四「旅は朝飯前に」
朝目が覚めて、知らない天井を眺めさせられる。
「そういや、異世界に来たんだったな」
この感覚は実家に帰省した時にいつもと違う天井を見た時と同じだろう。
俺は現実世界ではそんな体験は無かったが、今のこの感覚がそれと同じなのだろう、ら
「さぁて、飯だ飯だ」
ベッドから跳ね起きて、昨日のリビングへ向かう。
時刻は午前6時くらい。
アラームが無くても身体に染み付いた時間に起床、及び朝食の作成。
なんか、悲しい身体だな。
俺も、遅刻だよ! とか言われて起こされてみたいものだ。
そんな殊勝な憂鬱を抱えつつリビングに侵入する。
「おやアサヒ、早いじゃない。どしたのさね、雨は洗濯が出来ないから止してくれよ?」
朝からミカさんに卑下される。
おい、前までの俺、お前遅起きだったのかよ。
「あぁ、おはよう、ミカさん。ちなみに、最近の俺は早起きがマイブームだ」
ミカさんはそうかいそうかい、とシミジミしながら立ち上がる。
台所に向かって行ったので朝食の準備だろう。
「ミカさん? 俺も手伝うよ。なんかあるか?」
すると、ガシャンと調理器具が勢いよく落ちた。
「アサヒが……手伝い? くわばらくわばら……」
「おい! なんか酷くねぇ?!」
両手を摩って悪霊退散を唱える。
まったくもって前までの俺はどれだけプー太郎だったのか甚だ疑問である。
そういや、ラフィーの姿を見ていない。
「ミカさん。ラフィーの奴は?」
すると、ミカさんは食材と包丁をこちらへ渡し、親指で天井を指差す。
「あの子はまだ部屋で寝てるよ。あの子は寝てばっかりいて。そういうとこだけは一丁前に兄ちゃん似だったんさね。ま、マイブームとやらが早起きになったアサヒとは違うのかねぇ」
そうだったのか。
俺もラフィーみたいに寝てばかりだったのか。
確かに、授業中とかよく寝てたな。
寝る子は良く育つのだ、仕方あるまい。
俺は切り終わった食材をミカさんに渡す。
「ほい、次は?」
「はぁ、なんで存外手慣れてるんかのぅ。こっちが怖いわさ。後はやっとくからラフィーでも起こしてきておくれ」
俺は了解とだけ伝えるとラフィーの部屋に向かった。
うむ、朝から裸エプロンの隣で料理とな、初体験もいいところだ。
いい目の保養が出来てスキップ混じりに部屋の前に移動した。
「コンコン。ラフィーさん、朝食の準備ができましたよ。おはようございます」
ノックをせずに扉の前で擬音を口に出す。
しかし、中から反応はない。
うむ、返事をしないと言うことは起きていないということ。
ならば、開けてもいいよね?! ちゃんとノックしたからね?!
などと、着替えてる途中でバッタリ! 的な展開を望みつつ、部屋の戸を開ける。
「きゃー! アサヒさんのエッチ!」
「わー、ごめん!」
部屋に入ると嬌声が発せられ、反射的に謝るが、ラフィーはベッドで寝たままだった。
「おい、何がエッチじゃ。寝てるだけじゃねぇか。昨日のお前の方がエッチだよ、馬鹿」
ベッドのラフィーのとこまでスタスタ歩き、頭にコツンと拳を当てる。
「えへへ、一回やってみたかったんだ」
にぱーっという効果音が正しいような笑顔を朝からありがとうございます天使。
さて、ラフィーも起きたことだし、飯だ飯だ。
「ラフィー、着替えたら飯だぞ」
「うん、さっき言ってたでしょ」
いや、聞いてんなら返事しろや!
なんて、朝からラフィーのテンションに辟易したが、現実世界じゃ味わえかった初体験に心を浮かしてるのも事実なのだ。
「先行ってるぞー。二度寝すんなよ」
「うん、だいじょび。後でね」
わぁ、リビングに行くだけなのに手を振ってくれる妹がいるなんて!
つーか、なんだろ、いや、わかるんだよ? 2年も居なかったから寂しかったってのは。
けど、ベッタリし過ぎじゃありませんかね? なんか、家族の一線超えそうな匂いがしてきてお兄ちゃん気まずいです。
ウンウンと女心だか家族心だか分からんものに頭を捻りながらリビングにまた戻る。
すると、ミカさんは裸だった。
そういや、また裸エプロンだったっけな。
「ミカさん、ラフィー起こしてきたよ」
「そうかぃ……なんじゃろ、確かにババアじゃけど見た目はお主らと変わらんはずなのに見向きもされんとムカつくのぅ」
ミカさんは裸エプロンからいつものドレスに着替える途中だったらしく、ちょうど良くエプロンを取った時に出くわしたらしい。
うーん、反応しないわけじゃないけどミカさんの裸は見慣れちゃったよ。
ミカさんってなんで事あるごとに脱ぎたがるんだろうね。
「時にアサヒよ、お主はまた出るのか?」
また具体性に欠ける話にうんざりしそうだが、生憎、その話については良く理解出来ている。
「あぁ、それはわからん。ラフィーの気分次第かな。あいつがどう答えるかで決めるつもり。また、一人にすんのも……アレだしな?」
頭をボリボリと掻きながら照れ隠す。
ま、ラフィーだけじゃなく、俺もラフィーにベッタリなんだけどさ。
「そうかそうか。ラフィーに任せるとな。良き良き。お主らしいじゃてぇ、気張り。あの子は意外と怒りっぽい子じゃから魔王妃を許しとらん筈じゃ。どんな過程や結果になれ、あの子の近くにお主がいれば安心かのぉ」
二年もほったらかしにしていた割に高い評価を受けているようで内心照れていた。
まぁ、言葉には出さないけどミカさんも守ってやるから安心しろよってな。
「はっ、若造が。言いよるのぉ? まぁ、ワシかて戦えん訳じゃない。お主ごときじゃ手足も出んくらい強いぞ」
「いや、なんで心の声聞こえちゃってんの? 恥ずかしいからやめてね?」
すると、またくつくつと笑い出して、細っこい目を一層、細めた。
「鎌かけただけじゃがな。そこまで当たるとは。かっかっか。お主は揶揄いやすいのぉ。ま、気持ちだけは受けとらしてもらうがの」
いや、も、ホンっっトに! 食えないババアだよ、こいつぁ! もう、鎌の掛け方が具体的過ぎて脳内覗かれてるかと不安になったわ。
そんなミカさんとのやりとりをしていると、奥の戸からラフィーが入ってきた。
ラフィーは初めて出会った時と同じ格好で、髪の毛も後ろで束ねている。
「おはよ! お兄ちゃん」
「おはようさん。どうしたその格好。遠出でもすんのか?」
ラフィーは首を傾げて、キョトンとこちらをみている。
「えっ? 今日から魔王妃討伐の旅に出るんじゃないの?」
お兄ちゃんが思っている以上に妹ちゃんは血気盛んらしいです。
# # # # # #
「それで? 具体的にどーすんの?」
三人で食卓を囲んで朝食としている。
俺はラフィーの旅路に着いて行くのだが、ルートも含め、どんなイメージで旅に出るのか聞いておく。
「そーだねぇー。二人じゃ心細いから仲間を集めたいね。あと馬車! 私もお兄ちゃんも免許が無いから運転出来ないからさ」
えっ? 馬車にも免許必要なんだ。知らんかった。
確かに遠出になるのだから馬の存在は大きいだろう。
最悪、俺が引こうと思っていたが、その考えはダメみたいだ。
「ほいほい、それで? 他には?」
「あとはー……武器とか? 特訓とか? 強くならないとね!」
残念ながらレベルアップとかって言う楽なゲームでもないようだ。
ちくしょう、これじゃあ魔物の攻撃一発でも死亡すんのかよ、怖っ。
「で? 北と南。どっちから攻めんの?」
俺は北と南の魔王妃のどちらから撃破するか尋ねると、ラフィーは首を傾げて悩んでいるようだった。
「うーん、南は頭がいいから罠とか怖いし……北は力が強いから魔法とかで殺されちゃいそうだし……東?」
「じゃと思ったわ。はぁ、東ならドオブの国じゃろうな」
初めての言葉にこちらも頭を傾げる。
「ドオブ?」
「そう、ドオブ。オークとゴブリンの国じゃ。あそこなら商業が盛んじゃからな。馬も武器も手に入るじゃろ」
なるほど、オークとゴブリン。
RPGでのレギュラー種族だな。
と、なるとさ?
「じゃあエルフとかいんの?」
男の夢パート2を聞かざるを得ないよな?
「もちろんじゃ。他にもたくさん種族はおるぞ。じゃが、どれも内輪な国じゃ。他の種族と混ざろうとするのは人間だけじゃよ」
いよっしゃぁ!!
と心の中でガッツポーズ。
よし、エルフは仲間にしよう、そうしよう。
パーティーメンバーにエルフとゴブリン、ラフィーに俺。
うむ、完璧な陣だろう、魔法も武力も大丈夫なはず。
つか、俺も戦う練習しなきゃな。
「そうなると、最初は東に行くのが良さそうだ。どうだラフィー。行くか?」
ラフィーは未だに頭をひねっていたが、俺の質問にはしっかりと反応した。
「そうだね、そうしよう! さ、お兄ちゃん。旅は急げだよ!」
それって善じゃないですかね??
ま、ともあれ、これからの目標は決まったな。
「へいへい、急いでばっかだと喉詰まらすからな?」
と、言ってる側から喉に物を詰まらせている妹にマグカップを渡してやる。
はぁ、旅は大波乱になりそうだな。
胸を叩いて苦しさを紛らわしてる妹を見ながら度々、思う。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます