三十三「北の大地には雪がある」

 「ゔゔぅ……ざみぃ……」


 北の大地では雪が降るほどの気温の低さ。

 俺以外は厚着をしているが俺の厚着さんは妖艶さんに切り裂かれてしまい無いのです。

 あいつ二度と許さん。次会ったらマジギレしてやる……寒ぃ……


 「お兄ちゃん大丈夫? 身体から湯気出てるよ?」


 ホントだ。怒りで体温上がりすぎて湯気出とる。

 つか寒い……外で運転してくれているナビィちゃんが気の毒だ……


 「お兄ちゃん……ほら!」


 「ぐえ!」


 ラフィーが突然俺の方へ寄る。

 俺は角にいたので押し込まれて変な声が出てしまった。

 つか、急に何?


 「くっついたら暖かいでしょ?……って本当に冷たい。お兄ちゃん本当に死んじゃうよ?」


 そう言ってラフィーは俺とおしくらまんじゅう状態。

 身体から湯気が出ていても末端は冷え切っていて、俺の指はもう既に感覚がない。

 つまり凍傷不可避。オワタ……


 「私じゃ足りないなぁ……ロヴちゃん!」


 「はひ?!」


 なんだよ「はひ?!」って。マジでビックリしてんじゃん。

 何するつもりなんですかね。


 「そっち側にくっついて!」


 「あ、う、うん。……でも、壁があって入れないよ?」


 「がんばれ!」


 「え、えーと! ほい!」


 ロヴは俺に抱きついてきた。

 ロヴは俺に抱きついてきた。

 は?


 「ちょ、ロヴさーん?」


 「ふひひ」


 あダメだ。聞いてないや。

 おかしいなぁ。なんか左からすっごい冷たい視線を感じるんですけど。

 つかロヴたん暖かい! ほぼ湯たんぽだよ。



 「お兄ちゃん……凍え死にたい?」


 い、いえ、滅相も無い! 死にたくないよーだ!

 ロヴは温いから剥がしたくないけどね。


 「えっと……まだ寒いからラフィーももっとくっついてもらっていいか……?」


 「…………うん!」


 よかったぁ、ウチの子が単純で。

 うぐ、キツイキツイ。

 俺氏異世界転生したら幼女ハーレム形成できたの巻。

 実際、幼女は体温が高いので暖房としてバツグンの効果をもたらす。

 しかも俺自身も発熱し始めるからね。

 ……理由は紳士なのでお答えしないが。


 「えへへ〜温〜い」


 んん!天使。


 「ふへっ、ふひひ」


 んっ?!怖い。

 何ですかね左に天使、前におっさん。いよいよ右に悪魔が……妖艶さんはお呼びじゃないです。次会ったらマジで殺されそうなので。


 # # # # # #


 「あんまり外で休みたくないけど小休憩取らないと馬がダメになるから」


 あの後すぐに馬車が止められ焚き火なう。

 俺らは座っているだけだが馬は働いてくれているので休憩は必要だ。

 ブラック企業は無くなーれ!


 「うぅ。寒いけどまだマシだな」


 焚き火に手をかざして温まる。

 ナビィちゃんは寒くないのかしら?


 「ナビィ、寒くねぇのか?」


 「ま、ゴブリンは地形変化に強いからね。多少なりど血が入ってるって事だね」


 血は争えないか。

 俺の親父もよく「俺に似てる!」って夢の中で言ってくるし俺も血はきちんと引き継いでいるようだ。

 ……つまり身体ごと異世界に来たのではなく精神だけ異世界に飛ばされたのか。

 なんかミカさんもそんなこと言ってた気がしなくもない。

 いや、それで筋肉がついててビックリ!とか言ってたよな俺。今更になって思い出すとかオモシローイ。寒すぎて脳みそ休み始めてんな。


 「シッ!……近いよ」


 ナビィにいきなり黙らされて神経を研ぎ澄ます。

 小さな動物が雪を踏む音。

 いや、小さくないな。遠いだけか。

 近付いてくる。

 結構大きいな……その雪山の裏か。


 「雪山の後ろに隠れたクサイな」


 「は?」


 「いや、だから」


 雪山が蠢く。

 あれ、もしかして雪山じゃなくて


 「オオオン!!」


 白い熊でした。

 ……じゃねぇよ!


 「ナビィ、行けるか?!」


 「金槌は馬車の中。一人で頑張れ」


 ナビィは既に遠くにいた。おい!

 え〜、一人でバトルかよ……

 因みにラフィーとロヴは馬車の中から出てこない。

 なんででしょうね。


 「オオオン!」


 白い熊は雄叫びと同時に突進してくる。

 雪を蹴り上げ、冷たい風を纏い、こちらへ一直線。

 ……妖艶の悪魔のせいでスローリーだぜ。


 「ほらよっと」


 俺は綺麗に熊をターンで避ける。

 まるで赤い布を持たない闘牛士のように。

 ……それ闘牛士じゃなくてもいいなぁ!


 「んで、お次の攻撃は?」


 熊は立ち上がり、爪をギラつかせた。

 馬鹿だなぁ。完璧ソイツでくるって言ってるようなもんじゃん。

 俺は腰にある剣に手をかけた。


 「オオオオオン!」


 熊は右、左、右、左と交互に爪で攻撃を仕掛けてくる。

 俺はその度に弾いたり避けたりと余裕の防御で迎える。

 最初とはちげぇぜ熊さんよ。

 まぁ、アイツとは個体が違うだろうし仕方ないけど。


 「いい感じに身体があったまってきたから、次はこっちから行くぜ!」


 俺は剣を鞘にしまい熊を見る。

 熊が俺の攻撃の空気を察して俺を睨みつける。

 離す目なんてどこにもない。

 そんな、ひりついた空気を切り裂くのは俺だ。


 「ッシ!」


 俺は全力で抜き太刀を浴びせる。

 

 「グォォン!」


 しかし、毛か皮か脂肪が厚い為か致命傷までとはいかなかった。

 うーむ、目指すは一刀両断だったんだけどな。


 「グォォン! オォン!」


 熊は俺の事を叫びで怯ませようとする。

 残念。昔から大音量で音楽を聴いていたから慣れっこだぜ。


 「はっ! ほっ。 危ね」


 熊の動きは速度を増し、先ほどよりもギリギリで躱す。

 だけど、魔法ほど速いわけじゃない。

 ……よし、捌ききれる。


 「お互い長続きも良くねぇよ。無駄な労力を費やしてまでのモンじゃねぇ。決めさせてもらうぜ」


 今度は鞘に入れないでキチンと両手で握り直す。

 そーいや勝手に日本刀みたいな使い方してるけどこの剣は両刃の洋剣ですよ。

 むしろこの世界に日本刀なんてものは無かった……

 あ、今度ナビィに作ってもらおっと。


 「動きはゲームで知ってる。ついてこいよ俺の身体ァ!」


 俺は強く踏み込んで熊にラッシュをかける。


 右斜めの縦切り。

 左からの一閃。

 そこまでやると熊も黙ってなくて、反撃を仕掛けてきた。


 「ォォォォオオオオ!」


 熊の右爪が飛んでくる。

 刃を下から軽く当てて攻撃を防ぎ、弾く。

 そのままガラ空きになった横腹に一発。


 お次は身長差1メートルの頭突き。

 俺は簡単にバックステップで避ける。

 態勢の崩れたままの熊にトドメ。


 「じゃあ、お疲れさん!」


 頭を垂れた熊の頭頂部に深々と剣を突き刺す。

 熊は死んだので光となって消えた。

 キチンとアイテムをドロップさせて。


 「さぁて、戦利品は……金と肉と……毛皮?」


 俺が戦利品をまじまじと見ているとナビィが戻ってきていた。

 お前なぁ……


 「ん? 白魔熊の毛皮か。売ったら高いけど……どれ」


 ナビィは俺の手から毛皮を奪い、魔力を高めた。


 「なーにすんの?」


 「『魔工作』は鍛冶仕事だけじゃないんだよ。……ほっ! ……完成」


 毛皮が光ったと思ったら毛皮のコートになっていた。

 あら、もしかして?


 「べ、別に作りたくて作っただけだし。アサタン寒そうにしてたし、丁度良かったから……それにそっちの方が高く売れるし、それにアンタと2人がくっついてていいなぁなんて思ってないし。それを止める為の毛皮じゃないし。たまたま取れたから作っただけだし……わかった!?」


 なんか早口で囃し立てられて上手く聞き取れなかったけどとりあえず貰っていいんだな?

 なーんで顔赤くしてんの?


 「ま、感謝するわ。サンクスなナビィ」


 「……うん」


 あらやだ可愛い。素直になれないんだから!

 俺は貰った毛皮のロングコートに腕を通す。

 サイズピッタリだけど、よく分かったな。

 うー、あったけぇ!


 「マジあったけぇわ! はぁ〜触り心地もいいし、最高。別の上着が手に入ったら金に出来るしここいらの熊、狩りまくるか?」


 「……ダメ」


 ん? なんかナビィがぼそっと何か言ったぞ?


 「それは売っちゃだめだから」


 急に睨みを利かせてどうしましたお嬢さん?怖い顔しないでくださいよ!

 ……別に売る気は無かったですよ?

 ホントホント。アサタンウソツカナイ。


 「ふん!」


 あ、馬車に戻っちゃった。

 俺もほとぼりが冷めたら戻ろ。

 あー、女の子って難しいなぁ!

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