四十八「ロヴちゃんクイズ」

 「んん……」


 俺が目を覚ますとまだ外は暗く、深夜であることがわかった。

 確か夢の中で母さんと会って……って、ホントに時間まだまだあるのかよ。

 俺はもう少しいてやれば良かったなと思いつつベッドから這い出る。


 「変な時間に起きて、目ぇ覚めちまったな。さーんぽさんぽ、さんぽのサンバっと」


 俺は変な鼻歌を歌いながら外へ出る。

 羽織るコートはもちろんナビィ手製の毛皮のロングコートだ。

 この世界に来て嬉しかったリストに入る代物だ。


 「こう言う祭りの後って、しんみりするよなぁ」


 俺は燃え切って熱の失われた焚き火に近づく。

 炭と灰が混じった跡地を指で摘み、じりじりと指でこする。

 焼香じゃないからな、勘違いするなよ?

 単純に、本当に熱が失われたか確認したかっただけなのだ。

 さっきまでの映像を鮮明に覚えているのに、人々は寝静まり、燃えカスだけが白を汚している。

 そんな、何処と無く寂しさを感じさせる雰囲気と冷たい風はよくあっている。


 そして、そんな静寂に流れてきたのは鼻歌。

 俺以外の人物がどこかにいる。

 俺は聞こえる方向へ歩いていく。

 そこには見覚えのある人物がいた。


 「どーした、こんな夜中に」


 「それはアサヒもでしょ」


 俺に気づいた鼻歌はその奏を辞め、肩を上げる。

 いたのはウチの魔法専門のロヴちゃんです。


 「俺は目が覚めてな、ちょいと散歩」


 「ま、ウチもそんなところ。酔い、覚めちゃったから」


 はーい、ストップ。また『未成年の飲酒は法律で固く禁じられています。この世界はあくまでフィクションであり異世界です。未成年禁酒法を守りましょう』って出たからね?

 全く、ただでさえ最近のテレビはうるさいと言うのに君は……台詞だけ聞いたら酒豪だぞ?


 「ちょっと歩こ?」


 俺は首肯するとロヴの隣まで早歩きし、そのままペースを合わせた。


 「って言っても話すことないんだけどね、ナハハ〜」


 久々に聞いた笑い声。

 そういや最近は張り詰めていて楽しい空気が少なかったと思う。

 ロヴとラフィーは馬車の中で何やらゲームをしていたが俺は実際にいたわけじゃないしな。

 簡単なゲームがあれば参加してみたいものだ。


 「ま、いいんじゃねぇの? 何もなくても。静かに歩いてるだけでもお月様は見てくれてるぜ?」


 俺が指差すと落ちかけている月が笑顔だった。

 こんなにまじまじと月を見るのも久しぶりな気もする。

 この世界の月は近く感じれてとても綺麗だ。

 大都会の喧騒に塗れた朧月夜なんて無いのだから。


 「じゃあ〜、ロヴちゃんクイズでもやる?」


 「は? 話聞いてた?」


 「いいから、いいから。全問正解したら豪華景品をプレゼントするよ」


 なんだそりゃ。

 まぁ、暇つぶし程度にはなるだろうし付き合ってやるか。


 「ふふ、第一問! ロヴちゃんの本名は?」


 おい、簡単じゃねぇか、わからねぇな訳ないだろ。


 「ティターニア」


 「せーかい! よく覚えてたね」


 当たり前だろ。

 俺は人付き合いが少ない分、関わった人の名前は忘れないのだ。

 忘れるほどの量を覚える必要がないからな。ってやかましいわ。

 ま、仲間……だしな。

 うっわ心の中とはいえ今の俺キモかったな。

 なんて色んな感情を顔に出しても目の前の少女は楽しげだ。


 「第二問! ロヴちゃんの得意魔法はなんでしょう?」


 得意魔法……エルフだから氷? ダメだ、それだと某EMTさんになりますね。

 じゃあ、爆裂魔法? それも某一発屋のアークウィザードになっちまうな。

 つーか、声優繋がりやめろ俺。

 皆目見当つかんぜよ。


 「ふっふ〜、ヒント。ウチがロハスでしてた事を考えてみよう!」


 確か、人の潜在能力の解放だったよな。

 けど、あれは一人じゃできないから……人を助ける魔法、回復ではなさそうだから……

 バフ系か? 武器じゃなく、人にエンチャントするイメージで。


 「……人に魔法で何か付与するとか?」


 「せーかい。よく分かったね。例えば……『ラルブル』!」


 「おわっ!」


 急に体が軽くなって、まるで月にいるかのような跳躍力を手に入れた。

 いや、違うな、正解は重力変動だな。

 妖艶のマリーに教えてもらったから知ってたわ。


 「じゃあ、第三問!」


 「ちょ、ちょっと待て。その問題って後何問あるんだ?」


 すると、鼻でふふんと笑い、背中を月に向けた。


 「三問だよ。次でラスト。難問だけど頑張ってね」


 意外と短いんだな。

 まぁ、余興には丁度いいな。

 俺は余興にも全力だぜ?

 そして俺は、問題を聞き逃さないように集中する。

 ロヴは少し、緊張を吐息で隠して月を見上げる。


 「ロヴちゃんの好きな人は誰でしょう? かな?」


 何故か「かな?」の時だけこちらを見るロヴ。

 その顔は照れ臭そうな、緊張そうな、よく分からない表情をしていた。

 俺は正解を言い切れる自身があったので、先に豪華景品とやらの正体を聞く。


 「……豪華景品ってなんだ? ちゃんとくれよ?」


 「……うん。ちゃんと、ここにいるよ」


 ん? よく分からん返しだな。

 まぁ、いい。俺は正解するだけだ。

 俺とロヴは同時に息を飲む。

 そして、俺が答える。


 「母さん。フィラさんだろ!」


 人差し指でロヴを指す。

 どうだ、あのベタベタしている様子なら母様ダイスキー人間だろう?


 「……………………バカァ!!」


 「ぐっふぉあ!!」


 急なボディーブローはN……G……ぐはっ。


 「先戻ってるから、頭冷やしてこい!」


 どさり、木に乗っていた雪が俺にかかって、雪に圧殺されかける。

 あ、雪の中って案外暖かいのね。触れなければ冷たくないや。

 ……ロヴの好きな人って誰だろ?

 その疑問には月は笑ってくれず、雲に隠れた。

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