十二「酒場の昔話との差異」
俺はスミスと話した後、ラフィーを伺いにきた。
スミスの話ならば、この部屋で寝ているらしい。
寝るなら宿場にいけよ……
俺は古ぼけた木の戸を開ける。
「ぐぅ」
「すぴー」
案の定、ラフィーはかわいい寝息と共に寝ていた。
宿場に戻るために起きて貰わねばいけない。
俺は近づいてゆさゆさと体を揺らした。
「ラフィーさーん。夜ですよー。起きてくださーい」
「んにゃ……誰?」
ラフィーじゃないじゃん!誰?
俺がラフィーだと思って揺らしていた布団の中身は別の女の子であった。
その女の子の赤髪のロングはやけに美しい。
寝ていたせいか、綺麗な髪を食べてしまっている。
「ふわぁ。あれ、お兄ちゃんおはよ。……もしかして、ナビィちゃん襲ってた?」
「違うわ!」
既に起きている少女の傍が起き上がると、こちらは本当にラフィーだった。
仲良くお寝んねですか、可愛いじゃないですか。天使群。
なお、赤髪の少女はナビィと言うらしい。
ラフィーがそう呼んだから間違いはないだろう。
見た目はラフィーとあまり遜色ないままに美しい。
歳もラフィーとかなり近そうだ。
「つか、この子はどちら様だ?」
「私はお父さんの娘、ナビィだよ。バッチコーイ!」
ラフィーが答える前にナビィが答えた。
お父さん……?つか、寝起きだと言うのにこの有り余る元気、間違いない。
「もしかしてスミスの?」
「正解!」
親指を立ててサムズアップ。
ラフィーとは違ったベクトルの元気だ。
某元有名テニスプレイヤーが持つ熱さの元気だ。
正直、暑苦しいのはスミスだけでいい。
親も親なら子も子らしい。卑下しているわけじゃないけどね?
なんて考えていても時間は有限で、これ以上夜が深まると昨日と同じく、酔っ払いの厄介が降ってきそうだ。
詳しい話は明日にでも、最悪宿場でラフィーに聞くとしよう。
「ナビィか。よろしくな。俺はアサヒ。アサタンって呼んでくれ。詳しい話は妹のラフィーから聞いてるとは思う」
「特に聞いてないよ」
「特に言ってないよ」
マジですか。
ちょっとくらい話しておいてよラフィーちゃん。
「……いや、まぁいい。そこらへんを含めた詳しい話は明日にしようぜ。夜の街は厄介者が増えて面倒だからな。これ以上暗くなる前に帰ろうぜ」
俺は遮られた話からはため息をこぼしながら話す。
つか、こいつら打ち解けんの早くない? いや、元々ラフィーはフレンドリーだったけどさ。
そういえばと渋い声のスライムや猫耳のヒイラギを思い出した。
あの2人とも直ぐに仲良くなっていたし、ラフィーはコミュ力お化けなのかもしれない。お兄ちゃんとは似てないね!……つら。
「うーん。もう少しナビィちゃんと話ししてたいし、今日はこっちに泊まるね」
ワッツ?!
「ラ、ラ、ラ、ラフィーちゃん??」
「お兄ちゃんは『1人』で帰ってね」
やけに1人が強調されて聴こえてしまった。
つけ離された心が音を立てて崩れていく。
悲報、妹が兄離れしました。
「あ、別にお兄ちゃんとも一緒にいたいけど、ナビィちゃんはここでしか会えないから」
良かった……優先順位の問題ね……お兄ちゃんちょっと寂しかったぞ、この野郎!
まぁ、ラフィーがそう言うならしょうがないし? 歳も近そうだから話も合うだろうし? 何よりも、国を出てしまえば会うことが無くなるだろうし? 今回は譲ってあげるのも、やぶさかじゃないし?
妹にベッタリな心情を隠して、アサタンはクールに去るぜ。
「了解。じゃあ明日、ここに来るわ」
「うん! おやすみ!」
扉を閉めてスミスの前でオイオイと泣いてから街へ繰り出した。
スミスは少し厄介そうにしていたけど。
# # # # # #
街に出るとオレンジの街灯が妖しく光っていた。
日本では街灯の明かりはLED電球が主流になってきて、こういった妖艶さが失われてきている。
案外好きなんだよね、この街を朧げに照らす感じ。
外見に反して国の中は洋風で統一されていた。
外から見えるものと中で見るものは結構な違いが大きい。
ここが現実世界のフランスやらイタリアなどと言われても遜色ない。
それ程までに整った外装をしている。
多分、盛んな工業の賜物だろう。稼いでんだな。
夜の街に出歩いているのはオークばかり。
そう言えば、ゴブリンを見たのはスミスを抜けば国の入り口の受付くらいか。
そんな事を考えていると腹の虫が鳴いて訴えかけてきた。
「むぅ……腹減ったな」
朝は鍛冶屋探しついでに飯屋を探していた。
だが、先に見つかったのが先ほどのスミスの店だ。
だから、朝食は抜き! ラフィーは歩きながら袋からスナック菓子みたいな乾パンみたいなヤツ食ってたけど。
おい、お兄ちゃんは?的なこと聞いてこないのかよ。あん時ちょっと悲しかったからな?
そして、昼食は森で兎を狩っていたから抜いている。
俺っち、昨日の夜からなんも食ってないじゃん……腹持ちいいんだか燃費悪いんだかわからん体だな。おい。
ともまぁ、腹が減るから飯は美味くなるのだから、そう考えると嫌でもないか。
「ま、無難なとこでいいよな。近場とかで」
俺は宿場に近く、夜食を食べる事が出来る所を探しに街を徘徊し始めた。
# # # # # #
「はぁ、不運極まれり。クソったれ」
「ガハハ! 呑め呑め! 若いの!」
なんと酔っ払いのオークに絡まれ、酒場に連れてこられた。
なんて、不運。最近はツイていたからその分が降りかかったのだろう。マジ最悪。
まぁ、酒場は宿と近いし、何か食べるものもあるだろうから良しとするか。妥協大好きさんですから。
ただし、酒。てめぇはダメだ。
「あ、えっと、俺、未成年ですし……」
「はぁ? そうは見えねぇな。何歳だよ」
えっ、成人に見える? 僕ってそんな老けて見える? スキンケアは怠って無いはずよ!
「……18っす」
「ガハハ! この国じゃ15歳から呑めんだよ! ほれ、奢りだ。ジャン……ッ……ッジャン呑めよ!」
机に並々注がれたジョッキが大きく置かれる。
うわぁん!お酒は20歳からですよ!僕の元いた国では!
と、正義ぶっていても怖いもの見たさはある。
そ、それに?……人のご厚意を無下にするのも?悪いし?呑んじゃおっかな?!
何事も挑戦だ、これも初体験だ、やってやるぜ!
アサヒ、スーパートライ!
ジョッキに口をつけて飲み干していく。
「ガハハ!いい飲みっぷりだなぁ兄ちゃん!」
その言葉がハッキリと聞こえないくらいには正気は保ててない。
# # # # # #
自白剤を飲まされたかのように朦朧としながらオークと話している。
ただただ話をしている自分の映像を一人称で見ている、そんな感覚で。
これが酔っ払うという感覚なのだろうか、考えが纏まり辛く、顔を真っ直ぐに保つのも難しい。視界もぐにゃぐにゃと曲がっている。
頭はこんなにも冴えている気がしているのに、こんなにもまともに話せない。
「ガハハ! 兄ちゃん、もう潰れたか? 若いのにな!」
オークは酒と一緒に頼んだ料理を食べながら俺を煽る。
俺も負けじと料理を頬張り、酒で流し込む。
「そんな事、ねぇぜ……まだまだよ。これからよ」
実際はメチャメチャ酔ってます。
もう、帰って横になりたい。
時々、日本でも外で寝ている酔っ払いがいるが、その考えが少しは分かる気がする。
何分、身体が怠くて動かしたくないし、眠たい。
「おっさん、ここいらじゃゴブリンの種族をあまり見ねぇがどゆこと?」
パッと溢れた質問は意外だったのか、オークの酒が止まる。
「……なんでぇ。そんな事もしらねぇのか。いいか?」
オークは内緒話のように声をひそめる。
俺が聞きやすい所まで顔を近づけると、オークの口から酒の匂いがした。
「ここの国じゃゴブリンはこき使われてる。お前も見ただろ。外見は工場っぽいが中身は違う。それの差異を作っているのは国の二分割化だ。ゴブリンはオークによって支配され、いいように扱われてる。住むところすら決められ、死ぬまで永遠と働かされている」
突然の話に俺の酔いもだんだんとなりを潜めた。
オークはゴブリンを奴隷にしている……のか?
「魔王様が統治してくれたこの国も魔王妃になってからは変わっちまったらしい。なんせ、悪魔軍のクソ野郎共がオークのお偉いさんを唆したらしいぜ。ゴブリンは力がねぇからな。戦争するだけ無駄、血を流すだけ無駄。そう結論付けてオークに従った。まさしく奴隷の扱いを受けている」
話を聞いていて、俺には二つほど聞きたい事ができた。
一つ、何故その話をオークが話しているのか。
二つ、統治したのは天使様のはず。
「なぁ、なんでアンタがそんな話をすんだ?」
「ガハハ……実はな、お偉いさん方以外は元の国に戻りたいって考えてんだ。多分、この場にいる全員な。けど、公にしてしまえば殺される。恐怖で支配されたんだよ、この国は。だけどな、魔王の時の国を覚えてる奴はいねぇんだ。なら、俺らが作ればいい。そう皆思ってんだ」
恐怖で支配……悪魔軍が。
俺の推測やらRPGの経験則から、ゴブリンやオークは魔法が苦手なはず。
だが、ラフィーの言う通りなら悪魔は魔法が使えるらしい。
だからきっと、魔法で恐怖を示したのだ。
そして、オークもゴブリン達も一つになった国を覚えている人は既にいないが、国が一つになる事を望んのいるらしい。
「そうか……あと、世界を統治したのは大天使なんじゃないのか? 俺の知人の昔話から聞いたが」
オークは、あぁ、とこぼすと一口だけ酒を飲んだ。
「わからん。人によって昔話の主人公が違ぇんだ。ソイツは天使と聞かされ、俺は悪魔の王、魔王が支配したと聞かされてる。まぁ、これは都合のいい解釈をしただけなんだがな」
「って、言うと?」
オークはまた、酒を一口煽ると口元を拭って話を再開させる。
「魔王が殺され、魔王妃になってから全て変わった。あの二人の喧嘩から始まった世界の分解。なら、その前までは上手くいっていた。魔王のいた時代が良かった。なら、正しいと思われるのは魔王の方だ。だから、魔王の支配が世界を統一していた。そんな解釈。お前んとこの知人とやらはどう解釈してんだ?」
ここまでの話を纏めると、魔王と比べて魔王妃は世界の様々な人種から忌み嫌われているらしい。
だから魔物系の種族は、今は亡き魔王に信仰心を捧げているらしい。
魔王は魔王で魔物系の種族を統治していたらしいな。
「こっちの話は、全ての種族の架け橋となったのが天使様って内容だ。それに、この硬貨の裏に描かれてるからこその信憑性らしい」
「あ? んなもん、こっちの紙幣じゃ悪魔の形相をしている人物像だ。魔王で間違い無いだろ」
オークから渡された紙幣の裏には確かに、魔王らしき人物が載っていた。
ますます、真相がわからなくなりオークは頭を捻り始めていた。
うーんうーんと呻いて酒を飲みつつ、考察してくれているようだった。
ならば、流れ者の俺も負けじと少ない情報から憶測してみる。
人に任せっきりも良く無いし、三人寄れば文殊のなんちゃらだ。二人しかいないけど。
俺は覚めた脳で考察を始める。
魔王が統治したのは魔物系の種族。
天使は種族を全て繋げた英雄。
悪魔の王、魔王と天使は対立関係にないといけないはず。
したがって、双方共が共存していたなんて有り得ない話だ。
「お?……わかったぞ! ガハハ!」
いきなり、声が上がる。
オークは額に手を当て、モヤモヤが取れた晴れやかな顔をしていた。
「昔話だから作り話。それでいいじゃねぇか! ガハハ!」
コイツ! 考えることを放棄しやがった!
まぁ、確かに、その時にいないと真相なんて分かりゃあしねぇよな。
本当に作り話かも知れんし。情報が足りないし、流石に真相までは辿り着けねぇか。
「ありがとな、色々と」
俺はオークのおっさんに礼を言って、金を置いて立ち去り、宿で眠りに入った。
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