His Diary

 私は興味本位で、弟のPCに入っている日記を読み始めた。

≪3月4日水曜日、快晴。今日から日記をつけることにします。今日は本当に良い天気で、絶好のドライブ日和になりました。気持ち良すぎて窓を全開にしてたら、まだ寒くて、危うく風邪を引きそうになって、すぐ窓を閉めました。明日は、風邪ひくかな?ひかないかな?わっかんないやっ!まあ、多分大丈夫だろう。≫

 こいつ、話グッダグダだなぁ。適当すぎるだろ。

 私は思わず"クスッ"っと笑ってしまった。

≪まあ、多分大丈夫だろう。とにかく、今日も無事に生きられました。明日も無事に生きていこう。以上。≫

 え?一日分がこれだけ?はぁー。まあ、"あいつらしい"っちゃ、あいつらしいな。

 私は呆れながら、次の日の日記のフォルダを開いて読んでいく。

≪3月5日木曜日、快晴。今日も昨日に続いて良い天気!なのに仕事があるから遊べなかった。≫

 当然だろ。

 私は心の中で、すかさずツッコんだ。

≪仕事は本当に楽しいな。今日もいっぱい失敗をして先輩にたっぷり叱られた。でも、どんなに叱られても、やっぱり先輩たちはカッコいい。早く先輩達みたいになりたいな。なれるかな?ま、頑張ったらなれる筈。とにかく、今日も無事に生きられました。明日も無事に生きていこう。以上。≫ 

 最初は呆れかけたけど、仕事についてあまりに楽しそうに語っている文を見て、少し微笑ましかった。

≪3月6日金曜日、曇天。今日は曇ってた。でも、仕事してたら関係無いけどね!≫

 じゃあ、なんでいっつも天気の話してんのよ。

 またしても私は思わずツッコんでしまった。

≪今日は、先輩たちに色んな事を教えてもらった。相変わらず先輩達は何でも教えてくれて、感謝してもし足りないくらい、スッゲー良い人達!本当に憧れるなぁ。≫

 フフッ。語彙力どうなってんのよ。でも、糸織は本当に憧れていたんだろうな。

≪本当に憧れるなぁ。後、今日は咳と鼻水とくしゃみが止まらなかった。風邪をひいたかも知れない。でもなんでだろう?心当たりが全くないんだけどなぁ、まぁいっか。とにかく、今日も無事に、無事?無事か、無事に生きられました。明日も無事に生きていこう。以上。≫

 いや、それ一昨日のやつ!!お前が車の窓を全開にしたせいだろ!お前、日記書いてるんだったら振り返れよ!二日前のフォルダに書いてあるから!!!てか、風邪ひいてるのに無事なの⁉なに基準だよ!てか、誰に聞いてんの⁉しかも自己完結かよ!そして、雑っ!!

 もう、心の中で盛大にツッコんだ。私は日記を読み進めている内にクスクスと笑い出し、次第に声を出しながら笑うようになっていた。

 しかし、ある一文が目に入った瞬間に、私は笑うのを止めた。


≪本当に綺麗な景色だったなぁ。"姉さん"にも見せたい。≫


 私は思わず、眉を顰めた。

 『"姉さん"?一体、誰のことだ?』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る