三十四「北の国『ノースド』到着」

 俺らは雪の大地を馬車で走り始めて4時間が経った頃、ようやく街の灯りが見えた。

 一本林道の最奥地にそれはある。


 「あれか。北の国『ノースド』は」


 小窓から顔だけを出して街の全貌を見る。

 白い街は仄かにオレンジの光が灯っており、冷たさの中にも温かさが垣間見えているようだった。


 「北国特有の建物だね。丸っこくて可愛いなぁ。確か『ウーグル』だっけ? 外装とか構造は氷と雪だけで作ってるらしいよ」


 へぇ〜。あれか、カマクラ的なアレか。

 俺も雪が降る県出身だから作ったことありますあります。

 ただ、カマクラって難しいんだよね。みんな簡単に作るけど器量がないと出来ないし、凍らせて頑丈にしないと天井落ちてくるし。

 そんな難しいものが何件も巨大に建っている。

 確かに一人分のカマクラならまだしも、家族がいるのならばあれくらい大きくなるであろう。


 「寒くねぇのかな? 暖炉とかあったら溶けそうだけど……」


 林道を抜けて街の入り口に着く。

 ノースドに到着だ。


 # # # # # #


 「ようこそいらっしゃいましたぞ旅人よ。外は寒かったでしょう。ささ、中へ」


 俺らは馬車を停めさせてもらうと長老を名乗る人物に引かれウーグルに入る。

 中は想像よりも暖かく、上着を脱いでも大丈夫なくらいだ。

 壁や地面は雪と氷が使われているが家具全般は普通の物を使用している為、お尻に冷たさはこない。


 「すいません、いきなり現れて部屋まで貸してもらって」


 長老は長い髭を撫でながらふつふつとこぼす。


 「……この先にあるのは北の魔王城だけですからの。倒しに行くのじゃろう? ……いつか勇者を泊めた街として引き継がれるなら本望ですぞ。この街は魔王妃の圧力を一番に食らってるのじゃ。だんだんと空き家も増えていく次第ですぞ。……ワシの家も、妻がもう……」


 こんな辺鄙なところまで来ているので勇者志望である事はすぐにバレた。

 だからと言ってたどうという事もないが。

 ……ただ、長老の奥さんは俺らの両親と同じく魔王妃に殺されたようだ。


 「すいません、嫌な事聞いちゃって」


 「いや、いいですぞ。ワシも妻ももう老体です故、いつ死んでもおかしくはなかったのですから……」


 うっ、聞けば聞くほど心が痛い……

 とんだ地雷を踏んだな。


 「……この街に掛けられてる圧力って?」


 俺は話を変えるために魔王妃のやらかしていることを聞き出す。

 それで解決が出来るならば手伝いたいと言うのもあるしな。


 「見ての通り……この街然り周囲は雪に埋もれてしまっておりまして。北の大地は元々緑豊かの土地だったのですぞ。……魔王が殺されて魔王妃になってからは北の魔王妃の魔力がモロに漏れていて……」


 この街を永久凍土にしたのは魔王妃の魔力らしい。

 推測だが、魔王妃は氷魔法使いそうだな。

 なんか魔力が漏れて凍らせるって得意技が氷魔法以外思いつかないしな。


 「じゃあ北の魔王妃を倒せば?」


 「少なからず春は訪れるでしょう」


 なんだろう魔王妃倒すだけだったのに付加が付きまくってる気がする。


 「ですが、お気をつけ下さい……この街には悪魔がいますのじゃ」


 悪魔? 俺のわかる悪魔が1人しかいないから嫌な予感しかしない。

 やだなぁ、悪魔って響きだけが嫌だもん。

 むしろ今迄でよく1人しか会わなかったよな。……回数はあるけど。


 「……悪魔」


 「そうですじゃ。悪魔。名前は確か『ルドブン』……どこかの国の王を唆した経歴がある戦闘派かつ戦略家の悪魔ですじゃ」


 どこかの国の王?

 もしかして……


 「ドオブ……ゴブリンとオークの国。そうだろ?」


 「…….確か」


 爺は記憶力がないのかうろ覚えに返事をする。

 いや、ドオブで間違いないだろう。

 あのケルビム王子の願いはこんなところで果たされようとは。

 

 「じゃあ、ソイツぶっ殺してから魔王妃だな」


 「え! 大丈夫なのか、相手は悪魔じゃよ?! 無謀にもありすぎるじゃぞ!」


 そりゃあ無謀だろうよ。

 なんせ相手は魔法を使える種族。

 こっちは剣技(なんとなく)しかないんだから。

 無理難題もいい。だけどな、


 「無謀でもなんでも。魔王妃倒すんだから悪魔くらい殺せないとダメだろ」


 だって、勇者志望のアサタンだもんね!

 それに、ケルビム王子の願いを叶えないといけないしな。


 「そうですか…………若くてさぞ羨ましいぞえ」


 爺やは曲がって腰を手の甲で軽く叩き、軽口も同時に叩いていた。

 アンタも若い頃はあるだろ……。


 「ところで、その悪魔の出現予定を聞きたいんだが? まさかランダムとか言わないよな?」


 「えぇ。勿論ですじゃ。悪魔は夜中になると入口の門でこの街を眺めてるのですじゃ。今は夕暮れ時、後4時間もすれば出てくるじゃろう。……頼みましたぞ」


 勿論。一度受けた依頼はこなす。

 これ、ゲームの鉄則。

 俺はやり込み派なのでサブクエストは全てやるタイプだ。

 任せておけ。こちとら勇者志望アサタン様だぞ。


 俺は一つの疑問を持ちながら夜食へありついた。

 ちなみに幼女3人は暖炉前でぬくぬくと布団に包まっている。

 暖炉は氷製だが永久凍土のせいか溶けないらしい。

 氷、割と便利じゃね?

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