第7話 憤怒の怨霊

13・人と人外


[両フォワードは左の敵を狙え。中央の2機は俺が引き受ける。PGは死角に入ろうとする敵を牽制し、SGはスキを見せた敵を狙撃しろ。各機とも抜かるなよ!]


 N.A.Uの新型機・valuable assetは共通のフレームに、各ポジションの追加装備を加えて完成させるセミオーダーとも言うべき個人カスタム機である。エースたるバーンズ少佐は1小隊5機の編成をかつてN.A.Uとなる前のアメリカ合衆国期に人気競技だったバスケットボールのチームになぞらえ、自身の愛機をセンターのtypeCとし戦闘および指揮の中核を成している。


[了解ですリーダー!vaPFオークレィ、突撃を掛けます。援護よろしく!]


 前衛を務めることが多いフォワード2機とバーンズ機は、一見すると両肩に小型のシールドが装備されているように見える。通常は背中側に回されており、腕部装備の使用に支障が出ないようになっているが、突撃時などはこれを正面に展開し電磁障壁を発生させながら敵機に肉薄するのである。その姿は「バスケというよりアメフトかアイスホッケーだろう」との声も聞かれるが、いずれにしても重装甲にして高質量のva前衛型とまともに衝突して無事でいられるのは同型機か、同連合のグラスホッパー型しかない。客観的データから回避推奨との結論に至ったresistorの1機は射撃で足止めを試みながら突進を回避するが、それこそがチームの狙いであった。


[暴走トレーラーを避けた先には!なんと2台目のトレーラーがっ!哀れ、悪い天使さんは避けきれず死んでしまいましたとさ!]


 vaPFの後方に付いていたvaSGのマイキーは、突進軸から獲物が飛び出す瞬間を狙いslugger‐7スラッグ弾を撃ち込む。それは猟犬に追い立てられた獲物が猟師の眼前に飛び出したのと同じく、撃たれるべくして撃たれたのだ。対装甲用の特殊弾を適性距離で浴びたresistorは左脚を吹き飛ばされ、着地に失敗して転倒したところへ追撃を受け胴部を貫通、完全に沈黙する。


[無人機の優位性を活かすため機体は装甲より運動性に重きが置かれるはず……というghostの見立ては正しかったようです。腕だけは見た目の通り堅そうですが!]


 その後もバーンズ隊の連携に抗しきれず、resistorは1機ずつ仕留められていく。彼らデータパイロットには集団戦の理解がしにくいという欠陥があったのだ。小隊の丸ごとを同じ部隊だった経歴のデータで統一できればそれも可能だが、現状では「優秀なパイロットデータを利用してミッションを遂行する」という命令しか与えられておらず、3機1小隊という形を取ってはいるが孤立を避ける程度の目的でしかなかった。


[W.P.I.U隊も、ghostが最初から指揮官なら混乱することもなかったろう。戦場ではよくあることとはいえ、不運なことだ。せめて損害が最小限に収まるといいが……]


 そう漏らすバーンズ少佐の胸中には、なぜ「ghostがいないタイミングを知っていたかの如く襲撃があったのか?」という思いが渦巻く。そして当のghostというと、こうなる可能性を予見していたかのような振る舞いなのだ。そのあたりの事情も託されたデータを見れば分かるのだろうか……などと考えつつ、敵を撃破していった。



[ghostよりW.P.I.U各機、並びにW.P.I.Uコントロールへ。遅れてすまない、ただいま戦闘に加わった。まずは柊少尉、大変だったと思うがよく耐えてくれた。以後の指揮は私が取ろう。指揮権の返還を頼む]


[snow bloomよりghostへ、お預かりしていた指揮権を返却します。ご期待に沿えず申し訳ありません、戦死者を1名出してしまいました……]


 残念ながら戦死者は増えるかもしれない。だからといって何もしないことの理由にはならないので、指揮権が復帰した弥兵衛は気の重い作業に取り掛かる。もっとも、下されたのはW.P.I.Uの誰もが予想だにしていない命令である。


[確かに返してもらった。では最初の指示だ、W.P.I.Uコントロール。直ちに楠木アビオニクス関係者を逮捕、拘禁せよ。彼らには今回の襲撃者たちへの技術漏洩、および機体の暴走について関与の疑惑が発生している。戦闘終了後に私自ら尋問するゆえ、逃走も自害もさせぬよう留意せよ]


 その指示に野営地のコントロールテントにいる士官たちも顔を見合わせるが、すぐに兵隊を研究班が使うテントに送る。そこで兵士たちが見たのは送られるデータを見て大喜びする研究員たちの姿で、兵士に拘留を告げられても悪びれる様子はなく拘留に応じた……との報告を受けるのだった。


[よし。次は暴走機の拘束だが、Venusにはライトニング・パイクは通用しない。動きを止めるには背部のコンデンサを破壊し電力供給を止めるしかないな。攻撃を加える角度が悪ければ被害はコックピットブロックにも及ぶため、責任者たる私が攻撃を行おう。各機はシールドを準備し、正面から近づき両機の注意を引いてくれ]


 一般的なフレーム構造のコマンド・ウォーカーは、人で言えば骨格のようなフレームに各パーツが取り付けられている。そのため装甲の隙間から穂先を突き入れ、制御システムに繋がったフレームに高圧電流を流しショートさせるライトニング・パイクが機能するのだが、ブロック構造のVenusはいわば昆虫や甲殻類のような外骨格の機体と言える。各部位内にフレームは存在するが一体ではなく、末端に高圧電流が流れても制御システムまで直に伝わることはない。フレーム構造機よりダメージコントロールに長ける利点がある一方で、質量がものを言うぶつかり合いなどしようものなら自機よりも軽いフレーム構造機にも当たり負けする可能性があるのだ。


(制御システムがあるコックピットブロックに電流を流せば効果はあるが、それではパイロットもまず助からないからな。ムンバイの時ほど暴走後の時間は経過していない……というところに賭けるしかないか。分は良くないがね)


 N.A.Uから借りた武装は2つで、うち拳銃に近い武器knuckle howlingは滑空時に半数以上を発射し残弾はわずか。そしてもう1つがlaser razor blade(lrb)というただの棒に見える近接武器で、棒部分を受け止められた際にレーザーで溶断する試作兵器であった。


(これを手渡された時はどうしたものかと思ったが、今となっては僥倖か。コンデンサを溶断すればショートし、動きも止まる。加減を間違えれば機体も溶断してしまうが、銃で撃つよりはまだマシだろう……)


 そう悲愴な覚悟で臨む弥兵衛だったが、コンデンサの破壊は簡単に終了する。残存の戦力が2機となった時点でresistorは退却を開始し、N.A.U機は振り切れるかと思った矢先に回り込んでいたマリアらに捕捉され包囲殲滅される、という結末を迎えるにあたり、ガルーダと野営地にいたW.P.I.U機はすべて暴走機の対処に当たることができたためだ。結局のところ、単体で見れば十分な脅威となり得る新天連の機体も、数を生かした自爆同然の攻撃以外は集団戦で対処可能……という結論に至る。しかしこの一連の戦いに於いての本当の問題はここから始まる。



「来るんじゃない、オオミヤ少尉!!小杉曹長も君にだけはこのような姿を見られたくないと願うだろう。だから来るな、これは命令だ。聞かぬとあらば発砲も辞さんぞ、私は……!」


 軍学校時代にふざけていて叱られたことは数えきれないほどあったが、それとはまったく異質の怒声が野営地の格納庫に響き渡る。主に部下をこのような姿にしてしまった己自身に向けられた怒りの籠る声に、さしものレックスも素直に従う。


「柊少尉とラダー少尉、それに中條曹長には、小杉曹長をレックスと会わせてもいいように清めてもらえるか。男の手でそれをするわけにもいかぬだろうから、すまんがお願いしたい……」


 暴走機のパイロット2人は、ムンバイの時と同じくやはり絶命していた。目や耳、鼻や口からは出血も見られ、過度な負荷が頭部に掛けられたことを伺い知れた。


「オオミヤ少尉らは、井松曹長を清め遺品の整理を行うように。各員で相談しつつ、適時休憩を挟んでやってくれればいい」


 指示を出し終えると、弥兵衛は銃の残弾を確認しホルスターに収め、格納庫を後にする。その険しい表情は「花形マニア」のラダー少尉も見たことがなかったほどで、普段の「どことなく希薄な印象」とは対極にあるといっていい。


(何度も何度も、他人をまるで実験動物か何かのように扱う。実力行使は完全な証拠をつかんでからと考えていたが、もう構うものか。これ以上は好きにさせん!)



14・人生初の所業


「諸君らが逮捕、拘禁された理由は理解しているな。罪状は主に2つ。1つは新型機Venusに正体不明の装置を組み込みパイロットを死亡せしめた背任および友軍攻撃、それに殺人。そしてもう一つは新天連に技術を漏洩した利敵行為だ。いずれも銃殺刑が認められる罪ゆえ、諸君らには3回ずつくらい死んでもらわねばならんが……まずは弁解の余地を与えるとするか。意見のある者は挙手せよ」


 楠木アビオニクスの関係者は全部で5人、女性研究員も混ざっていたが全員が罪を否定した。自分たちは会社の指示通りに作業を進めただけで、こういう結果になるとは知らなかったのだ……というのが言い分である。それでこの場は逃れられると思って気が緩んだのか、つい本音を漏らした男の言葉に弥兵衛は激怒することになる。


「そもそも、この出兵自体がテストのようなものだろう。テスト中に被検体が死ぬことなんて日常茶飯事なのに、なぜ私たちが逮捕されねばならんのだ」


「そもそもここは戦場だ。戦場で流れ弾に当たって死ぬのは日常茶飯事なのだから、死んでも悔いはないのだろうな。では新たなる世界へご案内させていただこう!」


 そう言うと、弥兵衛は正確に男の眉間を撃ち抜いた。単なる脅しで民間人を撃てるはずはない、と高を括っていた関係者たちは驚き、女性研究員は悲鳴を上げる。だが続く弥兵衛の言葉に押し黙るしかなかった。


「実はムンバイで行方不明になった、新田技師だったか。彼が新天連のスパイであったことも知っているし、連中の目的が人類のデータ化ということも知っている。私はこれでも戦闘以外で人を殺したことはないが、そこに転がっている輩に関して言えば新世界に送ってやったのだから殺人には該当しまい。で、次は誰がいい?」


 ゆっくりと銃口を動かしながら脅すその迫力は、どういう状況であれ自らの手で命を奪ってきた男の持つ独特の空気があった。申し開きをする気力すら雲散霧消したのを見て、弥兵衛は質問を変える。


「まだこの世界に未練があるならば、知っていることはすべて話してもらう。私が少しでも整合性が取れていないと感じたら即座に新世界送りということを肝に銘じて、さっそく質問に答えてもらおうか。まずはVenusの仕掛けについてだ」


 言わなければ撃たれる、という事実は相手を白状させる脅しとしては十分だった。Venusに仕込まれていたのは「パイロットの脳にデータリンクし戦闘能力を向上させる」システムの試験モデルで、いずれ脳波で機体を制御させるための技術開発が目的であるという。ただ、脳とのリンクにより膨大な知識が流入することになり、大半の人間は発狂して死ぬか廃人に至る結末を迎えた。どこまでなら一線を越えないか、それを調べるための新型機開発だったのだ。


「そして、その当て馬とされたのが新天連の機体か。あちらは最初からデータ化したかつての人が扱う前提で組まれている、言わば諸君らの夢の形なわけだ。出所については……まあだいたい分かっているからいいとして、最後の質問だ。W.P.I.U首脳部はこの計画を知っているのか。それとも企業なり一部の軍関係者の独断か?」


 返答は「首脳部の主導によるプロジェクトではない」というものだった。自分たちの主導だ、と言い切れないのは銃を向けられていたからか、それとも非人道的な計画であることは理解しているためか。いずれにしても知りたい情報は得られた今、もう彼らに用はない。


「これからVenusの胸くそ悪いシステムの解除を行ってもらい、それが完了し次第この隊から出て行ってもらう。企業に顔を出せば始末されるというのであれば、どこの連合なりへと亡命でもするがいい。ところで、死にたくなくばこの話は内密にな。話せば部下たちに撃たれても仕方のないことをしたのだから」


 こうして花形中佐による尋問は終了し、尋問中に抵抗しようとした1名を射殺したという形が取られる。非武装の、しかも自分に殺意を向けていない相手を一方的に殺害したのは花形=ルーファス=弥兵衛としてはこれが人生初で、そして最後となるのだが、自身が「人らしい激情を感じた最後の出来事だった」と振り返るのはまだ先のことである。


 なお、弥兵衛はここで得られた情報を葉山准将にのみ送ったことが後に発覚する。しかしすべてを明らかにしても結末に変わりはなかったろう。N.A.Uの諜報部による調査により、初めてresistorと遭遇した地点の北側にエンゲルスへと続く大規模地下通路の存在が確認され、防衛拠点キジルオルダを避けて本拠地エンゲルスを攻略する作戦が立案されたためである。各企業や新天連の思惑を内包したまま、この戦いは最終局面へと移っていった。



15・堕ちた天使の都


 ng歴304年2月6日、必死の抵抗を続けるキジルオルダ防衛隊に緊急通信が入る。それは「エンゲルスの地下都市に先進国連合同盟軍が侵入し教団本部は灰塵と化した」というものであった。その報に接した信者たちは次々に「新たなる世界」へ旅立って行ったが、弥兵衛はそれを止めようとは思わなかった。


「死にたいという輩を無理に止めるのは、死にたくないという者を見捨てるのと変わらないだろう。少なくとも当人の意思にそぐわぬ……という意味においてはな」


 自害した信者の亡骸を見てそう口にした弥兵衛の顔は、冷厳そのものという表現が適切だった。生きるために努力をし、それでも報われない結果が電脳世界への逃避なのだとしても、実際に肉体を有した状態でなければ成し得ないこともある。誰かに再生してもらえばいつでも生き返ることができるから、と安易に死を選ぶ者たちにかける情けを持ち合わせてはいなかったのだ。


「教団のトップはまだ発見はできないか。これだけ探してもいないということは、すでに新世界へ旅立たったのかもしれんが……」


 エンゲルス陥落から3日。いまだに教皇ベルーナらは発見されず死亡説もささやかれる中、主目的たる新型ウィルス兵器の製造プラントは破壊された。ウィルス自体も熱により死滅することが判明し、ワクチンも既成のものに手を加えれば効果があることも各連合に通達される。結局のところ、新天連を利用した勢力は本気で新天連を勝たせるつもりなどなく、自分たちの利益となる範囲で好きにさせていただけのことだった。唯一の誤算は、教皇ベルーナもそれを知っていたことである。


「世界の各連合で爆破テロだと?標的は防空用高出力レーザー施設……なんだってそんなものに狙いをつけたんだ」


 防空用高出力レーザーは、主に高高度での弾道弾迎撃を目的とする大型のレーザー砲である。しかしこれが使用不能になっても通常のレーザーで弾頭を焼くことはできるため、弾道弾に対する抑止力に大きな影響はない。大型の施設だが重要度はあまり高くなく、狙いやすいという点はあったにせよ、入り込んだスパイという貴重で数少ない駒を使う価値があるとは思えなかった。


「おーい中佐、お客人だぜ。I.O.Tの見届け人がお帰りだとよ。もう戦いも終わったようなもんだし、コマンド・ウォーカーの出番もなさそうだからな」


 あの日、小隊の2人が戦死して以降レックス=オオミヤ少尉は確かに変わった。部下を死なせてしまうということが、それでいて自分は生き残ることがどういうことかを彼なりに考え理解した結果なのだろう。自分がなぜ花形=ルーファス=弥兵衛という男に勝てないのか。それは才能や場数の差ではなかったと、今ではそう思える。


「そうか、お通ししてくれ。I.O.Tにもラール将軍にも、補給面でずいぶんとお世話になったからな。帰りにまた寄らせてもらうだろうが挨拶を……いや、まずい!!」


 かつてラール将軍と話をしたとき、彼は「月へ行くなら、過去の宇宙開発基地として使われていたバイコヌールでは?」と言っていた。エンゲルスの西方にあるバイコヌールに戦略価値があると認められず部隊も送られていないが、そこから極秘裏にロケットを打ち上げるなら高高度に届くレーザーがやっかいなのも当然なのだ。


「至急、同盟軍本部に連絡を。教皇ベルーナらの居場所に目星がついたとな。それとW.P.I.U各小隊は進発の準備を整えろ。もう一戦、最後の戦いがあるぞ!」


 まだ実際に確認したわけではないが、バイコヌールであるという確信はある。そしてエンゲルスの陥落とレーザーへの破壊工作の時期を考えても、ロケットの発射までそれほどの猶予があるとも思えない。弥兵衛は「行軍開始は偵察隊が戻ってからでもいいだろう」という同盟軍多数派の意見を無視し、独自に部隊を進める。そしてバイコヌールもあとわずか、というところで遭遇した敵の姿を目の当たりにし、自身の直感が正しかったと再確認した。


「Dark Angel……いや、正式名はresistorだったか。その名の通り、最後の抵抗をしようというのだな。コマンド・ウォーカー各小隊は順次発進、各機の連携を重視し複数機で1機に当たれ。緊急連絡を受けた友軍が到着するまでが勝負だ。ここまで生き延びて死ぬのもバカバカしいからな、各員とも無理はするなよ!」


 因縁の相手ということもあり、それぞれのパイロットに思うところはある。指揮が至らなかった柊少尉、策が裏目に出て戦死者を出したラダー少尉、そして失って初めてよく尽くしてくれていた人がいたことを知ったオオミヤ少尉。3人は特に士気旺盛で、しかも前回とは明らかに違う鋭さがあった。


(これならここは任せても大丈夫か。いずれバーンズ少佐も来てくれるだろうし。ならば私は、この手で決着をつけよう。出した犠牲をムダにしないために)


「ghostより各機へ。これより指揮権をsnow bloomに移譲する。現状を維持し、友軍の到着まで時間を稼げ。大丈夫だ、今の戦いぶりなら負けはしない。任せるぞ!」


 それを最後に、指揮車輛からの通信は終了する。これまでの例で考えるとこれはガルーダの発進を意味するのだが、そうならそうと言うはずなのだ。いつもの指揮官らしからぬ物言いにやや違和感を抱きつつも、今は眼前の敵に集中しなければならない。ほぼ互角に戦えているが、気を抜ける相手ではないのだ。


(逃がしはしないぞ、諸悪の根源を。ここで逃がせば遠い未来、この世界にとっての厄災となる可能性もあるからな。死に誘う、などと生易しいものではない。どのような手を使っても必ず討つ。まだ人であるなら絶対に殺す)


「ガルーダ起動開始。ECMレベル、最大を維持。通信も封鎖し、荒地用迷彩ヴェールを使用する。バイコヌール基地に急接近できる距離までは歩行移動だ。行け!」


 操縦サポート用のAIに指示を出しつつ、弥兵衛はコックピットでパイロットスーツを着込む。もうすぐ東のエンゲルスから同盟軍が大量に押し寄せ、それは敵の目やレーダーにも止まることだろう。そして時間稼ぎのため、戦力の大半を差し向ける以外に手立てはない。ならばECMでレーダーから身を隠し、迷彩ヴェールで目から身を隠し、一気に潜り込める距離まで忍び足で近づく。まるで大昔の戦闘法だが、そんな時代錯誤な……という手段だからこそ不意も衝けるのだ。時代が変わっても、最終的に人のやること考えることはそこまでの変化はない。人自体はさして変わっていないのだから。


「さて、後はこちらに気付かないでくれることを祈るばかりか。近づけば発射台の位置はつかめるだろうが、それさえ破壊できればまずは目標達成だな。可能なら後腐れのないよう、始末してしまいたいがね」


 W.P.I.U隊を運んできた運搬車から赤茶系の色をした特殊繊維を頭から被り、人知れずガルーダが出撃したのはng歴304年2月11日16:24のことである。W.P.I.Uの正式記録によると、この出撃を以って「WCW‐G302Rガルーダおよび同機パイロット花形=ルーファス=弥兵衛中佐 MIA」と記載されることになるのだった。

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