My Little Brother

Chika

Anniversary Of A Person's Death

 私には、2歳下の弟がいる。

 小さい頃から何をするにも一緒にいて、ずっと私の後ろをヨチヨチと雛鳥のようについて来る、そんな可愛い弟。

 弟は生まれつき病弱で、病院に通うことがよくあった。

その度に病院の先生や、入院している子どもたち、知らないおじいちゃんおばあちゃん達と仲良くなっていた為、弟は誰とでも気軽に接することが出来る優しい性格に育ち、怒ることが一度もなかった。だからこそ、弟には今までに反抗期と言えるものが無く、やはり怒った姿を見た人もいなかった。そしてそれは、今までだけの話ではなく、これからもなのだと私は断言する。いや、私だけではなく、弟のことを知る人は皆そう断言するだろう。

 何故なら弟は、もうこの世に存在しないから。


 3月15日の朝8時頃、それは突然の連絡だった。

 私が仕事に行こうとした時、母親から電話がかかってきた。

 ピリリリッ ピリリリッ

「もしもし、母さんどうしたの?」

 私は、いつものようにどうでもいい内容だと思いながら、気の抜けた返事をしたが、電話越しの母の声はかなり震えていて、今にも泣きそうなくらいの、緊張感溢れる涙声だった。

「志織!今日と明日は仕事休んでっ!!早く実家ウチに帰ってきて。」

「え、何?どうしたの急に?仕事休めって言ったって、そんなの無理だよ。てか、なんで??」

 話の見えない母親からの急な話に私はついていけず、ひたすら困惑することしかできなかった。

「良いから、早くして!!糸織が、糸織が、、」

「え?糸織になんかあったの?入院?手術?」

 私の質問に母はどちらでもないと答え、その途端に母の声から焦りが消え、電話口からは母の泣き声が聞こえてくる。

「糸織が、死んだの。」

 私はその一瞬、まるで時が止まったように感じた。

 ワンルームに置かれた姿見に映る私の顔は、目と口がきれいに開いてしまい、呆然という言葉が実にピッタリ当てはまった。

「え?嘘でしょ?」

「グスッ。母さんも、そう思いたいよ。」

「え、、、ホントに?何かの冗談じゃないの?ねぇ?本当は嘘なんでしょ?ねえ!嘘だって言ってよ!母さんっ!!」

 人間という生き物は、本当に信じられない事があると、どうしてもその事柄が嘘ではないかと疑い、現実逃避をするのだと、その時に身を持って体感した。そして、私の問いかけに母は無言で返し、そこでようやく弟が嘘でも冗談でもなく、本当に死んだのだと、私は認識した。その刹那、弟との今まで記憶が走馬灯の様に蘇り、その弟が死んでしまったという、とても受け入れ難い事実が頭の中でアラームのように鳴り響き、私の頭の中は見事にパンクした。そして姿見に映る私は、いつの間にか涙を流していた。

 ウワァーーーーーーン

 3月15日の朝8時。いつものように、近くの学校で子ども達の高らかな笑い声が響き渡る中、その声に混ざるようにして、私の泣き声が鳴り響いていた。

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