熱戦~VSさとり鵺②

「おのれ! おのれおのれおのれぇぇええ!!」


 視界を真っ赤に染めながら、さとり鵺は怒り、その目を晶に向ける。そして、彼女へめがけて、雷撃の雨を一気に叩き付ける。ドドドドと打ちこまれた雷の弾幕に、晶は慌てて横へ駆け、その弾幕から身を躱す。

 それを、さとり鵺は追う。

 奴は一気に駆け出し、彼女との距離を詰めて迫ると、その勢いのまま彼女に向かって体当たりをかませにいく。その突進に、晶は反応が間に合わず、思いきり体当たりの餌食となって吹き飛ばされる。小型のトラックに衝突されたような打撃を受け、悲鳴と共に吹き飛んだ彼女へ、さとり鵺は更に雷撃の雨を叩きこむ。稲妻は一斉に彼女へ向かって放たれ、打撃による痛みで悶えていた晶は反応が遅れる。

 次々と突き刺さる雷撃に、晶の華奢な身体が吹き飛ばされる。絶え絶えな悲鳴をあげて飛ぶ彼女に、さとり鵺は見たことかと高笑いを上げる。

 そんな奴に、視界の外から迫る黒影。

 さとり鵺がそれに気づいた時、すでに剣聖は刀を振りかぶっていた。

 直後打ち下ろされた一閃は、さとり鵺の胴体を深々と裂く。肉を断つ感触を伝えるほどの会心の一撃に、さとり鵺は絶叫して横転する。その後を血飛沫が追う中、剣聖は追撃を思いとどまり、横へ連続で飛ぶ。

 慎重を期したその判断は、正解だった。

 直後、さとり鵺はあらん限りの雷撃を、無我夢中に剣聖のいた方角へ放ち、空を切って、背後の木々にぶち当てて爆散させる。間隙もほとんどなかったそれは、もし切り込んでいたら躱す余地もなかっただろうことは明らかであったため、剣聖が退いたことは正解だったことを告げていた。

 横へ跳んだ剣聖は、そのまま晶の許へひた走る。

 そして、彼女の前へ立ち塞がると、彼女をいつでも抱えて逃げられる体勢で、さとり鵺の方を見る。


「生きているか?」

「なん……とか……」


 剣聖の声に、晶の返事は苦しげだった。

 その声色の悪さに、剣聖は舌を打つ。

 戦況は、優勢にも不利ともいえる。敵に多大なダメージを与えてはいるが、こちらも晶がひどい手傷を負っている。

 ただ一つ言えるのは、彼女を庇いながら戦おうとするのは無謀である。

 そんな余裕のある相手でも、状態でもなかった。


『四葉さん。ここは私に任せて、貴方は敵と戦ってください』


 どうするべきかと判断に迷う剣聖に、声を寄越したのはスヴァンであった。


『私の治癒術なら、晶の傷を戦闘が再開できる程度までは治せます。それまで、一人で持ちこたえてください』

「出来るのか?」


 少し、不審げに問う剣聖に、スヴァンは自信を持って言い返す。


『貴方が今日、ここであのさとり鵺と戦えるまでその身を回復させたのは誰の力によるものか、お忘れですか?』

「……分かった。信じる。必ず戻ってこい。だが――」

『?』

「俺一人で倒しても、文句は言うなよ」


 相手を安心させるような力強い台詞と共に言うと、剣聖は晶をその場に前へ出ていく。向かう先は、当然さとり鵺の許だ。

 近づいていく剣聖に、さとり鵺は立ち上がって待ち受けていた。

 その目は、烈火の如き光で燃え上がっている。


「話し合いは済んだか?」

「あぁ。ちょっと待たせた」


 頷いて言い返すと、剣聖は刀を構え直す。


「ここからはサシだ。思うがままに斬らせてもらう」


 そう言って、剣聖は刀を持ちあげた構えを取る。

 不敵な言葉に、相手がいらついた様子で嗤う中、剣聖は靴裏を地面にめり込ませた。

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