四十九「夜這いはヤバイ」

 部屋に戻るとロヴの姿はなく、ベッドに山ができていた。

 先に眠っているようで3人の寝息が三重奏になっている。

 扉を隔てた奥には長老のイビキまでも聞こえてくる。


 「……寝てても起きてても無防備なんだな」


 俺はラフィーの鼻を指で弾く。

 ラフィーはこそばゆいのか嫌な顔をした。

 その反応を見て少しイタズラをしたくなってしまった。


 「こしょこしょ」


 指で耳の穴を穿る。

 ラフィーは力のない手で俺の手を弾く。

 寝ている時の反応って誰でも面白いよな。

 じゃあ、お次は


 「ほれほれ」


 顎の下を撫でる。

 これもこそばゆいのか、少しニンマリと笑う。

 うむ、いい反応だ。

 じゃあ、最後は……っと、いけない。

 これ以上やると色々な問題になりそうだ。

 寝込み、襲う、ダメ絶対。


 「だから、次はこっちじゃい」


 その隣で寝ているナビィの耳に息をかける。

 起きていれば絶叫モノだが、寝ていればそんなことはない。

 反応は……無視?


 「ふぅーーっ!」


 先程よりも息を強める。

 もはや息をかけるというよりも息をぶつけているの方が正しいくらいに。

 するとナビィは


 「ふっ!」


 「ごふっ!」


 俺の頬に右フック。

 寝ていても攻撃的なんすね……

 仕方ない、完全に寝ているか不安だけどロヴにイタズラしよう。

 この部屋のベッドは四つだが、二つずつ離れているのでロヴのベッドまで数歩歩く。

 ちなみに隣の空のベッドは俺のベッドだ。

 俺もてっきりラフィーの隣だと思ったんだけどね、入り口に一番近い所にされた。

 特に思ってないからいいけどさ……


 「つーことで……ほりほり」


 ロヴの眉間を指で上下させる。

 表情筋に力が入っていないから俺の指一つで困り顔にも怒り顔にもできる。

 うむ、楽しい。楽しくて寝れねぇぜ!

 なんて、一人で楽しんでるとロヴがボソッと呟いた。


 「……スピタス」


 「む? ……ふぁあ〜」


 き、急に眠気が……

 その眠気はグングン伸びていき我慢が出来ない。

 俺はせめて自分に与えられたベッドで倒れようと移動を試みるが、それが出来ない。

 何故なら、ロヴに腕を奪われた。


 「人の寝込みを襲うのは変態のやる事だよアサヒ……少しは反省しな」


 あ、やっぱ起きてたんですね……

 ……やばい、すっごい眠い。

 俺は瞼が半分にも落ちようとしている時、最後に見えたのは、ロヴが俺の腕を引き自身の布団に俺を招いた事だけだった。

 なんか最近、気絶やら強制睡眠やらでもう慣れっこだわ……

 そんな事を思いながら睡眠欲に駆られた。


 # # # # # #


 「……はっ! 知らない天井だ」


 一度やってみたかったヤーツな。

 

 「つーか、どゆ状況よ……」


 俺は布団に包まられ、ロープで抜けれないように縛られている。

 簀巻きイン布団状態。


 「おはよう変態勇者アサヒ」


 芋虫状態の俺の上に座っているのはロヴ。

 その周りを囲んでラフィーとナビィもこちらを見ている。

 ……やられたなこりゃあ。

 俺は暴力に耐える心の準備をしておく。


 「……で、俺に何すんの?」


 「ナハハ、ラフィーちゃん。アレ取って」


 「ほいさっさ」


 もはや雑用になっているラフィーを見るのも慣れたな。

 そしてラフィーが『備えあれば嬉しいなバッグ』から取り出したのは


 「ロ、ロウソク……やめろ、それは色々とマズイ!」


 縛られてロウソク。

 この単語だけで変態紳士様方々はお察しの通りである。

 それだと絵面がとてもマズイ。

 モザイク処理でも貫通するシルエットになってしまう。

 唯一の救いは布団のおかげでロウを垂らす面積が足先と顔だけである事。

 おい、まさか顔はしねぇよな?


 「ラフィーちゃん」


 「ほいほい」


 ラフィーに取り出されたマッチによりロウソクに火をつけられる。

 ……心決めろよ、男アサヒ、逝きます。


 「自分の罪を数えな」


 「ヒィイイィ!!!」


 # # # # # # 


 「……なーんでお主様は顔が真っ赤なのじゃ?」


 「気にすんな長老、ただの火傷だ」


 「いや、ウチで火傷負ってたら気になるじゃろうて」


 俺は風呂を借りてロウを綺麗に洗い落としたが火傷の痕は消えなかったようで。

 つか、距離が近いんだよな。もう少し離さないと火傷負っちゃうんだよね。実際、負ってるし。

 次からは気をつけるようロヴに言っておこう。いや、次はねぇよ!

 全く、ロヴだけにロウを使うとはな。おじさん、ちょっとビックリしたよ。


 「つまんない事考えてたらまたやるからね?」


 「アッ、ハイ」


 机の下でロヴに足を蹴られる。

 そんな俺らは朝食の最中。

 長老は奥さんが亡くなってからは自炊をしていたので料理が上手な様子。

 まぁグータラしてるのもアレだったので俺も手伝った。

 ナビィとロヴには借りたベッドメイキングをしておいてもらった。

 ん? ラフィー? アイツは寝かせておいた。

 だって、アイツに何か任せると何かしらの問題起こすし。

 ドジっ子は慣れると何も感じなくなってしまうのかと思った今日この頃。


 「それで、お主らは次に何処へ向かうのじゃ?」


 「あー、それは勿論、北の魔王城だよ。妥当魔王妃」


 「言うのぉ」


 サクサクとパンを食べる。

 実際、ここで長期滞在する気はないし、次は魔王城っていうのは最初から決めてた事だ。

 それに、魔王妃は一人じゃない。

 一人倒せば、もう一人に世界を取られる可能性がある。

 だから、一人倒したら急ぎ足でもう一人を倒さねばならない。


 「ま、それはいいんだけど、途中でここ寄りたい」


 ナビィは取り出した地図に指をさす。


 「なんかあるのか?」


 「ここ、鉱石が取れる事で有名なんだよね。まだ、知られてないから有名じゃないけど、鍛冶屋で噂してる場所。そこで良い鉱石が取れれば戦う時に楽かもしれないから」


 なるほどな、最後の最後まで火力増加は必要だと。

 それに関しては俺も同意だ。


 「じゃあそこに行ってから行くか。他、何か意見は?」


 「なーし」


 「同じく」


 口々に反応をしてくれる。

 よし、決まりだな。


 「飯食って、準備しておけよ。出発はすぐだ」


 はーい、と間抜ける相槌が返ってきたのを確認してパンを食べる。

 それを飲み物でやる気を入れるように飲み込む。

 さぁ、ついに妥当魔王妃だ。

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