第3話「正義の機関」
突撃! 白藤家の勉強会①
カリカリと、複数のシャープペンシルの音が共鳴している。
ノートや教材にチェックや問題の解を書きこむ音で、各々が机の上に置いたそれに向き合っていた。
場所は学校ではない。
剣聖や晶、美紅や燎太の四人が、全員私服であるために、それは分かる。
四人が集まっているのは、その内の一人、晶の家であった。
発端は、美紅の思いつきであった。
社宮高校では、GWの後に中間テストが開かれるのであるが、それに向けて勉強会をしようと言い出したのである。勉強会というが、それは名ばかりのもので、本当はただ全員で集まって遊びたいと言うのが魂胆であった。
晶と燎太は即承諾し、問題は人付き合いの悪い剣聖であったが、意外にも彼も了承した。勉強会ならばということで、彼もそう邪険にはしなかった。
その後どこに集まるかということになったが、ここで晶が珍しく積極性をみせた。彼女は自分の家が広くて静かだから、と三人を招いたのである。
この好意に美紅や燎太などは驚いていたが、三人は快く受け取った。
こうしてGW序盤の現在、四人は勉強会に集まったのだが、
「言っとくが、名ばかり勉強会なら俺は帰るぞ」
という剣聖の鬼の先手により、今の所勉強会は本当の勉強会となっていた。
遊ぶ気満々だった三人は出鼻を挫かれ、その後も剣聖が怒りだすのが怖かったため、仕方なく真面目に勉強に励んでいた。
「剣聖。この数学の問題を教えてくれ」
「どれだ?」
燎太が声を掛けると、剣聖が彼の参考書を覗きこむ。
「この問題。どうやって解けばいいか、分かるか?」
「それは公式を使えば解ける。ただ、少し応用が必要だな。ここは――」
示された問題に対し、剣聖はアドバイスをする。
その説明が分かりやすかったおかげで、燎太はすぐに把握する。
問題の解き方が分かったところで、燎太は礼を言って、女子陣を見た。
そちらでは、相手もこちらを覗き込んでおり、互いに目配りをする。
それが意図しているのは一つ、どうやってこのお堅い勉強会の体を崩してみせるかについてである。
「……あー疲れた。少し、休憩しない?」
先陣を切って口を開いたのは美紅だった。
「少しは息を抜かないと。根の詰め過ぎは――」
「まだ三十分も経っていない。少なくともあと同じ時間はやってからにしろ」
冷たく静かに、剣聖が言う。言葉には、刃が見え隠れしている。
「お、お菓子とか食べたくない? 私持ってこようか?」
「休憩ならば、今言った通りあと三十分はやってからにしろ」
今度は晶が出たものの、剣聖は冷淡に言う。
その言葉を聞き、女子は燎太へ視線を送る。
それに対し、燎太は首を振った。今は無理に動くな、というサインだ。
それを見て、二人は仕方なく勉強に戻る――ふりをして考える。
どうにかこの勉強会の流れを打破したい三人であるが、今の所、鬼の壁を誇る剣聖の前に無暗に動くことが出来ない状況であった。
そんな時、四人がいるリビングの扉が開いた。
「あらあら、皆さん真剣で偉いわね~」
そう言って現れたのは、晶の母であった。
晶にどこか似た端整な顔立ちをした彼女は、両手の盆にお菓子を乗せていた。
「これ、差し入れですよ。皆さん、頑張ってくださいね」
「どうも。ありがとうございます」
嬉しい応援に、燎太が代表して礼を言い、剣聖と美紅も頭を下げる。
そんな礼儀正しい三人に微笑みながら、相手はふと晶に目を向けた。
「あ、そうそう。晶ちゃんに美紅ちゃん、少しいいかしら?」
「え、なにママ?」
「ちょっと来て頂戴。少しでいいから」
呼び出しに、晶と美紅は不審げに顔を合わせてから、立ち上がって付いていく。
誘われてリビングから出て行くと、その際、入れ替わるようにリビングへと入っていく影があった。晶の母とは別の男性だ。
「あ、パパ――」
その人物に気づいて、晶が声を掛けるものの、男性は無言で、リビングに入ると扉を閉めて行った。
それに、晶たちはぽかんとする。
「……え?」
「なんかね、晶ちゃんが連れてきた男の子たちにパパが会いたいんだって」
茫然とする二人に対し、晶の母はくすくす笑いながら言う。
その言葉に、顔を合わせた後で、晶も美紅も顔色を変える。
まずい。これは修羅場になる――そんな予感があった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます