十二・五「ラフィーも存外グチャグチャなようで」
兄のアサヒが部屋から出てった後、隣で同じ布団に入っているナビィちゃんに話しかけられる。
「で、あれがラフィーちゃんのお兄ちゃんなんだねぇ……よく似てるね」
私にはあまり聞き慣れない褒めに違和感を感じた。
「そう? 私はそうでもないと思うけどな」
私とお兄ちゃんは似ていない。
昔から兄は活発的で病弱な私とは大違いだった。
私の小さな頃を思い出せば床に伏している事が多いかった。
兄はそんな私を見て、私の分まで頑張るようになった。
例えば、私達のお婆ちゃんであるミカお婆ちゃんの為に、近くの森へ魔物を狩りに行くようになったのもそれが影響していると思う。
私が迷惑をかけている。そればかりが心に残っていた。
それから私はお兄ちゃんの為に努めてきた。そうやって、自分の為に努めてきた。
なろうとは思うわけではないけど、極力お兄ちゃんに近づいて、兄の力になれれば。そう思っている。
それをミカお婆ちゃんに伝えると、お婆ちゃんは力をくれた。
ふわふわとした説明だけど、お婆ちゃんの手を握って寝ている時にお婆ちゃんから光が与えられた。そんな夢を見たんだ。
そこから、私の病弱性は無くなり、兄と同じくらい活発になれたのだ。
私は今でも、お婆ちゃんが力をくれた、そう考えてる。
「なーんか、似てるよ。二人とも。例えば、お互いがお互いの為にお互いに尽くしてるトコ! ……とかね」
指を立てたナビィちゃんがサムズアップ。
ふむ、確かに私は私の為に兄に尽くしてきた。それは事実である。……お兄ちゃんはよくわかんなけど。
私は兄が求む、妹になろうと振る舞ってきた。
兄がまた離れていかないように。貧弱で手のかかる、そんな妹を。
最初のと含め、二つのなり振舞いは私への負担が強い。
兄の為に兄のように力をつける。
兄の為に華奢な妹になってみる。
まぁ、どちらも自分の為なんだけど。
うーん、我ながらグチャグチャな考えだなぁ。
お兄ちゃんの為なのか私の為なのか。
始まりは私の為だったけど、次第に兄の為に。そう考えてるのかもなぁ。
未だ、グチャグチャな考え方は後から形になってくれると信じよう。
なんて、一人で抱えんこんでいるとナビィちゃんにデコピンされる。
「ラフィーちゃん。ラフィーちゃんがどんな気持ちで兄の為を思ってるかは私にはわからないよ。……でも、それは自分の為でもある。そう考えてるでしょ」
私は驚いた。
いきなりデコピンされた事もだが、自分の考えが読まれている事もだ。
「ぷっ、アハハ! ラフィーちゃん。やっぱりお兄ちゃんと似てるよ。その、考えの読みやすい表情とか。物耽ったら周りが見えなくなるとか。……いいじゃん『両方』で」
「えっ?」
「お兄ちゃんのためー、とか。それは私のためー、だとか。じゃあ、私達の為! それで良くない? 難しく考える必要はあるのかな? どんな経緯があって今に至るかもわからないけどさ、お互いが思い合えばさ? なんとなく大丈夫。そんな気がしない?」
ナビィちゃんは安直な答えを用意してくれた。
うーん、そんな簡単なことでも無いと思うんだけど。
「まぁ、ナビィちゃんがそう言うなら」
歳も近いし、母親を亡くしている事も共通している彼女だ。
安心……とまではいかないが、心の支えになってくれている。
まだ、出会って1日だが、そう感じさせてくれる。
「ラフィーちゃんがそんなに思い詰めてる理由は……お兄ちゃんにあるんでしょ。話して?」
私は隠す必要もないなと思い、記憶をなくした兄の話をしてみた。
あまり人に話す内容でもないが、この子なら何か希望を持たせてくれる。そう思った。
一縷でも縋り付けるならなんでもいい。
「お兄ちゃんね。昔と今じゃ全然違うの。原因は記憶をなくしたからだと思うの。私の為に、なんて言って空回りするとこは変わんないんだけどね?」
私はちょっとふざけて笑う。
悲しみでもなんでもない笑い方。
明るく振る舞っておく、無駄な心配を掛けぬよう。
「うっぐ……ひっぐ……」
「いやいや! なんで泣いてんの?! 記憶なくしただけだからね? ……って、私が言うことでもないけどさ、そんな泣くことでもないからね?!」
何故か当人よりも泣いているナビィちゃんをみた。
彼女は感化されやすいのかなんなのか……ていうか、泣きすぎだよ! 私と同じくらい涙脆いじゃん!
「だって……ひぐ、記憶をなくしても……うっ、ラフィーちゃんを思ってるなんて……うう、妹思いで……いいお兄ちゃんだなぁって!」
依然泣き止まないナビィちゃんの背中をさすってあげる。
もう!泣きすぎだよ。
「あはは……性格って言うか本質的な部分は変わんないんだけどね……昔の強さは無くした? のかな。わかんないけど、自分の体を上手く使いこなせてないみたいな感じだし。それに、一番は考え方がまるっきり違うんだよね。昔なら、ラフィーは下がってろ。俺が片付ける。みたいなカッコよさだったんだよね」
ふと、寝たふりをしたあの日を思い出した。
『ラフィー、俺、お前を絶対守るから』
以前の兄の攻撃性での守り方よりも、守るための攻撃性。そんな違いが汲み取れた。
……あぁ、もう!思い出したら恥ずかしくなっちゃった!
私も兄好き好き人間なんだなぁ。
「ひっぐ……あ、もうダイジョビ。……んでね、性格が変わったお兄ちゃんの事は嫌い?」
嫌いかどうか。嫌いなわけではない。
むしろ、私が兄を嫌う場面なんて……意外とあるけど比較的に嫌わないなぁ。
「全然! 嫌いだったら一緒に魔王妃を倒すなんて言わないよ!」
「え、魔王妃倒すの?」
あちゃ、言ってなかったか。
「……うん、それは明日、お兄ちゃんが詳しく話してくれると思うけどね。私達の両親が魔王妃に殺されちゃってね。それで、倒しに行くの」
「うぁぁぁん!」
やっぱり、泣き出しちゃったか……
# # # # # #
「泣き止んだ?」
「なんとか」
泣き止んだナビィちゃんの目は真っ赤になっていた。
うーん、人のためにここまで泣けるのは才能だと思うなぁ。
「それでね、今と昔、両方のお兄ちゃんを比べてどっちのが好きとかある?」
今の記憶を無くした兄と、私を守るために力をつけてくれた過去の兄。
両方とも私の事を思ってくれている。
自分の事を大事に思ってくれる人を嫌う女の子はいないだろう。……いないよね?
「まぁ、どっちも好きだよ? だから、元に戻って欲しいとかも思わないよ」
すると、ナビィはそうかそうかと頷く。
「じゃあ、ラフィーちゃんはどうしたいのかな? 率直に聞かせてよ」
私の雁字搦めになった考え方を否定するように答えろ。そう言ってきた。
私のしたいこと……
「……お兄ちゃんを助けたい」
性格は変わっていない兄。
自分を犠牲にするように動いているのも変わっていない。全部私の為だ。
なら、私はお兄ちゃんのサポートをしたい。
私はお兄ちゃんの為に。
お互いが支えあえば。ナビィちゃんの言う通り、そう思う。
「うーん。ラフィーちゃんには強さはないよ。武力的なのもそうだし、心も弱い」
私の弱点を無慈悲に突いてくる。
あぁ、耳が痛い!
「だけど、思う気持ちは強いよね。そこでお兄ちゃんを救えたらいいんじゃない? 頼られて不満なお兄ちゃんはいないでしょ。私はお兄ちゃんがいないからわかんないけど」
アハハと自虐的に笑うナビィを横目にため息を吐く。
私、結構、難易度高いことを言ったなぁ。
あーあ。ドオブを離れたらまた会うかもわからないなんて寂しいなぁ。
ふと、不満が溢れてしまった。
「はぁ、ナビィちゃんも付いてきてくれれば楽なんだけどなぁ」
しまった。そう考えた時には遅かった。
「ん? いいよー! 楽しそうだし」
ナビィちゃんは私より馬鹿かもしれない。
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