟


「もちろん中国軍もですが」


〝解っている。朝鮮半島の北半分を我が国(ロシア)の直接影響下に置けるかもしれないという貴国(日本)の提案は大いに検討に値する〟


(これは故意に言っているのか?)


〝だが言いだした日本が途中で逃げる可能性を懸念している〟


「その答えなら既に明らかにしたと考えますが」


〝念というのは何度でも押すものだ。北朝鮮とは言え独立国だ。その独立国を『軍事力を使って占領してしまえ』と発案している時点で『侵略者を許すな』と、国際的非難を浴びるのは日本になる。果たして耐えられるのかな?〟


「しかしその非難する国の中にロシアと中国は入らないのですよね?」


〝中国人はどうだか解らない。しかしもしロ中が共同で事を起こした場合我が国(ロシア)と中国、それに貴国(日本)も共同正犯ということになるからな〟


「『侵略者を許すな』という非難なら大丈夫です。北朝鮮に進駐はしても北朝鮮という国家を亡ぼすわけではありません。新たな北朝鮮政府と駐留のための協定を結べばいいのです。丁度日米安全保障条約と同じようなものです。こっちには世界の安全を護るためのもっと大きな大儀があるのです。非難してくる者には言論戦を戦う覚悟はある」


 砂藤首相はここまで言ったがプゥチャーチン大統領はさすがに承諾することはなかった。しかし否定もしなかったのである。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る