魔と謎の少女

「いやぁ。笑った、笑った」


 斜光が道路を照らす道路で、美紅が朗らかに笑っていた。

 晶の家での勉強会からの帰り道、楽しげに彼女は言う。


「どうなるかと思ったけど、まさかあんな面白い口論になるとはねぇ。聞いていて本当に面白かったわねぇ」

「俺はハラハラしたよ。リアルファイトに発展するかと思って……」


 美紅の言葉に、燎太は苦笑する。

 外から見れば確かに可笑しかったかもしれないが、燎太のようにあの場にいた側からすれば、とても生きた心地がしない空気であった。

 言葉を交わす二人に、剣聖は向かずに前を向いたままだ。

 そんな彼に、燎太が声をかける。


「剣聖。お前も少しは言葉を選んだ方がいいぞ? 無駄に敵を作ることになる」

「そうか? 俺なりに言葉は選んだつもりだがな」

「アレでかよ!」


 思わず燎太は突っ込み、剣聖は真顔で頷く。

 それに美紅がくすりと笑う中で、剣聖は視線をまた前へ戻す。


「まぁ、だが、あの人も昔何かやっていたのだろうか?」

「ん? 何の話だ?」

「いや。やけに所作に無駄が少なかった。あれは一定の、戦いの心得がある人間の動きだった。少し、それが気になってな」

「へぇ? でも、晶からそんなこと聞いた覚えはないよ?」


 美紅が答えると、剣聖は「そうか」とだけ言う。

 単なる自分の気のせいかと、そう思って思考を終える。


「それにしても、最近平和ね。ここ二週間は、魔も出ていないし」

「そうだな。こんな感じがずっと続くといいよな」

「ちょっと、それフラグっぽいよ」


 燎太の言葉に、美紅が突っ込み、二人は笑い合う。

 そんな時であった。剣聖が足を止めて、来た道を振り返る。


「ん、どうした?」

「魔が出たようだ。こっちと反対側の方で」


 同じく足を止めて問うた燎太に、剣聖は視線を動かさずに告げる。

 その言葉に、燎太が少しぽかんとする中、美紅が彼を小突く。

 ほらみたことか、と言う意味でのツッコミだった。

 それを無視し、剣聖は言う。


「行ってくる。お前たちは、先に帰っていてくれ」

「分かった。気をつけてね」


 手を振る美紅に頷くと、剣聖は駆け始める。

 そして、駆けながら携帯電話を取り出した。


「白藤か? 気づいているよな?」

『うん。魔よね? 今向かっている』

「そっちの方が近そうだ。先に向かってくれるか?」

『OK。私が一人で倒していても怒らないでよ?』


 笑いを含んだ声に、剣聖は鼻を鳴らして電話を切る。

 そして、走ることに集中し直すと、急ぎ合流すべく現場へ向かうのだった。



 剣聖が合流した時には、予想通り晶が先に到着し、交戦をしていた。

 今回現れた魔は個体ではなく群体で、小鬼・餓鬼とでもいうべきものが多数出現している様子であった。

 それを見て、愛刀を抜刀して敵へ切り込みつつ、剣聖は彼女の横に並ぶ。

 合流した彼に、純白のヒロインとなっていた晶は笑う。

「早かったね。せっかく私が先に全部片づけてあげようかと思ってたのに」

「戯言を抜かすな。とっとと片づけるぞ」


 晶の冗談に憮然と応じ、剣聖は構える。

 そして、近寄ってきた餓鬼の一体を、即座に斬り伏せた。

 遊びを含まず勤勉な彼に感心しつつ、晶もバトンを召喚して光剣を構える。


「そうね。さっさっと……あれ?」


 自身も敵へ向かおうとしていた晶だったが、その時彼女はあることに気づく。

 自分たちと、餓鬼の群れを挟んだ反対側だ。

 そこに、一人の小柄な少女が立っていた。

 ピンクの髪を肩のあたりで切り揃え、小さなツインテール気味に髪を二房結んだ人形のような可憐な顔立ち少女で、黒いスーツに身を包んでいる。

 そして手には、とても華奢な少女には似つかわしくない物が握られていた。

 巨大な、柄の長い斧である。

 大斧とでもいうべき凶器で、その全長は少女の身長ほど、それ以上あった。

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