哲学少女
MikoRubi
第1話 人生を最高に旅せよ!
「団長!英雄様が最前線にいますよ!」
目視するには普通のものであれば不可能な距離に、私の敵はいた。最後に見た英雄よりも幾何か老けたように見える。
「どうするよ?俺様が彼奴をぶっ飛ばしてきてやろうか?」
豪快に笑いながら自らの相棒である槌を振り回し、私に冗談半分聞いてきた。
「私が行くような状況でもないでしょう。それに、隣人が動き始めたわ」
少しばかし遠くに見える隣人たちは、基本血の気の多い歴戦の猛者たちばかり。その中でも、私の片翼は英雄様を討つつもりのようで、こちらをギラギラとした目で挑発してくる。
「お嬢。ガルガンティアの参謀から通信です」
「オープンラインにして」
「了解」
”うちの団長が嬢ちゃんを呼んでるぜ。なんでも、久しぶりの共同作業をご所望らしい。悪いが、行ってやってくれや”
「悪いが、こちらも手一杯なんだ。英雄様一人に構っていられない。彼奴なら一人で抑えきれるだろう。その間に我々は左翼にいる軍団長を討ちたい」
”確かに、あの軍団長はお前らじゃないと厳しいものがあるしな。団長には言っておく”
私が行かないという報告を聞き、私の片翼は一瞬で捨てられた子犬のように落ち込んだ。しかし、私が軍団長を討ちに行くと参謀の彼が報告すると、キラキラとした笑顔でサムズアップした。戦場の最前線で、こんなことをしているのは私たちのような者たちだけだろう。
しかしながら、戦いにおいて心に余裕を持つことは大切である。気を張り詰めていてばかりでは、周りが見えなるなる。それが、直接死に繋がることはそう少なくはない。まぁ、余裕を持つのはそんなに簡単なことではない。せいぜい、戦いこそが人生だった者。或いは、人格破綻者だろう。因みにだが、ここにいる者たちは全員前者である。
「で、どうします?英雄ほどではないですが、軍団長も一騎当千の戦士ですよ」
「けれど、魔法が苦手なのだから、私とは相性が良いわ」
「そりゃあ、お嬢は魔法が馬鹿みたいに強いですけど・・・相手には、お嬢の何倍もの戦いの経験があります」
「それを逆手に取るのよ。経験に無い攻撃を私がすれば、あっけなく崩れるでしょう」
召喚勇者である英雄には絶対に効かない戦い方。私の考え付くものは全て向こうの世界では、普通のことばかり。しかし、こちらの世界では奇想天外な考え。だからこそ私は強い。
私の二度目の人生。
最高の旅にしようじゃないか。
*****
知らない土地で漫然と行程を消化することだけが旅行だと考える人がいる。買い物だけをして帰ってくるのが旅行だと思っている人もいる。
旅行先のエキゾチックさを眺めるのを面白がる旅行者もいる。旅行先での出会いや体験を楽しみにする旅行者もいる。一方、旅行での観察や体験をそのままにせず、これからの自分の仕事や生活の中に生かして豊かになっていく人もいる。
人生という旅路においてもそれは同じだ。その都度の体験や見聞をその時限りの記念品にしてしまえば、実人生は決まりきった事柄の繰り返しになってしまう。
そうではなく、何事も明日からの毎日に活用し、自分を常に切り開いていく姿勢を持つことが、この人生を最高に旅することになるのだ。
『漂泊者とその影』より
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