五十八「ステンバーイ」
「あ、やっと起きた」
「起きたら目の前に顔があるのも如何なものかと思うけどな。おはようさん。どんな塩梅だ?」
ロヴに現状確認の申し出をする。
俺は眠りこけてた(意識飛んでただけだが)ので現状把握がままならないのだ。
「ナビィとウチでアサヒを乗せて移動。今は魔王城の近くの木の裏に馬車を止めてる。……やっぱ魔力の流れが違うね」
やはり親父の言う通り魔王城に着いていた。
俺もロヴに倣って魔力の流れを読む。
禍々しいオーラが城を取り囲んでいて、近くの草木も枯れてしまっている。
見るからにラストダンジョン的な雰囲気。
まぁ、ここは北なので南にも行かねばならないからラストダンジョンではないのだが。
「……揃ったな。さて、どうする?」
馬車の運転手であるナビィも中に入ってきたところで作戦会議。
まさか正面突破なんて馬鹿はしない。
城の構造はわからないが王様や王妃様がいるのは最上階であるのは鉄板中の鉄板。そして牢屋は地下。
推測の域は出ないがそれくらいの推測はできる。
「……ウチ、透明化の魔法使えるよ?」
あら、さすが元盗賊娘。
それである程度の観察をするのも良しか。
決まりだな。
「じゃあ、俺が単独で城の周りを散策してくるからお前らは待っててくれ。あと、なんか書くもの書けるものを用意。地図描くわ」
俺は紙と羽根ペンを受け取るとロヴに魔法をかけてもらった。
「ビジクル。これで大丈夫。効果時間は大体五分。気をつけてね、自分じゃ効果が切れてるかわからないから」
俺は了解とだけ伝えると馬車から飛び出した。
# # # # # #
「見張り……表で十人程。裏で五人程。……どこの世界も裏はかかれるためにあるな」
俺がボソリと呟くと見張りが反応したので声は隠せないようだ。
仕方がない、時間もないので走って城の周りを見る。
地図は後でまとめて描こう。
俺が裏まで回ると何やら馬車が停滞して積荷を下ろしている所があった。
そこで一枚岩のような城壁にポッカリと空いた搬入口が見えた。
……荷物に紛れるのが一番か。
俺は体感三分を感じた所で馬車まで戻る。
五分までいれば帰りの姿が見えてしまうからな。
ん? 何故三分か分かるかって? ……現実世界でインスタントラーメンをよく食べてたからな。体に染み付いてるんだよ。
俺が馬車に戻ると不自然な揺れに二人は一瞬驚いていたが、丁度よく俺の姿が見えてきたようだった。
「お帰り、どうだった?」
「完璧。……描きながら説明するから見てくれ」
俺は紙に絵を描いていく。
「まずは表入り口、ここに三人、こっちに三人で全方向を見れるようにしてる。んで、二つの高台に二人ずつ、計四人が遠くを観察してる。表だけで十人の見張りがいた。……流石にこれを五分で切り抜けて中の安全地帯を探すなんて出来ない」
「じゃあどうするの?」
「そこで裏を確認してきた。城壁がずっと続いてて、入り込めそうな窓も鼠返しアンド針が無数にあって無理そうだ。……だけどここに。ここに、何かの搬入口があった。見張りも搬入係含めて五〜七人がいいところだろう。ここから攻める」
魔王城は城の周りこそあまり広くはないが、縦に大きい。
もしかしたら地下だって伸びてる可能性はあるけども。
「んで……透明化魔法って重複制度は?」
「ないね。一度効果が切れないとまた掛けるのは無理。……魔女だったら一時間以上も消えれるけど、ウチには無理だから」
「いや、そんな卑屈になんなくていい。作戦を練るのが今のすべき事だから。無い物ねだりしたって無い物は無い。次また使う場面があれば、その時までに効果時間を増やしてくれればいいから」
俺はロヴの頭を撫でながら作戦を練る。
まずは魔王城に行く馬車を止めないとな。
その荷物に紛れれば搬入口までは軽く行けるはずだ。
止め方……ナビィ? いや、流石に魔王城行きの馬車が一端の運転手の声に耳を貸すなんて事はないだろう。だって、調教とはその為にあるのだから。
じゃあ、どうするか?
俺は少ない情報と記憶を思い出す。
ロヴの使える魔法は……睡眠魔法、重力魔法、肺活量増加魔法……ぐらいか。
一番使えそうな睡眠魔法は……眠らせるだけだから起きるタイミングは馬次第になってしまう。しかし、それだと時間がかかるかもしれない。
「なぁ、馬の動きを止めるにはどうすればいいと思う? ……大体、三分くらいかな」
俺が走って移動できた距離と馬車の範囲で計算すれば三分で馬車に乗り込みが出来るだろう。
だから、三分。どうにか時間を稼がなければいけない。
「……火で足を焼いて驚かせるとか?」
なるほど、動物は基本的に火に弱いからな。いきなり足に火がつけば驚いて暴れてくれるだろう。
少なくとも馬を落ち着かせるのに時間は有するだろうからこの案は可決しよう。
「じゃあ、それで行こう。次は……」
搬入口に着いたら中に入って隠れれる所を探しながら上を目指す。
よし、これで充分だろう。
「透明化の際に声は聞こえちまう。だから俺らは話せないし、相手を確認出来ない。そこで、ロープを持って移動しよう。そしているかどうか確認したければ引いて反応を確かめればいい」
二人が首肯したのを確認し、最終確認をしておく。
「じゃあ段取りはこうだ。まずは魔王城に向かう馬車を止めて、中に潜入。そして着いたらそのまま中に入り、魔法を掛け直す事ができる場所を探しつつ探索する。細かいことはやってみなきゃわからん。以上」
準備なんて先がわかってて出来る事。
こんな何もわからない状況で何の準備ができるのか。
準備は万端になる事はほぼない。
絶対と言っても過言ではないほど、イレギュラーは発生するから。
「実行はいつ?」
「次の次の馬車でやる。次の馬車でどう動くか自分達でシュミレーションしておいてくれ。特にロヴ。まずはお前にかかってる。頼むぞ」
さぁ、城堕としは近い。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます