第3話 発現
「あんた達、どうなってんの」
怒りマークを額に書いたような花楓が晃の机をバンと叩いて睨みを利かせている。朝から面倒なことこの上ない、と晃は思いながら、ははは、と笑った。登校して二時間目の授業が終わった休憩時間のことである。一限目から来られるよりはマシか、と晃は思った。
「どうもこうも、いつも通り」
晃は答えて立ち上がる。スタスタと歩いて行く晃の後ろを追いながら、花楓はその華やかな美貌を曇らせている。
「ねえ、このままでは永里が困った事になるわよ」
「どういう事?」
晃はどこ吹く風のまま、一階にある購買部に入って行った。まだ午前中のせいか、人はまばらだ。スムーズに目的の焼きそばパンとミックスジュースを買うと、渡り廊下に足を運んだ。
「またここ…」
花楓が呟き、腰を下ろしてパンをぱくついている晃の背中を膝で蹴った。
「おいおい、食事中だよ?」
晃は一瞬で食べ終えると、立ったままの花楓を見上げる。相変わらず早食いね、と小声で呟いて、花楓は晃を迫力満点に睨んでいる。
「それで永里が何だって?」
幼馴染の刺すような視線もびくともせず、晃は穏やかに尋ねる。
「一族の
「はあ?処分って
「笑い事じゃないのよ。永里があんたとくっつかなければ、次の当主が生まれないってことでしょう?こんなことは一族始まって以来よ」
「そんなに大ごと?」
晃は立ち上がって
「あんたはお気楽すぎてお話にならないわね。
上月、という叔父の名前が出てきて晃は首を
「この期に及んでまだわからないって顔しているのね。本当にもう、困った人」
花楓は苦笑して、それ以上何も言わなかった。
「
晃は愛らしい大きな瞳を向けてくる花楓の髪を右の人差し指に巻いた。
「僕が困ったら、お前が何とかしてくれるんだろう?」
「あんたって、本当に馬鹿よね。最低」
花楓の口調は言葉とは裏腹に優しかった。
「しょうがないよね?僕は非力で単細胞な馬鹿男子だからさ」
幼稚園の年長の時に彼女から言われた文句を言ってみて、晃は意地悪く微笑んだ。
「いつまで根に持ってんのよ」
花楓が明らかにむくれて晃の手を払いのける。
「馬鹿ばっかり言ってないで、妻のご機嫌でも直して来たら?」
「うん?」
花楓の指さす方向には、渡り廊下の入口の扉の影でブリザードを吹き付ける永里の姿があった。背に
「晃さん」
一歩一歩進むごとに大地を氷に変える永里に
「ど、どうした、永里」
「花楓さんと仲が良いのは承知しています」
「あ、ああ」
永里の目が赤い。ほのかに体からも光を発している。彼女の
「永里?」
花楓が永里に向けて手を差し伸べる。
「晃さんと花楓さんが思いを寄せあうのは自由です。私の口出すことではありません。でも、
永里が苦し気に言う。それを見て何も言わず花楓が思いっきり永里の体を抱きしめる。永理の力の暴走を止める為だ。だんだん冷や汗をかいて、花楓がそれでもきつく永里の体を抱えている。
「晃、暴走するわ、この子。何とかして」
花楓の苦し気な声が晃を動かす。
彼は永里の
「雪解けだな」
唇を離して、晃は呟いた。永里の体の変化は目にできる。だが、彼自身の中にも見えない変化があった。それをどう表現して良いか彼にはわからない。力強い命の息吹が自分の中に生まれたような、そんな感覚があるのだ。
これを続けていけばどうなる?
ハッとして、凶暴な思いは凶器なのだと晃は本能的に悟った。この思いのまま永里に近づけば、きっと彼女を壊してしまう。だから、彼女に近づくことに恐怖を感じたのだろうか。晃は自問しながら、それでも、もう一度永里の唇を吸ってみたくて、腕の中の彼女を見つめる。彼女は全幅の信頼を乗せて見つめ返してくる。
この目を、知っている。
晃は心臓が
それは、美しい女だった。いつも冷たい色を宿す赤い瞳にはもう慣れた。
しかし、それが甘かったということは、後に身をもって知った。
死を前にして、自分は滅びても良かったのだと彼女に伝えたかった。彼女が生き延びてくれれば、それで良かった。なのに、どうしてこうなった?何がいけなかった?
手にした彼女の
「晃!」
ガツンと頬に拳を受けて、晃は痛みで我に返った。
「智?」
目の前にいるのは男が見ても惚れ惚れするほど見目の良い鏑木智で、ちょっと、いや、かなり怒っている。晃はその理由がわからない。
「お前、人の彼女に何してるんだよ」
「は?」
晃はぼんやり智を見、腕にいたはずの永里が花楓に抱き抱えられているのを見、自分の手が血まみれでない現実を確認し、そしてまた智を見た。
混乱している。
「ん?」
今は何が起こっているのか、それがわからない。血まみれの女はどこへ行った?
「お前、今、永里ちゃんにキスしたろ?」
「え?」
そうだったか?いや、そうだ。それで?
晃は困ったように智を見る。智は良い男っぷりを曇らせている。
「そういう関係なら最初から言えばいいだろう?」
悔しそうに智が言うのを他人ごとのように感じて、晃は思わず笑った。
「何笑ってんだよ、人が真剣に話しているのに」
智が怒るのも当たり前だと思うのに、この笑いは止まらない。それどころか、ますます激しくなっていく。
そうだろうとも、僕自身も知らない。
高笑いから一転、天を見上げる瞳から涙が流れ落ちる。
「どうして僕は産まれて来たんだ」
明らかに様子のおかしい晃に、怒っていたはずの智は心配そうに彼の腕を掴む。
「晃?お前、どうした?おかしいぞ」
「ああ。僕はおかしい」
晃は涙をぬぐい、智の肩を抱く。
「悪かった」
そう言って、何事もなかったように歩いて行く。
「おい、晃…」
智の声が晃の後姿を追うように響いたが、彼は振り返らなかった。
晃は急いで学校を出て家に戻った。誰もいない家は静かで、晃の一挙一動がやけに響いている気がする。
台所で蛇口をひねって水を出すと、頭を突っ込んで文字通り頭を冷やした。
記憶の断片が激流のように流れ込んでくる。
誰の記憶なのか、聞かなくともわかる。代々の当主の記憶だ。
初めは鬼の
代々の当主は勤めをきちんと果たし、十六歳で鬼の力を受け取った。誰も暴走することなく、血のにじむ努力で冷静を保ってきたのだ。
記憶はそれだけではなかった。
幼い自分が郷で永里に出会い、彼女から力を受け取ってしまったこと。もう既に暴走したことがある事を晃は思い出した。そのせいで、母は亡くなったのだ。自分の暴走を止める為に、母は自分を犠牲にして晃を人間に戻した。そして永里の中に鬼の力を戻した。父は永里と晃を会わせない為に郷を離れ、この町へ引っ越したのだ。
永里に触れられない理由は、そこにあった。母を死に至らしめたこの力など、望んでいなかったはずなのに。
でも、もう触れてしまった。あとは彼女を壊してでも、彼女の力もろとも鬼の力を食らい尽くしたい衝動が渦巻くだけだ。今、晃はそれを必死に抑えている。
手が震えてくる。
他の当主は抑えた衝動が、どうして自分だけ抑えられることができないのか。
「くそっ」
晃は蛇口の水を止め、濡れたままの頭を拭きもしないで突っ立っている。
ゾクゾクと震えが体中を揺らそうとする。
永里の柔らかい喉に食らいつき、彼女の白い肌に赤い花びらを咲かせるのはどんなに楽しい遊びだろうか。きっと彼女のうめき声が耳に心地よく響き、得も言われぬ快感を呼び起こす。鬼である彼女は歯を立てて食いついたくらいでは死なない。だからこそ、どこまで痛みを我慢できるのか楽しみだ。
そこまで考えて、晃は呆然とする。
彼女を傷つけることなど望んでいない。なのに、どうしてそんな欲望に支配されそうになる。
おかしくなっているのか?
滴る水滴は床を濡らし、そこに映った自分自身に、晃は息を呑んだ。
赤い瞳は野心にぎらつき、冷酷な眼差しが獲物を探す。
世界など、壊れてしまえ。
それは晃であって、晃でないもの。
「晃?」
背後で花楓の声がした。
振り向く自分はどんな姿をしているのか。
「ずぶ濡れじゃないの」
花楓がタオルを洗面所から持ってきて晃の体を拭く。されるがままの晃は天を仰いだまま、目を閉じている。その姿は深い
「ねえ、どうしたの。変よ?」
「どうして来たんだ?」
「ちゃんと玄関から入って来たわよ?」
花楓ははぐらかして答えた。晃の中に鬼の力が少し復活していることはもう感じている。だが、それを言葉にするのは
晃は花楓の腕を掴み、引き寄せて彼女の柔らかな唇を奪う。だが、すぐに離して「ごめん」と呟く。
「永里とは違うんでしょ?わかっているわ。あんたの求めるモノは永里にしか与えられないものだから」
花楓は晃の濡れた制服を脱がし、ハンガーにかけた。
「着替えてきて。風邪をひくわ」
「ああ。ところで、花楓」
「なに?」
「お前に見える僕は僕のままか?」
その低い声の問いかけに、花楓は頷いた。
「あんたはあんた。私の知っている早坂晃のままよ」
彼女の答えに晃は頷いた。
「ありがとう」
とぼとぼと自分の部屋に戻った晃はジーンズと白いシャツに着替えた。居間に行くと、花楓が仁王立ちで宙を睨んでいる。
「どうかした?」
「変なものが入って来ているわ」
「どういうこと?」
「わからない。鬼のようで鬼でないもの。何かしら?」
「放っておけばいい。どうせ悪さはできない」
晃の絶対的な言い方に、花楓が息を呑む。
「ん?」
「いいえ、何もないわ。我が主君。あなたの元へ、永里を戻しても問題ないですか」
言葉遣いが変わっている。晃は吐息をついた。鬼の力を得るというのはこういうことなのだと実感する。
「ああ。もう平気だよ。取り乱したりしない」
「わかりました。ところで、あなたは思い出されたのですか」
何を、と言わないところが花楓の優しさだった。
「母のことなら思い出した。死に間際の顔も、力の暴走も、未熟な僕のことも、きちんと思い出したよ。でも、今の僕は大丈夫だ」
大嘘だ。大丈夫なわけない。今にも凶暴な思いに暴走しそうになる。
「では、すべての力を取り戻されますか」
これは最終確認。永里を得る為の準備はできているのか、と問われている。
「ああ。そうしようと思う」
永里の中にある早坂の当主の力は、禍々しすぎて鬼である永里にさえ制御できない。それを自分のものとするのは、永里の為でもある。
花楓は一礼して消えた。
しん、となった居間に残されて、晃はソファにどかっと腰掛けた。
辺りに漂う気配を晃は知っている。花楓は警戒したが、悪いものではない。優しく手を伸ばして、それに触れてみる。
「大丈夫。心配ないよ」
晃はささやきかけ、そしてそれを手放した。気配は消えた。
大きく息を吐き、そして吸う。
背後に別の気配を感じて振り返る。
「父さん、おかえり」
「ああ。お前も、おかえり」
和正は晃の隣に座り、足を組んだ。
「それで?」
和正の問いに、晃は首をすくめた。
「母さんのこと、謝るよ」
父の妻を死に追いやったのは息子の自分だ。悲しむ間もなく、和正は晃を守る為に故郷を去った。
「いいや。謝るのは私の方だ。お前を守ってやれなかった。佐和は自分の役目を果たしただけだ」
佐和というのは母の名前だ。
「父さんも、鬼の力を得る時は苦しかった?」
「晃、そのことだが…」
和正はじっと晃の目を見て、その目の色を確認するように覗き込む。
「お前は特別なんだ。三百年に一度の、鬼の当主だ」
「どういうこと?」
「当主と言っても、すべての当主が鬼になるわけではないんだ。血を受け継ぐために、存在するだけの当主がほとんどだ。そして三百年に一度、真の当主が生まれる。真実鬼の力を受け継ぐ為に産まれてくる。記憶も、力も、鬼を退治したという早坂黒統宗衛門のそのままの。生まれ変わり、とも言われている。お前が真の当主だから、何が起こるかわからないと、お前が生まれる前から言われてきた。だから、佐和も私も覚悟はしていた。自分の命も体も、お前を守る為に使うと約束していたんだ。佐和はその役目を果たし、私も果たそうと思っている」
和正の告白に、晃は自分が孤立しているような感覚に陥る。この衝動を誰も理解できない。代々の当主と思っていたのは、自分の生まれ変わる前の記憶、ということか。鬼と化す自分に恐れを抱き続けて生きていく。それを繰り返してきた。
長年の慟哭を、誰も知らない。
晃は背もたれにもたれて、もう一度溜息を付いた。
「母さんは死に間際、微笑んでいた」
晃は重苦しい口を開いて、そう言った。
「ああ、お前を守れて満足だったろう」
「もし、僕があの時に鬼の力を全部手にしていたら、母さんは生きていた?」
「いいや。お前は世界を壊そうとしていた。誰も生きてはなかったろう」
やはり、か。
世界を壊す。
それが甘美な響きを持っている限り、晃は鬼の力をコントロールできていないと思わなければならない。
「それで、父さんは僕の変化に気が付いて、帰って来たわけか」
「まあな。みんなかたずを飲んで見守っている。真の
「長、ね」
晃は永里のことを思い浮かべた。
嫁になることを望んでいたのは、力を戻す為。晃を気に入っているからではなかった。それが切ない。
郷の理だから。
それは分かっていたし、自分もそれが嫌で理由を付けて永里を妻扱いしなかった。でも、今は違う。妻であるのは必然。自分たちはお互いを必要とする存在だったのだ。鬼の郷の理は、彼らに重くのしかかる。
「永里の力を引き継ぐよ。いや、返してもらうって言えばいいのかな?でも、体の関係は持たないからね。まだ高校生だし」
言い訳がましく晃は宣言した。
「晃、その、体の交わりなしで永里ちゃんの中から力を取り戻せるのか」
和正の心配そうな
「できるよ。実際、小さい頃はやっちゃったわけだし。まあ、そりゃ、繋がるのが一番手っ取り早いけど、徐々にやる。そうでなきゃ、ちょっと僕のキャパ超えているみたいだし。慣らしながらでないと、自信ない」
素直に打ち明けて、晃は深く息をついた。
「そうだな。徐々に、やってくれ。世界を壊されてはたまらない」
冗談のように和正は言ったが、あながち冗談ではない事はお互いわかっている。
「永里は僕の妻だからね。大事にするよ」
やっと晃は永里を妻とする覚悟をした。逃げてはいられない。
「さてと、邪魔者は消えますか」
和正が立ち上がって言った。
「え、どこか行くの?」
「父親が家にいたら気まずいだろう?喫茶店にでも行ってのんびりしてくるよ」
「うん、わかった」
「今夜は帰ってこない方がいいかな?勢い余って事に及ぶこともあるだろうし」
「…父さん、それはない」
思春期にありがちな体への欲求は抑えられる。それは確実だ。不安なのは力への欲望への自制心が持つかが分からない事だ。それよりも永里を壊していしまうかもしれない恐怖の方が大きい。だから、断言する。
「そうか。なら、帰りにお惣菜を買ってくる。夕飯の心配はするな」
冗談めかして言って、和正は出て行った。
しん、とした室内で、晃は手足を伸ばして脱力する。気が重い。
晃は気分を変えようと立ち上がって、お茶を入れにキッチンに立つ。棚からアールグレイの茶葉の入った青い缶を取り出すと、紅茶用の白いポットに入れて電子ケトルで沸かした熱い湯を入れた。ふう、と息を吐いて、晃は自分のマグカップにケトルに残った湯を入れて温める。ふと気配を感じて、彼はもう一つ溜息をついて、永里のカップにも湯を入れた。
「おかえり」
振り返りもしないで、晃は帰宅した永里に声をかける。
「着替えておいでよ。お茶を入れるから」
「晃さん」
永里は戸惑ったように晃の背中を見つめて立ちすくんでいる。晃は滅入る心を隠して笑顔を作り、振り返る。
「お茶が飲みたいんだ。君も一緒にどうかな、と思って。制服だと落ち着かないだろう?着替えて来たら?」
「…はい」
永里は素直に頷いて、自分の部屋に行った。
その永里の涼やかな美貌に、晃は苦笑した。感情を隠すのは永里の方が得意のようだ。何事もなかったような顔ですましている。
晃はマグカップの湯を流しに捨て、ポットからお茶を移した。ほんのり赤色の香ばしい液体を見ながら、晃は永里が着替えて戻ったのを気配で知った。
振り返ると、永里は白い浴衣を着ていた。
「うん?」
「晃さん、あなたのお好きなようになさって下さいませ」
「うん??」
永里が恥ずかし気にうつむく。
「最初に言っておくけど、抱く気はないから」
永里のカップをテーブルに静かに置いて、晃は座った。それから、ずずっと紅茶を飲んで、永里にも着席を勧める。彼女は大人しく腰掛け、晃の淹れたお茶をそっと口に入れた。
「おいしいです」
「そう、良かった」
晃は微笑んで、永里の顔を見た。彼女の心理を拾おうと、じっと観察する。
永里は涼やかな美貌のまま美しい所作で紅茶を飲んでいる。しかし、晃は彼女が緊張しているのがわかる。微笑ましい強がりだ。
「怖がらないでいいよ。本当に、いや、たぶん襲ったりしないから」
晃はお茶を飲み干して、立ち上がる。カップを流しに置き、それから永里の背後に立つ。
「ちょっと失礼」
晃は後ろから彼女の頭を優しく抱きしめる。
どくん、と彼の中に力の鼓動が流れ始める。そして彼女の体は黄金に輝く。
溢れる力のうねりのようなものに晃は快感を覚える。
もっと、もっとだ。
晃の手が永里の首元に落ち、優しく撫でる。が、次の瞬間、その手に力がこもる。永里はされるがまま、抗いもせずにいる。
「ぐふっ」
永里の口からくぐもった声が漏れた。晃の手が永里の首を絞めつけている。
ハッとして、晃は永里から離れた。
「ごめん、永里」
「大丈夫です。謝られる事はありません」
顔色も変えず、永里は言った。晃は元の席に腰掛けて、永里の赤くなった首を見た。
「どうして拒絶しなかったの?」
「晃さんのすることに私は疑問を感じません」
「…は?」
「旦那様のなさることに妻は口を挟まないでしょう?そういうことなのです」
「そうか」
もはや永里の思考回路に疑念を挟まないようにしている晃はただ頷いて、永里をじっと見つめる。その美しい顔には安堵の色が浮かんでいる。
「抱かれなくて残念だった?」
「と言いますと?」
はぐらかすように永里は答え、何食わぬ顔で立ち上がってカップをシンクに運んで洗った。
「君は僕が好きじゃない。違う?」
「そんなことはありません。お慕いしています」
即答して永里は洗ったカップを布巾で拭いて戸棚にしまった。
「智の事は好きだ。そうだろう?」
晃の続く質問を永里は冷たい目で答えに代えた。
「本当のことを言っても怒らないよ。僕も智のことは大好きだし、君に似合うと思うよ」
晃の言葉に永里は動きを止めた。
「本当に晃さんは何もわかっておられません」
永里はそのまま自分の部屋に行ってしまった。
「わかっていない方が楽なんだって」
晃は誰もいない部屋で呟いた。
その双眸は金色に光り、爪は鋭く伸びてナイフのように光っている。
最強の鬼が発現した証だった。
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