五十二・五「魔法少女の下着は派手」
……気まずい。
なんか慣れ行きでウチが元気付けしたみたいだけど、ウチは単純に人手が多ければ捜索も楽かと思っただけなんだけどね。
……うーん、思い返すと中々恥ずかしいなぁ。
ウチはさっき別れた二人との友情を恥ずかしがってみる。
ウチ、あんな熱烈系じゃないんだけど……
「あー! もう、アサヒのせいだよ。あんなの見せられたらウチも感化されちゃうじゃん!」
笑顔で人を助ける。
自己犠牲なんてダサいと自分で言っていたくせに。
周りを見て自分を疎かにする。
だから人を救えても自分を救えない。
なら、ウチだけでも救わなきゃ。
そんな考え方をしているのはウチ以外もだったけど。
すると、歩いていると轟音が隣から聞こえた。
何かが壁に叩きつけられたような、一方的な反響音が壁から伝わってきた。
もしかして、ラフィーちゃん?
大丈夫かなぁ、あの子が一番心配だけど。
今更になって3人で虱潰しに回ればよかったと後悔する。
けれど、前に進んだのだから後ろに気を取られてはいけない。
そう自責をして自身を奮い立たせる。
「こっちがハズレだろうが正解だろうが急がないといけないよね……ナハハ、足が」
ウチも女の子。
人一倍には怖がりである。
それにここは『かえらず』で有名な洞窟。
その『かえらない』人の一人にはならないように気をつけないと。
「あ、そうだ、ブレイブ!」
ウチは自身に魔法をかける。
この魔法は初級魔法。
自律神経を整えて緊張やその他の感情を落ち着かせる効果がある。
……うん、少しは勇気が出た。
ウチは攻撃魔法がメッキリの代わりに人を手助ける魔法には得意だ。
まぁ、回復魔法は高等すぎて扱えないんだけど。
「……ん? なにこれ、石?」
ウチの目の前が開けたと思えば真ん中に台座があり、青色の石が置かれていた。
ウチはその石に触れる。
「あっ?!」
石を台座から取り出すと真っ赤に染まり上がった。
その瞬間、甲高い空洞音がウチを貫く。
すると、壁に開いている穴から手足の沢山生えた虫がわんさか出てきた。
まさしく百本ちかくある手足……百足。
百足はウチの身体に登ってくる。
「ヒィィィ! 気持ち悪い、気持ち悪い、やめて、気持ち悪い〜!」
一生懸命払い落とす。
けれど数を増やすばかりで登ってくる数は増えていく。
そのうち、ウチの身体に食らいついてきて所々血が漏れ出す。
「ぐっ……いったいなぁ! スピタス!」
ウチは睡眠魔法で虫を片っ端に眠らせていく。
けれど数は減らない。
むしろ増えているようにも思える。
つーっと鼻から血が流れる。
マズイ、魔力が切れる。
「離れろぉぉぉ!」
ウチは一縷の希望に託して石を台座に戻す。
石は静かに青に戻る。
それを見終わると虫達も出てきた穴へ戻っていく。
「はあっ! はぁっ……こんなことしてる、場合じゃ……ないのに!」
えづきながらもヨロケながらも前へ進む足は止めない。
これからは何かがあっても反応は急がないようにしないと。
ウチはこのカラクリに懲りて反省する。
さぁ、歩けウチ。
道は長いから。
# # # # # #
ボロボロの身体を引き摺りながらたどり着いたのは水の湧き出ている地下湖。
ウチは最後の力を振り絞って水源まで辿り着く。
「……危ない、このまま飲んだら死んでたかも。確か……うん、この羽でいっか」
ウチは羽毛のファーから一枚、羽をむしり取ると水へ浮かべる。
そして、最後の魔力を振り絞る。
「アグアメンティ……ゴフッ。……平気そうだね」
この魔法は水質を調べることが出来る。
まず生命のカケラを水に入れ、魔法をかける。
そして、その生命のカケラが朽ちれば害があり、何も無ければ安全。
「はぁ! ……んぐっ…………はぁっ、はぁっ!」
ウチは湖の水を浴びるように飲む。
みるみる力が湧いてくる気がして、飲むことをやめれない。
息すらも整えないで水に顔ごと入れて、息継ぎして、また飲む。
「はぁっ……すご…………っはぁ」
さっきまで朽ちていた魔力も不思議と湧き出てきてくれた。
もしかするとこの水は特別な魔力が流れこんでいる?
そのおかげで鉱石も大きく成長しているのかもしれない。
何か入れ物があれば持って帰りたい程だ。
「……アタリを引いたって事かな?」
エルフのウチには魔力の流れを読むことが出来る。
いや、正確に言うと妖精であるウチだからこその能力。
その能力のおかげで人の魔力に干渉して魔法で手助けをするのだから感謝している。
こうして本来の使い方をするのは久しぶりな気もする。
ウチは両手を握って祈るように集中する。
「………………見えた。下に空洞」
湖の下に流れを感じた。
ただでさえ魔力が溶け込んでいる水なのだ、読み切る事は容易かった。
その澄んでいる水の底、壁際に穴があるのを理解した。
……息続かない気がする。
「まぁ、問題はない! 魔法様様だね。スレッブ!」
ふふふ、この魔法は肺活量を増やしてくれるのだ!
水の中で息ができるわけじゃないから急がないといけないのは事実だけど。
「……戻ってくるし、ちょっと寒いけど濡れるよりマシかな」
ウチは下着だけになり、荷物も全て置いて、ガーターに仕込んでおいた器具に杖を仕込む。
お母さんが万が一ってこんな派手な下着にしてくれたけど割と重宝している。
こうやって役にたったしね。
「さぁ、ウチは盗賊! ……元だけど。だから! 勇気全開、やる気充分、テンション上々! おらぁ!」
あの時に捨てたと思った盗賊の頃の口癖がつい出てしまった。
けれど、冷たい水に入る勇気にはぴったりだ。
ウチはしっかりと穴の位置を確認して穴を進んで行った。
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