熱戦~VSさとり鵺①

「貴様らさえ倒せば、私も目的を達成できる」


 立ち塞がる剣聖たちを前にして、さとり鵺は言う。

 その雰囲気が、先ほどまでよりも悪質に変化していく。空気が重くなり、また身体にかかる圧力が増す。

 それを見て、剣聖たちは警戒心を強める。


「悪いが、とっとと殺させてもらう。私の本気をもってな」


 そう言うや、さとり鵺の身体に変化が見え始めた。

 その身体が、徐々に膨張していき、先ほどまでの巨体よりも更に巨大、倍ほどの大きさまでに隆盛していったのだ。

 巨大化、といえば分かりやすいか。

 その姿に、目を見開く晶に対し、剣聖は一言、


「でかくなったな。その分、威圧感は増したが……」


 目を細めながら、言う。


「的もでかくなった。一長一短と思っていいな」

「結構、プラス思考なのね……」


 威圧感や邪気を増す相手を前に軽く言う剣聖に微苦笑し晶は言う。

 そんな彼女へ横目を向けてから、剣聖は前を向いて、言う。


「行くぞ」

「うん」


 そう言って。剣聖たちは仕掛けた。

 さとり鵺からの言葉は待たない。

 待っていて先手を取られては不利だ。心を読む相手に対して有効な手段はただ一つ、相手が心を読んでも反応出来ない速度で、攻撃を叩きこむしかない。

 ゆえに、二人は一気に素早く仕掛けた。

 先に斬り込んだのは剣聖だ。

 一直線に敵へ向かった彼は、勢いのままに斬りかかる。斜めに切り下ろされた斬撃に、さとり鵺は横へ回避、そこで反撃に転じようとするが、それより先に剣聖の追撃が放たれる。振り下ろした刀の軌道を強引に変え、彼は横へ刃を振るう。結果、その瞬時の判断に、さとり鵺の回避は間に合わず、刃はさとり鵺の胸元を抉った。

 舞う血飛沫、残る斬撃の軌跡――さとり鵺は苦悶の声を上げ、しかし即座に反撃へ転じる。奴は稲妻を呼び寄せると、剣聖めがけて放つ。撃ち落とされるそれに、剣聖はその場に留まることなく舞踏し、すんでのところで回避した。

 剣聖が退いた瞬間、入れ替わるように晶が斬り込む。

 光の剣を手に進み出た彼女は、それを横殴りに叩き付ける。伸縮自在のその剣は、間合い充分にさとり鵺を襲う。それに対し、さとり鵺は飛び上がって躱しつつも、晶に襲い掛かる。光剣を避けながら飛び込んだ奴は、前足を振りかぶって晶に殴り掛かった。これに対して、彼女は身を倒して横転し、さとり鵺と位置を入れ替える。

 着地したさとり鵺が振り返る中、いち早く体勢を整えた晶と、剣聖が同時に斬り込む。一気に彼我の位置を縮めた二人は、左右から魔へと襲い掛かった。

 攻撃を感知したさとり鵺は、これに対して前足を上げて身を反らす。飛び上がる様にして回避の体勢を取った奴に、二つの斬撃は空を切る。それと同時に、さとり鵺は振り上げた前足を二人の頭上へ叩き付ける。鋭い爪による斬撃に、剣聖たちは横へ跳び、それを辛うじての距離で躱した。

 さとり鵺の反撃は終わらない。

 奴は同時に周囲に雷球を召喚させると、無数のそれを相手に向けて射出する。速球は二人に襲い掛かり、二人は咄嗟に距離を置くように後退した。

 それを見て、さとり鵺は連続攻撃へ転じる。

 次々と雷球を召喚させた奴は、休む間を与えないように雷球を形成、続けざま相手へ叩き付ける。これに対し、剣聖たちは横転と後退を余儀なくされ、続々迫るそれに間合いを開かされていった。

 間合いが開けば、遠距離射撃を持つ相手が有利――そう判断し、剣聖は攻撃を躱しつつも、後退から前進へと移動方向を移行させる。

 やや危険ではあるが、そうでもしないと活路は見いだせないとの判断に、その果敢な判断にさとり鵺は嗤う。

 が、有利を確信していたさとり鵺の顔が一瞬で強張る。

 原因は、晶だ。

 彼女は光剣の先端をさとり鵺へ照準すると、そこから光の波動を射出させる。その攻撃法は、さとり鵺は読み切っていないものだった。放たれるレーザーに、さとり鵺はその右前足を胸の一部を貫かれる。ジュッという熱線によるダメージに、さとり鵺は思わず咆哮を上げ、苦悶から横へ転がった。

 その隙に、剣聖は畳み掛ける。

 間合を詰めた剣聖は、さとり鵺の頭部めがけ、連続の斬撃を叩きこむ。鬼神の如き勢いと猛進に、さとり鵺は苦痛の中で回避を試みるが、刃はことごとく奴の顔に刺さる。深くはないものの確実に刺さったそれは、さとり鵺の頭部を割って、血潮を爆散させる。肉の一部も吹き飛ぶ中、さとり鵺は吼え、辺りに無理やり滅茶苦茶に雷光を迸らせた。我武者羅な攻撃に、剣聖は後退し、雷撃を掻い潜って距離を置く。

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