第五話【日ロ首脳・電話会談(その2)】

〝ではテロリストはどのように水爆を攻撃対象都市まで運搬するというのだ?〟


「貨物船に積めばいいのですよ」




〝貨物船の積み荷に……紛れ込ませる?〟


「ええ、そうですよ。北朝鮮が公開した写真に拠ると彼らが開発した水爆は大きめの食卓の上に乗るくらいのサイズでした。あの大きさが真実ならコンテナの中に紛れ込ませることは十二分に可能です。攻撃目標都市が海に面していれば核テロ攻撃は可能です。沖合二百メートルくらいで水爆を起爆させればいいのです。入港前の船の積荷は入官で調べようがありませんから核を積まれて出航されたら最後です」



 プゥチャーチン大統領は黙り込んだ。


「ちなみに私がロシアの政治家ならウラジオストックが危ないと考えます」


〝ウラジオストックだと?〟


「もし水爆テロが起こったならこのロシアの極東の重要都市は一瞬にして壊滅します」


〝なぜウラジオストックと考えた?〟


 その問いに砂藤首相は迷うこともなく言い切る。

「つまり最もロシア連邦という国家にダメージを与えられる攻撃目標だということです。ウラジオストックを失えばロシアは国土の東半分が永遠の空白地帯になると言っても過言ではないのでは?」


〝なぜ東半分も失うと言うのか?〟


「ひとつ、被爆国の立場として言わせてもらいますと広島・長崎が核攻撃を受けながら奇跡の復興を遂げたのは『知らないが故の蛮勇』があったればこそです」


〝なにを知らないという?〟プゥチャーチン大統領は呻くような声で問い返す。


「放射能の怖ろしさです。広島・長崎の復興時には残留放射能だとか被爆とか、その手の知識が普及していなかったが故に街が放棄されなかったのです。だが今や時代が違う。我が国(日本)においては2011年3月の東日本大震災に伴って発生した大津波によって原子力発電所が事故を起こし放射能漏れを起こしました。我が国に駆けつけた外国の救助ボランティアのいくつかは放射能と聞いて恐慌状態に陥り到着するなり本国に帰国してしまいました。仮にウラジオストックがテロリストの水爆攻撃で壊滅した場合、誰も復興のために現地に入り、街を再建しようとは考えないのではないですか。私に言われたくはないでしょうが丁度チェルノブイリの街と同じことになります。確実に言えるのは一旦放射能というイメージがついてしまったら人口流出はあっても人口流入はあり得ないということです。ただでさえロシア連邦は国土の東半分の人口が希薄です。ウラジオストックで事を起こされたらそれはもう致命的ではないでしょうか?」


〝放射能か……〟プゥチャーチン大統領は自問自答するかのように言った。


「ええ、これが私がICBMより核兵器そのものが重要だと考える理由です。我が国(日本)はとっくの昔に北朝鮮製の中距離ミサイルの射程に入ってしまってますから実は北朝鮮のICBM開発で改めて騒ぐのもおかしいのです。ですがアメリカ合衆国では認識が違っています。全てとは言いませんがアメリカの中ではICBMに気を取られている人間が実に目につく」砂藤首相は言った。


〝この奇妙な電話会談はそのために行われているということか?〟


「その通りです。これは日本の独自外交です」


〝重要な決断だ。確かに北朝鮮の核ミサイルの飛距離が伸びた途端にアメリカ人が騒ぎ出した〟


「アメリカには海に面した都市が一つも無いというなら話しは別ですが」砂藤首相は言った。


 ハハッ、とプゥチャーチン大統領は乾いた笑い声を出した。


〝アメリカに核兵器を運んでみたいという運搬人志願者は増えこそすれ減りそうもない。我が国(ロシア)以上にイスラム教徒達に恨まれている国がアメリカだ〟


「その予測される悲劇を回避するため知恵を絞らねばなりません」


〝実に興味深い。聞かせて貰おう『北朝鮮核問題の最終的解決法』を〟プゥチャーチン大統領は訊いた。


「それでは、ロシア軍は中国軍と共同で北朝鮮国境を越え、部隊を北朝鮮全土に電撃進駐させてください」砂藤首相は言った。

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