三十五「選択肢なんざ壊してなんぼ」
俺らは夜ご飯を食べた後、街の入り口に行き、悪魔を待つ。
かれこれ30分は待っているのだが一向に現れる気配がしない。
「……うぅ、冷えてきた。あのジジイホントの事言ってんのか?」
「そりゃあそうでしょ。なんで悪魔に加担するようなことするのさ。長老は夜中って言ってたんだからまだかかると思うよ」
戦闘派の俺とナビィは入り口に近い雪山の裏に隠れている。
ラフィーは家の中でお留守番だがその子守としてロヴを付けている。
ま、自然的な配分だろうよ。
「まぁ、そりゃそうだけどさ。ちょっとかかりすぎじゃない?」
「……寒かったらくっつけば?」
ワッツ?! ナビィはそっぽ向いて顔真っ赤。
何可愛いこと言ってくれてんの?落ちちゃうよ、僕。
ここでの選択肢はA.くっつく。B.強がる。
さて、どちらも力量次第だぜ。
そしてこれは今後のパーティーメンバー攻略の為の材料になるぜ。
……一択でラフィー派ですけどね。余力があれば他にも手を出したい……って流石にそれはゲスの極みか。
さて、俺の選択肢。それは。
「別に我慢できねぇわけじゃねぇよ。……お前の方こそ寒かったら来いよ」
C.一瞬突き放して抱き寄せる。
物理的にではなく心理的に。
その方が好感度が上がるはず。ギャルゲーマスターを舐めるな。
「………………寒くない。……けど変なところで体力消耗しても無駄だし」
ナビィは強がってくっつく。
所謂A.B.両方選択だ。やるじゃねぇか。
流石なところでツンデレを感じてほのぼのする。
まぁ、自分より年下の女の子を甘やかしたいのは父性本能、この場合は兄性本能だろう。って、前もやったなこんなこと。
俺はカッコつけて、ナビィに作ってもらった毛皮のコートに製作者をご案内する。
大きさは丁度だがロングコートだからな。
片腕を脱いでそちら側をかけてやれば温かいだろ。
「寒くないの」
「寒くないよ」
しんしんと降り積もる雪が幻想的で、二人の距離を縮めてくれたのかもしれない。
そんな美しい空気を切り裂いたのはしゃがれた声。
「あのぉ、盛り上がってるとこすまんがのぉ」
この街の長、長老が後ろに立っていた。
俺とナビィ? そりゃあ瞬きをする時にはもう離れてたよ。未だに心臓は動いてくれないけど。
「ど、ど、どうしました長老?」
「いやぁ、2人が暇だって言うから連れてきちゃいました」
小さな腰の曲がった長老の後ろからラフィーとロヴが現れる。
見られてないよね?
「お兄ちゃん?」
ヒィ! ラフィーちゃんの後ろに金剛力士像が! ロヴには阿修羅像が!
つか、いつのまに好感度上げたかな?
ラフィーは初エンカウントボーナスと家族ボーナスで好感度が高かったかもしれないが、ロヴに関してはそこまで上げた覚えないんだが?
「いや、そんな事よりなんで来たんだよ。危ねぇから待ってろって言っただろ」
俺はラフィーの頭に頭を乗せてロヴに話しかける。
ラフィーちゃんはうるさいのでこうやって黙らせる。首も休めて一石二鳥だ。……まぁ頭の重みに耐えきれない首なんざねぇがな。
ラフィーは俺の顔の下でぷんすか怒っている。可愛いけど無視無視。
「いや、ウチもダメだよって言ったんだけどね。ラフィーちゃんがアサヒとナビィちゃんを一緒にしたくないって駄々こねて」
あらやだ嫉妬かしら、嬉しいわぁ。
単純に独占欲が強いだけだと思うが。
ここでヒロイン3人の性格を一言で表そう。
ラフィー、ヤンデレ
ナビィ、ツンデレ
ロヴ、デレデレ
ちなみに妖艶の悪魔さんこそヤンデレっぽいが、デレてはねぇんだなあれ。単純に頭のネジが一本飛んでる人。
「へいへい、それはいいけど……厄介だな」
「何が?」
俺はラフィーの頭をぽんぽんと叩いてロヴに渡し、小声で離れていろと命令する。
そして、俺の一瞬のアイコンタクトで反応してくれるナビィ。よく出来た子だ。後で褒めてやろう。
「長老さん。悪魔、まだこなぇの?」
「……来ないね」
うむ。黒確定演出が出たな。おつかれ。
「長老さん。なんで口調がコロコロ変わるの?」
「……歳、だからかな」
「もいっこいいかな……街のみんな何処へやった?!」
「チッ! 勘のいいガキは嫌いだよ」
はい正解。返答の仕方も百点満点。
俺が飯を食べる前から思っていた疑問とはそこにある。
口調の変わる長老。
後から気がついたが、街の人は1人もいない。たしかに空き家は多いと言っていたが1人もいないなんて事の方がおかしい。
そして、長老であること。
王様や町長ではなく、長老。ただの歳が一番遠いリーダー格。それは民族やら小さな村の話。
こんな大きな街で長老だから偉いってのは少し融通が効かねぇんじゃねぇか?
「本性、現したな」
長老は背中から何かが飛び出す。大凡、中の人だろう。
残った長老は脱け殻のように地面に干からびていた。
「悪魔はお前だったんじゃねぇか」
「ヒヒ。殺す前に気がついたのはお前だけだよ」
出てきた悪魔は紫色の翼で空を飛んでいる。
そんなことよりも気になることが。
「……ちょっと」
「何だ?」
俺が手招きすると悪魔は降りて来てくれた。
そりゃあ俺も攻撃するような雰囲気でもないし、他のメンバーも呆気を取っている。
ま、確かめたら殺しちゃるけんな。ちょいと待ちーよ。
「えい」
「あっ!」
もみもみもみもみもみもみ。
うん、おっぱいがある。
「何してんだゴラァ!」
「ぶべへっ!」
悪魔は再び空へ駆け上がり、両手で身体を隠している。
あ、ごめん。本当に女だったんだ。
「いや、長老に化けてたし男かと思ってた」
「だからって胸で判断するなぁ! 殺してやるぅぅ!!」
顔を真っ赤に染め上げた紫色の悪魔が攻撃の狼煙をあげた。
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