第三話【北朝鮮は日本だけを核攻撃する】
アメリカ合衆国・ジョンストン大統領との電話が切れてから、日本国首相・砂藤英策は核兵器からどう自国の安全を護るのかと、そればかりを考え続けている。
(とにかく、まずどうにかすべきは北朝鮮の核問題だ。全てのきっかけはあの国の核開発から始まっている)
(アメリカ合衆国は明らかに核兵器の使用を渋っている。それが元職・現職の米戦略軍司令官の発言に現れている。これでは『核の傘による核抑止』は当てに出来ず、『核兵器禁止条約』に期待しても当該国を処罰することが不可能だ。そして北朝鮮に対する経済制裁は必ず穴を開ける国が出てくる。同盟国の軍事的対抗措置を頼っても多国間の協調路線を頼っても効果が見込めないとなると、核危機の解決法はひとつしかない)
即ちそれは『外交でなんとかする』以外には無い、ということ。それも日本独自の外交でなんとかするしかない。
(バカの一つ覚えの連中は言うに事欠くと『外交で解決しろ』と言う。バカの一つ覚えの連中は『外交』という単語を使って『しろ』と命令するだけで済んでしまうが我々政治家はそれでは済まない)
(肝心なことはどう外交すれば解決するか、——だ)
(——まずは分析——だ)
(北朝鮮には脅しは効かない。その〝脅し〟が実行に移された場合は効くだろう。ただし〝脅している間〟は効かない。『脅し』というのはしょせん口で言っているだけだからだ。
故に北朝鮮を脅せば必ず反応し脅し返してくる。ごてごてとした装飾過多の文字列を連ねて)
(だから『脅すな』と言う人が出てくる。脅すから脅し返され緊張が高まるのだ、と言う)
(一見もっともらしい意見だ。それなりの説得力もあるだろう。だが政治家の立場から言わせてもらうなら反応してくれるということは『判断材料』を北朝鮮自身が提供してくれているとも言える)
(その『反応』は、北朝鮮を脅さなければ解らなかった貴重な北朝鮮の本音だ。これは今後の外交指針を決めるに当たって、大いに『判断材料』となる)
北朝鮮がとある本音を吐露した。
2017年9月14日、日本人にとって決して看過することができない記事が配信された。むろん日本国の内閣総理大臣の地位にある砂藤英策にとっても。
前日、9月13日、北朝鮮の『アジア太平洋平和委員会』なる団体が国連安全保障理事会の新たな制裁決議に反発する報道官声明を発表した。
声明はアメリカ合衆国、大韓民国、日本国の三カ国を名指しし、それぞれを激しく非難した。
だがなんと、核攻撃を予告されたのは日本だけなのだ。
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アメリカ合衆国に対する声明。
『米国の地を焦土化する。報復手段を総動員して我々の恨みを晴らす』
アメリカ合衆国に対しては「焦土化」「報復手段の総動員」とは言っているが、具体的に「核攻撃する」とは言っていない。
大韓民国に対する声明。
『強力な集中攻撃で親米逆賊集団を掃討する』
大韓民国に対しては「強力な集中攻撃」と言ったのみで、やはり具体的に「核攻撃する」とは言っていない。
日本国に対する声明。
『日本列島4島をチュチェ(主体)の核爆弾で海に沈めなければならない』
日本国に対してのみ「核爆弾」と具体的攻撃手段を口にした。
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北朝鮮という国家を形成する人間達が日本人についてのみ、『核虐殺しよう』という声明を出した。これは、事実だ。
砂藤首相は考える。なぜ、日本だけなのか、を。
(核保有国には遠慮するが非核保有国には遠慮をしないというわけでもない。現に核兵器を持っていない大韓民国に対しては核攻撃を示唆してはいない)
(核兵器の保有・非保有は関係がなかった)
(これは『戦力を保持しない』とする憲法九条のせいか。はたまた『核兵器を持たない・作らない・持ち込ませない』という非核三原則のせいか)
(それらのものが無い国に対して北朝鮮は『核攻撃』を口にしなかった)
(この現実から日本の問題が奈辺にあるかは既に分かり切っている。しかし非核三原則を見直すだけでどれだけ政治的なエネルギーが必要なことか。ましてたった今憲法九条改正を行い公然と『戦力を保持する』と宣言するなど不可能だ)
(もう既に改革などやっている時間はない)
砂藤首相は考え続けなければならなかった。
なぜならあまりにも急激に状況が変わってしまった、だから。
(ことは緊急を要する。しかし手段は極めて限られる)
(『——外交で解決しろ』——人は簡単に言ってくれる。この常套句が使われる場合の外交相手国は決まって日本と敵対的な国だったりするというのに。しかもこの〝外交〟は『軍事力を背景としない外交』なのだ)
『軍事力を背景としない外交』など普段の砂藤首相ならばさりと切り捨てていたところだ。
とは言え、伝統的にこの長年の政権与党は自国の軍事力は背景としないが『他国の軍事力を背景とした外交』は、してきた。それが『日米同盟』だった。
だが『日米同盟』の基幹部分とも言える『核の傘』をどう日本に提供するかについてアメリカ軍人が最終的な判断をするということにアメリカ合衆国がしてしまった以上、『他国の軍事力を背景とした外交』も出来なくなってきていた。
本当に純粋に『軍事力を背景としない外交』をするよう、状況の方が砂藤首相に迫っていた。そうやらねばならないところに追い込まれていたのだ。
(要は私はアメリカ合衆国という国を買いかぶりすぎていた——)砂藤首相は思った。
(しかしそれはもはや泣き言だ。もはや外交しかない。それも破天荒でないと——)
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