強襲する者たち
その頃、さとり鵺は社宮市の街の中にいた。
詳しく場所をいえば、そこは市街地の中の「迷いの森」と呼ばれる場所だ。
街の名所の一つで、古くからまことしやかな伝承があることで知られる。
その伝承とは、一度は言ったら抜け出すことが難しいというもので、過去に何人もの人間が遭難して帰ってこなかったという噂もある場所だった。
現在は市の保有で禁足地にもなっているその場所に、さとり鵺は進んでいく。
やがてその前に、一つの大きな岩が姿を現した。
古びたしめ縄によって縛りつけられたそれは、大きさとしては成人男性よりも高く、横幅も広いもので、およそ十人の人間が協力しても持ち運ぶことはできないだろうほどに巨大なものであった。
それを見つけ、さとり鵺はにやりと笑う。
ゆっくりと、魔はその岩へ近づいていった。
その背後へ、迫る影があった。
黒い影は、相手の間合いへと踏み込むや、手にしていた得物を振り下ろす。
それに気づいたさとり鵺は、振り返るよりも早く横へと飛び退く。結果、刃はさとり鵺の背中を抉るも深々と切り裂くことはなく、血飛沫をあげながらも横へ流れていった。
奇襲・不意打ちでさとり鵺を仕留めそこなった影は舌を打ち、離れた距離で振り返ったさとり鵺と対峙する。
剣聖だ。その姿を見て、さとり鵺は眉を持ち上げる。
「ほう……。貴様らか」
少し驚いた様子で言う相手に、剣聖は僅かに頬を歪める。
その少し後、剣聖の背後の陰から晶も姿を現す。白いヒロインと化した彼女は、自身も強襲の機会を窺がっていたのか、存在がばれたことに苦いものを浮かべていた。
そんな二人に、さとり鵺は口角を持ち上げる。
「また私の前に出てくるとは……。ここにいるということは――」
「聞く必要もないだろう。御自慢の読心で分かっているんだろう?」
つまらなそうにいい、剣聖と晶は横に並ぶ。
「百鬼夜行で街を蹂躙する――確かにそれも目的の一つだが、一番の目的はそれじゃない。お前の一番の狙いは、この街を覆う結界を破壊することだ」
「この街の結界は、地方から他所へ向かうあらゆる魔の通行を阻害してしまう。そのために魔にとっては色々と不便がある。そのため、貴方はこの結界の要の一つであるこの要岩を破壊することで、結界そのものを弱めるか破壊したかった――違う?」
剣聖と晶が順に言うと、さとり鵺は笑みを深める。
「素晴らしい。よく分かったな。独力でそこまで読み解いて先回りするとは。しかもだ、この岩の存在自体、古い伝承ゆえに人々の記憶から半ば消えていたというのに」
「そうだな。俺も知らなかった。半ば都市伝説めいたこの要岩の存在を知れたのは、ちょっとした協力者のおかげだったな」
一瞬、剣聖の言葉に眉を寄せた後、心を読んだのか、さとり鵺の顔には苦笑する。
「なるほど。一般人の二人の餓鬼が、意外なところで役に立ったということか。人付き合いによる恩恵とは不思議なものだな」
「あぁ、そう思う。さて――」
さとり鵺の戯れの言葉に、剣聖は大真面目に頷いてから、刀を構える。
「言っておくが、前回みたいにやられはしない。今度は焦らず、冷たく、滅す」
「前と違って、迷いなく本気でいくから、覚悟しておきなさいよ」
据えた目で告げる剣聖に晶が続き、その手にあるバトンの先端から光の刃を伸ばすと、相手へ向ける。
構えを取った二人に、さとり鵺は笑みを更に深めた。
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