十三「魔王妃討伐はNGワード」

 朝になり、初めての二日酔いで頭をフラつかせながらもスミスの店へ向かった。


 街は昨日と同じく、オーク達で騒がしく盛り上がっているのを横目に目的地へ入店する。


 「おいーっす。スミスさん、ラフィーは?」


 「あぁ。アサヒ、おはようさん。ラフィーちゃんならもう少しで起きてくるぜ。昨日は遅くまでウチの子と話してくれてたみたいだったからな。感謝してるぜ! ガハハッ!」


 朝から喧しいスミスの笑い声で眠気なんて逃げ去った。

 どうしたらこんなに元気になれるのだろう。オークかゴブリンの特権かしら?

 ラフィーは……確か、ナビィちゃんだっけ?スミスさんの娘さんと話していたのか。

 まぁ、昨日も……くっ!……ナビィちゃんと……!……話して……いたいって!!……いや、これ以上考えると悲しくなってくるからやめよう。

 泣くのは1日でいい。悪い感情は次の日に持ち越すと色々と落ちてしまうからな。テンション然り、運気もな。


 ただでさえ昨日、オークの呑んだくれに呑んだくれにさせられたばかりなのだ。

 これ以上、運気を下げてはいけない。よって、ラフィーはナビィちゃんと話したかったのではなく、眠たくて移動したくなかった事にしよう。そうしよう。

 俺は不機嫌の理由を捏造し、ラフィーの兄離れを無視していく。

 当初は早く兄離れさせてやらねばとか思ったけど、ラフィーは女の子だし、妹だし、色々と無力だ。

 俺が守ってやらねばなぁ、と考え始めると目の前の巨体に笑われる。


 「ガハハッ! またラフィーちゃんの事を考えてんのか! お前らしいけどな。あの子は強いと思うぜ、お前が思ってる以上には。分からんけど、おっさん……つーか、一娘を持つ親父の勘だけどな、ガハハッ!」


 「へいへい。確かにラフィーは強い子だけどな」


 しみじみ、ラフィーは心が強いと思う。

 そうさせてしまったのは俺の落ち度ではあるけども。

 俺が一度、離れたからこそ強くいようとしている。そんな気は薄々していた。

 だが、それ以外の所は普通の女の子と変わらないほど、ラフィーは弱い子だ。

 それに多分、心の強さも強がっているかもしれないし。


 「およ? お兄ちゃん、早いね!」


 ラフィーちゃんの参上だ!

 おっと、テンションがオーバーフローしたが俺は元気です。

 むぅ、一夜離れただけでこの感動。ラフィーには人をダメにするオーラがあるのかもしれない。

 最初は完璧な兄に〜とか、甘えさせて〜なんて考えてたけど、今じゃ立場逆転して俺が一方的に愛愛愛してる状態。

 

 「おはようさん。準備出来たら……って、ナビィちゃんとスミスさんへの話が先か」


 スミスさんが頷いてくれたので、近くの椅子に腰掛けて話を始める。


 「率直にいくぞ。俺とラフィーは魔王妃を殺しにいく。これはスミスさんには話したと思う。理由は両親が殺されたからだ。あと、個人的に世界を分割されたのもイラついてる。それで、この街では次に仲間を探す事にしてる。後は馬車だな」


 なんやかんやあって、魔王妃を殺す事をスミスさんには言ったが、細かい理由までは話していないので率直かつ、詳しく話す。

 スミスさんは両親が殺されたと聞いた時には目を丸くしていたが、今では最初と変わらず腕を組んで静かに聞いている。


 「それで……恥ずかしながら、アテがないか教えて欲しいんだが」


 すると、スミスは待っていましたかの如く、話し始める。


 「うむ、馬車ならウチのを貸してやるが……」


 「ラフィーちゃんやアサ……アサタン? には免許が無いよね」


 親子揃って痛いところを突いてくる。

 うーん、そこは今から免許を取りに行く……いや、最悪のケース免許を取るために何ヶ月も必要かもしれない。

 この街についてから考えていたのは武器の事や昔話の事だけだ。

 仲間やら馬車やらは考えて無かったなぁ……これは痛い。


 「つまり、アレだな。仲間にするなら馬車の免許があって、戦力になったり」


 「武器のメンテナンスが出来るような器用な人! だね」


 そんな人がいれば楽だけどなぁ。

 すると、ラフィーがいきなり声を上げる。

 

 「あっ……もしかして!」


 「まぁ、なんとなくわかってたけどよ……ガハハ! がんばれよ」


 ちょ、僕、話に参加できてないんすけど。

 誰かいい人知ってるのかしら?


 「はいはーい! ナビィちゃんは馬車の免許持ってて、武器のメンテナンスも出来て、戦えるよ!」


 「えっ……ちょっ、は?」


 ラフィーと変わらない生娘が俺の目の前で手を挙げてアピール。

 俺も不意を突かれすぎて言葉が出てこなかったぞ。いや、声は出てたな。

 つか、おっさん、いいのかよ。自分の娘が戦争の最前線に行くとか言ってんだぞ。


 「ふふん!」


 いや、そんな自慢気にされましても……


 「いえーい!」


 いや、ラフィーもハイタッチしてんじゃねぇよ! 仲睦まじいかよ!


 「うむうむ、可愛い娘には旅させろって言うしな、ガハハッ!」


 それ、この間俺も言いましたよクソ野郎!

 いいんだ、そんなんでいいんだ! 一応、世界の命運握る系パーティーなんですけど!?


 「これから宜しくね! ラフィーちゃん、アサタン!」


 赤髪のロングが後ろに振り返る。

 髪が綺麗に靡いていて、美しさを感じさせた。

 ふわりと香る花の香りが鼻腔を犯してきた。


 「はぁ………………まぁ、ラフィーに任せるよ」


 正直、パーティーリーダーはラフィーだから俺の意見は聞かないだろう。


 「ほらね! アサタンならそう言うって言ってたでしょ、私の言う通りじゃん!」


 なーーんか、初めからわかってたみたいな反応してたけど気のせいかな。気のせいだよね。

 あ、ちなみに俺のポジションは勇者でもなんでもないよ。そんな勇気ないし、度量もないよ。

 俺はいつだって後ろで仲間を見守るヒロインです。

 ……それならよかったんだけどね。

 ……ウチのパーティー、ヒロインさん多くないっすかね。

 うーん! 男手欲しい!


 「つか、武器のメンテナンスってどれぐらい出来んの? 最悪、スミスさんにも」


 「いや、俺は店あるし。ははーん。娘の腕が不満だと? いい度胸じゃねぇか! ナビィ、見せてやれ!」


 スミスさんも付いてきてくれんかのぉ、と伝える前に食い気味に答えられる。

 しかも、煽ったみたいになったんだけど。アサタンそんな気ないよ!


 スミスが後ろにある鍛冶で使うであろう小さな鉄槌をナビィに投げ渡す。

 ナビィは受けるが早いか、俺の腰にある、おニューの剣を抜き去る。

 そういや、兎狩りのせいで刃こぼれしてたから直してくれんのかな。技量を測るには丁度いいしな。


 すると、ナビィは剣を片手に持ち、小鉄槌を大きく振り落とした。


 パキン


 剣がブチ折られる。

 この世界に来てから二度目の破壊映像である。


 「…….は? ちょい! 何折ってくれてんの! 今、確実に脳みそが追いついてなかったわ!」


 「うるさい」


 ナビィちゃんに端的に黙らせられる。

 …….怖かった。今、オシッコ漏らしそうだった。


 ナビィは折れた剣先と剣柄を金床に置くと、一気に息を吸い込んで大きく叩く。

 剣は光を帯び、元の形へと自然に戻っていく。


 まるで、魔法だ。


 「ほぇ〜」


 「なんでい、鍛冶を見んのは初めてか。これはゴブリンに伝わる技法の一つ、『魔工作』だ。普通の鍛冶よりも継ぎ目が綺麗で折れ辛い。速さもあるし、属性派生がしやすい。だが、完璧にマスター出来ている奴はいねぇ。……俺とナビィを除けばな」


 ラフィーが関心を息でこぼすと、スミスが説明をしてくれた。

 ゴブリンは一応、魔物だ。魔法が使えても不思議ではない。しかも、ゴブリンらしい魔法じゃないか。

 スミスが自信気に胸を張ると、剣の光が剣体に飲み込まれていった。


 「……よし、完成。どう? お父さん直伝の技だよ。文句は言わせないよ!」


 ナビィから剣を受け取って、まじまじと眺めると刃こぼれは完璧に無くなっており、以前よりも鋭利さが増している。

 剣先に指を当てるだけでも切れてしまいそう。

 剣体を見ているだけで飲み込まれてしまいそう。

 それほどの美しさと力強さを感じさせていた。

 柄の部分も少し改良が加わっており、握りやすく改良されていた。


 「完璧だ、ナビィ」


 # # # # # #


 「どなどなど〜な〜、ど〜な〜」


 何故、俺が懐かしの歌を歌っているかと言うと、店先で魔王妃を倒す! とか言ってたせいかドオブの国軍さんにお呼出し、もとい捕獲された。

 今は運ばれている途中である。

 出鼻を折られるとはこの事である。


 「うーん、お兄ちゃん。運が悪かったね」


 「まぁ、私も付いて行くから捕まるのは良いんだけどさ……捕まるの早くないかな」


 二人の言う通りだ。

 運が悪すぎる。しかも、こういうイベントってもう少し後じゃないの? あと、店があるから。で、済むスミスさんはどういう事なの……


 俺は荷馬車に揺られながら、酒に呑まれた日を思い出す。


 『なんせ、悪魔軍のクソ野郎共がオークのお偉いさんを唆したらしいぜ』


 あ、これ完璧目をつけられましたね。

 最悪、打ち首待った無し。

 さぁて、待っているのはどっちかな。悪魔軍かな、オークのお偉いさんかな。

 どちらも話せば分かってくれるといいんだけど。


 「着いたぞ、降りろ」


 体感1時間程揺られた後、馬車が止まり国軍軍人に声を掛けられる。

 その後、俺らはオークの軍人さんに手荒に引っ張られていく。


 ……うっわ、でか。お城、でか。語彙力とか、そう言うのじゃない。めちゃめちゃ、でかい。

 目の前にあったのは国に入る前に見えたデカイ煙突を立てた鋼鉄の城。

 俺らはバカでかい城門をくぐってその中へと連れていかれる。

 あはは、これは確実に牢屋にドーンですね。

 俺は最悪の運気を直すにはどうすればいいか、なんて考えながら現実逃避をしていた。

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