第12話 その名はすでに魔法の様
「じゃあ次は……男子メンバーからいこうか」
堀田先輩が次の自己紹介を促したのは、俺の対面に座る、前髪が長すぎる根暗そうな男(おそらく二年の先輩)。あぁ、はい、と呟いて立ち上がる。前髪に覆われた顔面から覗く気怠そうな片目は、視線を下に落としていた。
「えぇと、僕は、
微かに聞こえた「我が」に誰も反応を見せない事に、この教室は本当に優しさで溢れている事を知り、一瞬でも蔑みそうになった自分の小ささに胸が苦しくなる。
そしてもうすでに闇堕ちしてそうな寿門先輩は、おそらく自分の口から発せられた「我が」に羞恥を感じたのだろうか、顔を赤らめている。家では「我が」と言ってるのかもしれない。仲良くなると「我が輩は」なんて、人間界のニュース番組でコメンテーターなんてやっている主婦層に人気のとある悪魔の様な口調で会話に勤しむのかもしれない。
「ああ、あの、ありがとうございました」
不意にそう締めくくり、寿門先輩は席に着いた。
「じゃあ次は」
「そうね、私から」
堀田先輩と目線を交わし立ち上がったのは、黒髪を高飛車なツインテールにしているヤンキー魔女、アリス先輩(おそらく堀田先輩と共に三年)。すでにヤンキーの気配は消え去り、美しき細身のお嬢様へと戻っていたが、あの睨みつけられた衝撃は中々拭えない。
「私は、
その外見は十分に美しいとまで言えるし、口調も明るい性格そのモノだった。暗い性格、という言葉が嫌味に感じてしまう程に。正直嫌味だとしても、可愛いから許されるほど可愛いし、嫌味に聞こえないほど明るげだ。
「だから、その時に思ったの。魔法を使えたら、そんな私も明るくなれるかもしれないって。誰とでも、分け隔て無い関係を作れる様な、私の様な暗い子も、光で照らせるような、そんな魔法使いになりたい。そう思ってる。まだまだ全然だけど、みんな、よろしくね」
微かな陰を感じさせる明るげな決意を口にして、アリス先輩は席に着いた。もうその憧れの存在に成れているような気もしたが、もしかしたらさらに上を目指しているのかもしれない。熱血テニスプレイヤーとか、元オリンピックマラソン選手とか、浜に上がったアニマルの様に。もしそうなら止めさせよう。行き過ぎは何事も良くない。見る分には楽しいのだけれど。
そんな事を考えていたら、空席を一つ跨いで俺の右隣に座るナチュラル茶髪のふんわりお姫様(おそらく二年の先輩。やっぱりおっぱい大きくない?)が立ち上がった。
「
あぁ、癒される。この人はすでに魔法使いだ。だってその身体に纏う優しげな雰囲気と、おっとりとした口調(と大きなおっぱい)が、すでに俺の耳と目を癒しているのだもの。
女性同士の場合、一人称が名前の女は地雷だと思われるとか何かで見たが、そんなん正直、男はどうでも良いと思っている。もし本当に地雷でも、踏んづけて爆破されたい。
「おばあちゃんが、本物の魔法使いだったと、信じています。小さい頃、どんなに痛い怪我も、どんなに寂しい気持ちも、おばあちゃんはすぐに癒してくれました。たくさんの魔法を、教えてくれました。紫乃は、そんなおばあちゃんみたいになりたいです。よろしくお願いします」
そういってふんわりお姫様、紫乃先輩は席に着いた。俺は拍手を奏でようとした両手を押さえつける。結局はおっぱいですか? と言われかねない。
「じゃあ最後に」
と堀田先輩に促され、赤リボンのオカッパ女子が慌ただしく立ち上がった。すでに顔がほんのりと赤い。その不安げに揺れる視線は机上に向けられていた。
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