Discovery

 結果として、あの後私は職場に電話をして、3日間の忌引休暇をもらい、その3日間の間に糸織の葬儀は滞りなく行われた。


 日が過ぎて、糸織の命日から数えて45日が経った4月28日土曜日。明日に四十九日を控えた私達家族は、糸織の部屋に来て遺品整理をしている。

 糸織は綺麗好きだったのだろう。初めて来た糸織の部屋は、男の独り暮らしとは思えない程綺麗にされていた。そのお陰で遺品整理が着々と進んだところで、一冊の手帳サイズのノートが私の目に入った。

 私が本棚からそのノートを手に取って表紙を見ると、タイトルには筆記体で『Diary』と書かれていて、右下には手書きで『Iori Sato』と、糸織の名前が油性マジックで書かれていた。

(『Iori Sato』って、何時からお前は外国人になったんだよ)と、つまらないツッコミを入れながらもノートを開いてみると、その1ページ目には殴り書きで衝撃の文が書いてあった。


『鉛筆代が勿体無いから、やっぱパソコンに書こう!!』


ズルッ


 なんとなく気が抜けるような、右肩が滑り落ちるような感覚がそこにはあった。糸織の宣言・・・もとい、宣文通りに、そのページ以降は最終ページに至るまで何も書かれておらず、弟の情報を期待していた私としては少しガックリするところがあった。すると・・・


ペリッ


 突然、何かが捲れるような音がした。

 私はあれ?と思い、パラパラとページを振り返り、1ページ目に戻ったところであることに気づく。さっきは内容に気を取られて気づかなかったが、表紙の裏側、俗に言う表紙裏に長方形の切れ目があった。そこには、表紙裏のクリーム色の紙とはまた少しトーンの違う色の紙がシールのように貼られていた。

 私がペリペリとそのシールを捲ると、裏側には『PC&スマホ用パスワード』という文字が書かれていて、その下に8桁の数字と4桁の数字が書かれていた。

 つまり、今までロックがかかったままで開かれることの無かった糸織のPCとスマホのパスワードが、そこに記されてあった。そしてそれは同時に、今までなら、開かれることがなかった筈の糸織のPCに、これまでに糸織が残した、つまり糸織自身の言葉がそこにあることを表していた。

 ここで私は、咄嗟にある事を両親に頼んだ。

「ねえ、父さん母さん。」

「ん?」

「糸織のPCとスマホ、私が預かってもいい?」

 機械に弱いからなのか、両親は私の言動をすんなり許してくれた。そして、糸織の四十九日が無事に済んだ後、私は糸織の遺品をいくつか持って、ひとり暮らしの部屋に帰り、糸織の日記に書いてあったパスワードでPCを開けてみた。そこには大量の写真フォルダと、『日記』と題された文書フォルダが3年分残されてあった。

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