シルエットの顔は見えない。

@blanetnoir

目を閉じて、マグカップのお茶をひと口のむ。


ごくん、とあたたかいものが胃の中に落ちていく。


寒さが身にしみる冬の夜に、心落ち着かせる憩いのひととき。


ふと、目を開けて


部屋の天井を眺める。


何の変哲もない、無機質な、白。


その白いキャンバスに、鮮やかな心象風景が瞬いて、心に戻る。



つい二、三日前のこと、


高校の同窓生に、人の紹介で引き合わされて、あの頃の思い出、をお互い話した。


どこの部活だった?


担任の先生は?


あの子知ってる?


他愛のない、過去の姿を思い出しながら、


次第に浮き上がってくる、

あの頃の心の中。


人に聞かせることは無かった、当時の心の色模様。


その、大部分を占めていた、


最後まで言葉にすることのなかった、ある片思い。


言葉にする勇気を持たず、家に帰り自室の天井を見上げては、ため息をついていた青春の日々。


10年以上の時を経て、セピア色に薄れた思い出にすることができた今、


その存在の大きさまでは変えることが出来ないことに気付かされた。



そして、


恋の仕方も忘れるほどに日々の生活で忙殺されているこの時に、


あの頃のあの人の面影に、よく似た別の人を偶然見かけた。


その瞬間、

あの日々に感じていた甘いざわめきを、はっきり感じた。


この感覚が意味することは何なのか。


高校時代に心を動かした人の、黒いシルエットが今もこの部屋の天井に時折現れては、ぼんやり私を見下ろしている。




このシルエットは、


あの人なのか、


それともただの嗜好だったのか。




ただそれでも


思い出をこれ以上、


変質させたくはない。

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