六十「蒼冷の魔王妃様、麗しゅう」
俺は柱の裏に顔を覗かせた兵士にバレてしまった。
『侵入者か! よくやったぞブタヲ!』
あ、豚さんの名前はブタヲって言うんですか。知りませんよそんな事。
そして、流れるように足払いをし身体が倒れたところを全体重を持ってのしかかり、叫ばれないように口を塞ぐ。
そんな体術をやられました。俺がね。
「んん! んん〜!」
『へへ、いっちょあがり! どこから侵入したんだよ、ったく。さぁ、付いて来い!』
俺は手をロープで縛られて引っ張られ地下に運ばれる。
ここで秘策を施しておいたのは秘密である。
# # # # # #
「へぶっ! ……もう少し優しくしてや」
俺はよくあるごく普通の牢屋にぶち込まれる。
兵士達が何やら話しているのを盗み聞きする。
『よくやったぞ。こいつは男だから王妃様に献上する。報酬は沢山あるから期待しておけ』
『ヨッシャ! へへ、俺とブタヲのコンビに掛かればお茶の子さいさいだぜ!』
めっちゃご機嫌です事。
かなりやらかした感が否めない。
「……お兄ちゃん?」
前言撤回。
妹が牢屋に囚われている可能性があったから牢屋に来ただけだ。ぜぜぜぜ全部お通しだ。……焦りすぎてほうれん草のお浸しみたいになっちゃった。
「おう、我が妹よ。助けに来たぞ」
「いや、お兄ちゃんも捕まってんじゃん。……けど、嬉しい。寂しかった」
ラフィーはロープで壁につながれていて俺のところまで来れないようだった。
かく言う俺も繋がれているのでラフィーの所に行けないのだが。
なーんちゃって。この為の秘策さ。
俺は兵士が消えたのを確認してロープから手を抜く。
「よ〜しよし。可愛そうに。ほれほれ」
ラフィーの頭を撫でて頬を両手で挟んでいいように扱う。
するとラフィーが何か言いたげにしていたから少し間を開ける。
「……今、どうやってロープから手を抜いたの?」
「あぁ〜、コレ? ふっふっふ。これはな、ロヴちゃん直伝の盗賊の小技だぜ」
俺は元盗賊のロヴから話を聞いていた。
何しろ、縛られるときに手首同士をくっつけるのではなく、親指の付け根同士をくっつけると手を抜くスペースが出来るのだ。やってみてね。まず、縛られるような事がないと思うが。
「へぇ〜、ロヴの技かぁ.……そういえばロヴとナビィは?」
あ、俺も忘れてた。アイツら大丈夫かな?
「あ〜、あの二人とは別行動。こっそり抜け出したから怒ってそうだけど……」
「なんで単独行動?」
「そりゃあ、真っ先にお前を助ける為……って、なんでもねぇ! 一人が好きなだけサ!」
口笛を吹くがもう遅い。
ラフィーが身体をこちらに預けて。
「そういうお兄ちゃんのあざといところ、嫌いじゃないよ?」
「奇遇だな。俺も妹にベタベタされるのは嫌いじゃねぇよ」
俺がラフィーとイチャイチャしていると地下階段を降りてくる足音が聞こえた。
流石にロープから抜けているところを見られるとマズイので元の位置で外したロープを隠すように座る。
『出ろ! 王妃様への謁見を許す!』
それ謁見の意味間違えてませんか?
一方的な邂逅な気が……まぁ、何にせよ親玉に直行出来るのは嬉しい限りだ。
俺はバレないようにスカスカのロープを手首に通しておく。
そして、小細工した紙を二つ、ポケットに入れておいた。
# # # # # #
やはり親玉様は最上階らしく、馬鹿でかい階段を登って行く。
その最中にポケットから紙を捨てておく。
一つ目だけな。まぁ、他の奴にバレないように祈る事しか出来ないのだが。
『ふぅ…………緊張するなぁ……よし!』
兵士は緊張を雰囲気で出していた。
その時既に大きな扉の前に着いていたからだろう。
恐らく、ここにいる。
『入ります!!』
兵士が入って、俺も引っ張られるフリをして入る。
すると、目の前で兵士の頭が吹き飛んだ。
「……は?」
「んもぅ……うるさいわぁ……ん? あら、美味しそうなオトコ。こっちまで来てちょうだい」
冷徹な妖艶を醸し出しているのは横になっている魔王妃様。そう断言できる。
それ程までに悍ましい魔力を放っているのだから。
俺は飛んだ頭と離れた体で血溜まりを作る兵士にはなりたくないので、ゆっくりと前へ出る。
「……人間かしら。いいわぁ。すっごく。……早く来なさい!」
青白い細指が招くと、俺の体は一気に距離を詰めさせられる。
……なんか某神隠しの映画で見たことのあるヤツをやられた。
「名前は?」
「……アサヒ、です」
「そう。いい名前ね。もっと近づいて?」
白い吐息が甘く空気に蕩ける。
俺は恐る恐る歩みを進める。
「あ!」
が、段差に躓き、魔王妃にゴッチンコ!!
「あらあらぁ。大胆。いいわぁ。すごくいい。甘えん坊さんなのね」
俺は青色の双山に頭を埋めていた。
顔を引き剥がそうにも魔王妃の青い手で押さえつけられ、息すらままならない。
「ふふ、美味しそうな匂い。……あら、あらあら? あらあらあらあらぁ?」
魔王妃が楽しそうに俺を見ている。
解放された頭を上げると、口に手を当ててニヤついていた。
「貴方、魔王の血を引く子ね? ふふ、やっと手に入れれた」
紫色の舌で紺色の唇を舐め回し、水色の瞳は俺の事を『標的』として捉えていて、俺の顎に青色の手がかかっていた。
「ルシフの血筋……混じり気はあのクソ女、ガヴリーのね。あぁ、汚らしい。そして、綺麗。貴方の純潔な混血を啜りたいわ。よくって?」
答えは勿論。
「だめです」
「ふふっ!」
青色の魔王妃は無邪気に笑った。
寒気は依然、止まらない。
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