五十九「潜入モノあるある」
「……来たぞ、アレだ」
俺が小声で合図するとロヴが魔力を高めて魔法を放つ。
作戦通り馬は暴れて、中から魔物の兵士が飛び出てきて馬を落ち着かせている。
「……よし、ロヴ」
「うん。……ビジクル」
俺の目の前でナビィが消えて、次に俺も魔法をかけられた。
ちなみにロヴだけは少し時間を開ける。
そうすると魔法を掛け直している最中に効果が切れて姿が見える事がないからな。
俺はロープを引っ張って反応を確認した。
「走るぞ、置いてかれるなよ」
俺らは馬車一直線に走り出した。
荷台に飛び乗り、中の荷物の手前に屈む。
ひとまず完了。
乗ってから1分も経たない内に馬は走り始めた。
危なかった、流石は調教済みである。落ち着くのも想像より早かった。
だが、そのおかげで魔王城にある荷物搬入口から侵入する時間を増やしてくれた。
『何だよ急に……石でも踏んづけたか?』
『知らねぇよ、急がねぇと怒られるぞ!』
『へいへい』
耳を澄ますと魔物兵の声が聞き取れた。
これが俺の『魔王力』。集中すれば万種の生物の声が聞ける。
親父曰く、無機物の場合は長年使われずに放置されると自我を芽生えさせるらしい。
日本で言うところの付喪神だろう。
三分もしたら搬入口に着いた。
俺らは魔王城にいた見張りの兵が荷台に乗り込む前に外へ出る。
左と右のロープの反応を確かめながら搬入口から侵入する。
俺はこっそり二つのロープを結んでおく。
魔王城に入ると中に兵士が三人。
廊下を歩いている兵士が二人。
基本的に一人で歩く事はないらしい。意外と警備体制整ってるな……
俺はそろそろ五分が経ち、透明化が切れる事を危惧して大階段下の隙間に入り込む。
「……ここなら大丈夫だろ」
極力小声で二人に話しかける。
すると瞬きの間にナビィは姿を現していた。
多分、俺も既に見えているだろう。
「……次にロヴ自身が透明になったら……あそこの通路を突っ切って入り込めるところを探そう。先に見つけたらロープを引っ張ってくれ」
あ、ロープは御都合主義よろしく透明になります。と言うのも単純にロープにも魔法をかけているだけだ。
「魔法をかけるよ」
「あぁ。透明になったら黙るからロープで確認、いいな?」
「うん、ビジクル」
再び魔法をかけられる。
少し待ってロヴが消えたのを確認し、ロープを引いて通路の前まで行く。
そして、思い切りロープを引いた。
これで、二人とも走るだろう。
俺はそのまま繋いだロープを離して階段を駆け上がって行く。
……ごめんな、二人共。
ここから先は俺の仕事だ。
# # # # # #
「……ふぅ」
柱の裏から顔を出す。
素晴らしいな魔物の声聞けるって。近づいてきたらすぐ分かるもん。
いや、足音でも分かるんだけどさ……
俺の姿はもう見えるだろう。
つまり、ナビィとロヴが俺がいない事を確認出来た頃合いでもあるだろう。
……俺は紳士なので女子供に戦闘をさせない主義だよ。
『……でさでさァ……だよ』
遠くから兵士の声が聞こえる。
近づく足音は二つ。俺はまた同じ柱に身体を隠す。
『そうそう、俺らの声が聞こえない事を良いことに……こき使いやがって……』
『ブヒブヒ』
兵士一人と豚のような魔物が近づいて来た。
……つーか、アイツ喋ってると思ったら単純にブヒブヒ言ってるだけだわ。解読とかそう言うのじゃなくて普通にブヒブヒ言ってるわ。
『あー! 魔王様なら完全週休二日だったのになー! しかも残業手当くれて、オーバーした時間は次の出勤の時間を減らしてもいいからなー! アイツになってからはもう……家族とも会えない日があるからな?』
『ブヒブヒ……ブヒ?』
豚が俺の真隣で止まる。
それに合わせて兵士も止まる。
つーか、魔王城も仕事の一つなんだな。しかも手当しっかりじゃねぇか! 魔王妃になってからブラック魔王城ってか。喧しいわ!
それよりも……この状況はマズイ。
だって、俺の姿はもう消えてないんだから。
『んだよ、止まって。アレか、アイツ呼ばわりしたからか? ヘーキだって。魔王妃なんざ魔物の声も聞けないんだから。ったく、器不足で魔力が暴走してんの気がついてねぇんだよ……二人共な』
『ブヒブヒ……』
やばい、豚の目が探偵みたく鋭くなった……匂いか?!
確かに豚はトリュフを嗅ぎ分けるほどの嗅覚の持ち主だが……
ちなみに最近は豚よりも犬を使うらしい。理由は豚だとトリュフをかじってしまうらしい。
じゃなくて! そうなればマズイぞ……
俺は息すらも躊躇っている。
気配を消せ……アサヒ……
『いやさぁ? 魔王城はいいよ。暖房器具がしっかりしてるし。でもわざわざ薪やら火炎石集めるの面倒よな……しかも外出たら雪がスゲェのなんの。それに南じゃ草木も無いらしいぜ?』
『ブヒブヒ!』
『ん、何々? もっと愚痴を聞きたいって? しゃあないなぁ!』
今、豚と目が合ったよ!
ヤバイよヤバイよ! リアルガチでヤバイ……唯一の救いは兵士が気が付いていない事だが、それも時間の問題だろう。
『何が問題って、アレだよな。魔王妃様自体が魔力を暴走させてる事に気がついてない事だよな。しかも姉様と妹様で喧嘩してさ? 人間の国をどっちが手に入れれるかー? だって。笑わせるよな。人間なんて害ナシ得アリの最高種族なのに』
あ、ありがとうございます。
いや、俺って人間かどうか怪しいな。
親父は魔王確定なんだが、母親の種族が分かっていない。
けれど特徴的には人間っぽいがな……いや、それどころじゃない。
今はこの危機を脱出するのが先だ。
『はぁ……さっきから何だよブヒブヒって。……ん、足跡? 誰だよ土足で上がってる奴は……俺と同じで魔王妃様嫌いか? でも俺様ですら靴は脱いでるぞ? ……侵入者か?』
しまった。
つーか、聞いてねぇよ。靴脱ぐなんて。
確かに日本じゃ当たり前だったけどさ、他の国では靴脱がなかったからな? 人間の国を含めても。
兵士の影がゆっくりと柱に近づいてくる。
『……こっちに伸びてるよな』
柱の裏に手がかかる。
兜の先端が見える。
『……ここか?!』
兵士が一気に柱の裏に体を入れる。
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