第2話 初めの一歩は自分への尊敬から

私の人生は、白い鳥籠に囚われたまま閉じていった。

鳥籠から見える世界は、色鮮やかで。

人生で、私が顔を合わせたことがあるのは両手で数えることができる程に少ない。

私は、自分のことを人間だ哀れな人間だなんて思ったことはない。

けれども、白い鳥籠に囚われ続けた私のことを哀れな人間だと思うことだろう。


私の希望は、フリードリヒ・ヴィルフルム・ニーチェだった。

彼の言葉は、私の人生を豊かにしてくれた。

自分には、まだまだ可能性があるのだと考えさせてくれた。

私は短い人生を精一杯に生きたのだ。

私は彼の言葉通りに自分を誇りながら幕を閉じたのだった。


そう、私の人生は幕を閉じたはずだったのだ。


最初の頃は何が何だかわからなかった。

思考がうまくまとまらず、本能に忠実だった。

腹が減れば叫び、常に睡魔が襲ってくる。

そんな生活が長いこと続いた。

実際には1年ほどだったのだが、私にとっては10年にも等しい程に長かった。


思考がきちんとできるようになったのは、叫ぶ以外の伝達手段を得てからだった。

最初に理解できたのは、自分が赤ん坊だということ。

次に、私は死んだはずなのに生きているということ。

余りにも理解できないことばかりだった。

それでも、自分の置かれている状況を理解しようと精一杯だった。


思考ができるようになってから季節が一回りした頃には、自分の置かれている状況について少しだが分かってきた。

一つ目に、今私が生きてる世界は元の世界とは違う世界…異世界だということ。

その理由は、妖精というものがいるからだ。

妖精と人間は共存しているようで、妖精がいなければ料理ができないほどだ。

また、科学はあまり発達していないようだ。

二つ目に、私には母親がいないということ。

私の世話は、中学生くらいの少女がしてくれている。

彼女の独り言から察するに、私の母親は私を産む際に死んでしまったようだ。

三つ目に、私の家族は不特定多数だということ。

世話係りの少女以外にも、私の顔を見に来る物が大勢いた。

その者たちは人間だけでなく、小説などに出てくるような猫耳と尻尾を生やした者や、耳のとがっている者、肌に鱗がある者など様々だった。

しかし、その全ての者が私の顔を見に来る時には何かお土産を持参し、俺の妹は可愛いと言いながら幸せそうな顔をするのだ。

因みに、9割方がガタイが大きく逞しい男性が多かった。


ともかく現状では意味の分からないことが多すぎる。

当分は自発的に動くこともできなさそうだ…

とりあえず、こんな状況に陥っても正気を保っている自分を尊敬しようと思う。



********************


自分がたいしたことがない人間だなんて思ってはならない。それは、自分の行動や考え方を雁字搦めに縛ってしまうようなことだからだ。

そうでなく、最初に自分を尊敬することから始めよう。まだ何もしていない自分を、まだ実績のない自分を、人間として尊敬するんだ。

自分を尊敬すれば、悪いことなんて出来なくなる。人間として軽蔑されるような行為をしなくなるものだ。

そういう風に生き方が変わって、理想に近い自分、他の人も見習いたくなるような人間になっていくことができる。

それは、自分の可能性を大きく開拓し、それを成し遂げるに相応しい力を与えることになる。自分の人生をまっとうさせるために、まずは自分を尊敬しよう。


『力への意志』


















目覚めたとき、違和感を感じた。

私の目は、光を感じることが精一杯で、識別することができなかった。

傍で話している声が聞こえるが、くぐもっていてよく聞き取れない。

体を自由に動かせないことは多々あったが、今回の様に自分の体ではないような感覚は初めてだ。

声も、発声の仕方を忘れたように母音しか発声できない。

心なしか、悲しくなってきて、涙があふれそうだ。


ふと思ったこと、それは・・・まるで赤ん坊のようだ。

病院で一生を過ごしていると、妊婦さんと出会うことも多く、生まれたばかりの赤ん坊を目にすることは少なくなかった。


まさか、生まれ変わったのか?

そんな馬鹿みたいな考えが浮かぶ。

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哲学少女 MikoRubi @mikorubi-0133

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