迎撃する者たち①

 日付は経過し、GW後半の五月五日の黄昏どきを迎える。

 社宮市の北東にある山脈の間にある山道では、今、凄まじい数にも及ぶ怨霊が集結していた。

 十・二十どころではなく、百・数百にも及ぶ数だ。

 群を為したそれらは現在、山間をのっそりと、南西に向かい進軍し始める。

 その先にあるのは社宮市市街地――怨霊たちの狙いは明白だ。

 百鬼夜行による市街の蹂躙が、今まさに行われようとしていた。


「んっんー。その行軍、ストップです」


 街へと向かう百鬼夜行の行軍を、止める男たちの影があった。

 シルクハットにステッキを持った男・野良烏斎を先頭に、桃色髪の小柄な少女・紅玉響や、怪異災害対策局の局員たちが待ち構えている。


「ここから先は通行止めです。怨霊の皆さんは至急おかえり下さい。なお――」


 シルクハットのつばを持ち上げ、細い目を薄く開きながら言う。


「かえって頂く先は、土にですがね」


 その言葉が合図となった。

 背後に控えていた局員たちは、手にしていた銃を発砲する。

 ただの銃ではない。対怨霊用に特化された霊銃である。

 銃が怒号を上げて吼え、弾丸を吐き出す中、怨霊たちも局員たちに向かって襲い掛かる。前線の怨霊たちが弾幕の餌食になる中、一部は地を駆け、一部は空を飛び、局員たちに襲い掛かろうとしていく。

 肉迫する敵を見て、斎は横に進み出た玉響を見る。


「玉響さん、好きに暴れてください。その方が性に合うでしょう?」

「うん」


 頷き、玉響は前進を開始していく。

 一人進み出た大斧娘に、怨霊たちは続々と襲い掛かる。

 それが、ただの一撃で粉砕され薙ぎ払われる。

 巨大な大斧をまるで鞭のようにしならせ、しかし巨木のような圧力で振るい、それによって怨霊数体が巻き込まれて吹き飛ばされた。

 爆砕された怨霊たちは、しかし怯むことなく向かってくる。

 それを、玉響は勇んで迎え撃とうとした。

 その瞬間、両陣営の間を閃光が地面を穿った。

 迸ったそれに、先陣の怨霊が一体撃たれる中、その場の者たちは視線を閃光の出元へと向ける。

 そこにいたのは、一人の中年男性だ。

 口髭を生やし、その身には、ひらひらとした女性用の衣装を着ていた。

 その異様な姿に、局員の人間たちは度肝を抜かされる。


「へ、変態だぁ……」


 思わず誰かが悄然と呟く。

 その声に反応した様子で、男は透き通ったヴァリトンボイスで言う。


「変態とは失礼な。こう見えても、私は魔法少女――」

「聡さん。いちいち言い返していたらキリがありませんよ?」


 何やら抗弁しようとする男に、後ろから現れた影が言う。

 こちらも女性用の衣装を着ているが、男性より落ち着いた恰好であった。

 言葉を交わし、二人は局員たちの前を横切って怨霊たちの前へ進み出る。


「今は、この群れを倒すことに専念いたしましょう? 私たちは、援軍なのですから」

「援軍?」


 その言葉に、玉響が不審げな声を漏らす。

 同時に、斎が周りを見回して、あることに気づく。


「おや? あの少年たちの姿は見えませんね? どうしたのですか?」

「そりゃあいませんわよ。だって――」


 斎の疑問に、女性は、晶の母である彼女は言う。


「二人は、敵の親玉の狙いを阻止に行っているのですから」

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