熱戦~VSさとり鵺③

 そして、何を合図にしてか、勢いよく切り込む。

 一直線に敵へ向かった彼に、さとり鵺は雷撃で迎撃する。真っ向から迫ったそれに、剣聖は身を傾けてそれを回避、そのまま止まることなく相手の間合い内へ踏破する。

 そして、ただ渾身の力を込めて相手の顔面へ斬撃を叩きこむ。思考を読める相手へ、フェイントなどは意味がなく、ただ一撃に身を賭けて放つしかない。ゆえの攻撃は、視界が濁って思考も鈍ったさとり鵺には最も脅威だった。さとり鵺も充分警戒しているとはいえ、躱しきるまでは至らない。慌てて躱す相手だが、斬撃は奴の顎に直撃し、その部分を弾き飛ばす。顔の肉の一部が削ぎ落とされる鈍痛に、奴は苦痛の咆哮を上げる。

 それに、剣聖は満足しない。

 彼は斬撃を振り切るなり、その場にとどまらずにさとり鵺の背後へまわりこむ。

 その後を、雷撃の雨が追う中で、剣聖はさとり鵺の背後へ至ると、その尻尾を斬り飛ばす。吹っ飛んだ尾に、さとり鵺はまたも吼え、勢いよく振り返りながら前足を振るう。迫る爪の斬撃に、剣聖は体勢を沈めて回避、そこから斬撃を斬りあげる。

 それに対し、さとり鵺はダメージを覚悟で突進した。そのため、斬撃は深々と相手の胸に突き刺さるが、剣聖自身も大きな衝撃を受ける。辛うじて刀を手放すことはしなかったものの、重い衝撃に意識が持っていかれかけ、剣聖は後方へ弾き飛ばされた。

 錐揉みしながら吹っ飛んだ彼は、受け身もろくに取れぬままに地面を転がり、やがて勢いを失うことでようやく立ち上がる。

 立ち上がった彼は、横転の際に切ったのか、額から血を流して片目を塞がれていた。

 その血を鬱陶しげに拭き取りながら、剣聖は敵を目にする。

 さとり鵺も、度重なる剣聖たちの攻撃に大きなダメージを抱えている様子だった。全身を傷で覆いながら、彼は剣聖を凝視していた。

 互いに肩で息をしながら、剣聖とさとり鵺は互いの隙を窺がい合う。

 死闘はまさに、終局へ動き始めていた。

 

 形勢が傾いたのは、一瞬だ。


 突如、さとり鵺の背後から、光の筋が突き刺さったのだ。

 さとり鵺は、突然のダメージにぎょっと背後を振り向く。

 その先にいたのは、晶だった。彼女は両膝と片手をついた体勢で、苦しげな顔ながら光剣の切っ先をこちらに向けていた。体力が最低限ながら回復していたのだろう、剣聖に意識を集中していたさとり鵺は反応が遅れた。

 そのミスと、反射的な反応が生死を分けた。

 剣聖は、奴の隙を見逃さずに切り込むと、振り向きなおる相手の顔面を縦に叩き切る。

 顔面を引き裂かれ、さとり鵺は混乱し、よろめいた。

 その隙に、剣聖は横へまわりこんで刃を反転させ、振り上げる。首筋へ叩きこまれたその一撃は、見事なまでに敵の急所を引き裂き、吹き飛ばす。

 

 くるくると、さとり鵺の首が飛ぶ。

 

 斬られた断面からは大量の血飛沫が噴き出し、巨体は直立の後によろめく。やがて傾いたその身体は、大音量と共に地面に頽れたのだった。

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