調査と交友①
休日の社宮市の街中は、多くの人々の往来で賑わっている。
決して都会ではないが、商店やレジャー施設も多いこの街は、休日になると周辺の街から遊びに来る人間も多い。特に都市部の喧騒に飽き飽きしている者にとっては、遊びの穴場として人気があった。
家族連れ、友人同士などの老若男女が集って闊歩するそんな街の中を、剣聖も混じって進んでいた。
といっても、彼は遊んでいるわけでない。
彼は数枚のメモを手に、現在街の各所を巡っていた。
(次は……こっちか)
メモ帳をめくりながら、剣聖は方向転換して、横断歩道を渡っていく。
端的に言えば、彼は現在、街の調査中であった。
晶や美紅たちと『退魔同盟』なるものを組むことになった週末、剣聖は彼女たちからとある調査の報告を受けた。
「新しい魔の情報が入っているの。聞きたい?」
やや勿体ぶるように美紅に言われ、剣聖は彼女から情報を受けた。
「最近になって、若い男性が意識不明で倒れている事件が立て続けに起きているそうなの。死人はまだ出てないからか、おおごとにはなってないようだけど、もう被害は五件ぐらいにも及んでいるそうよ」
そう言って、彼女は剣聖にメモ用紙を渡してきたのだ。
「これ、被害にあった人の場所。大体だけどね。気になったら調べてみて」
表沙汰に有名になっていないから、ピンポイント位置までは分からなかったと言いつつも、彼女は被害があった場所を調べたそうだ。
それを受けて、剣聖は休日に早速、調査を開始していた。
「……どう思う。頼重」
人が周囲にいないのを確認して、剣聖は問いかける。
話題の仔細は、言わずとも伝わったようで、相手の返答はややあってくる。
『瘴気の名残はない。だが、拭き取ったような気配を感じるな』
「拭き取った、か。不自然な霊気の気配が満ちているということか?」
『あぁ。ある意味、何かしらの魔が出現した印だ。おそらくは、当たりだ』
そこまで聞いて、剣聖は考えを巡らせる。
魔が出現した形跡があるということで、メモ帳に記された場所と出現傾向に因果がないかに思考をシフトする。
それと同時に、内心感心していた。メモを渡してきた美紅の調査力に、だ。
『それにしても、だ』
「ん、なんだ?」
『頼りになる仲間が出来たじゃないか。これまでお前は、一人闇雲地道に探し回って来たからなぁ。こうして情報を貰えるだけでありがたい』
「……そうだな」
思いかけていたことと頼重の言葉が重なり、剣聖は素直に認める。
だが同時に、不審を感じざるをえない。いくら調査能力が高いとはいえ、ここまでわかる物なのか、という疑問があった。
この点に関しては、美紅の技能の高さを素直に評価せねばならないだろう。
最近の女子高校生の情報収集力は、偏重してはいるが凄まじいものがある。
流行や噂、ゴシップなどに敏感な彼女たちの持つ情報を、美紅は自身のコミュニティを最大限に活用して収集しているのだ。
女子高生ネットワークとでも呼ぶべきか、それを最大に利用して集めた情報で、より確実性の高いものを選別して提供する――それが美紅の仕事だった。
ただ、剣聖はそのことに正直に納得しない。どこか釈然としなかった。
それを、婉曲的な言葉として吐き出す。
「まぁ、これはお前の怠慢だ。一般人に劣るお前の働きぶりを示している」
『なっ。その言い方はなんだ! 俺だってな――』
「待て。知り合いがいる」
文句を言う頼重を止めて、剣聖は横へ振り向く。
目だけ向けていた方向に顔を向けると、見知った顔がこちらを見ていた。
剣聖が気づいたのを見ると、相手は喜色を浮かべて歩み寄ってくる。
普段学校でよく会う相手だった。
「よっ、剣聖。こんな所で奇遇だな」
「陽野か。何をしている?」
手を挙げてきた相手に、剣聖は淡々と応じる。
いたのは剣聖のクラスメイト、制服ではなく私服姿の燎太であった。
「何をしているって……そんな警察の尋問みたいな聞き方ないだろ」
「そうか? 別段変わった聞き方をしたつもりはないのだが」
「まぁいいや。そうやってこうやって学校以外で会うのは初めてだな」
「そうだな。会ったのは、ただの偶然だろうが」
頷き、剣聖はなんとなしに相手の姿をチェックする。
相手の服装は、長袖の白いシャツに上に七分丈のズボンという、春の季節に上手く順応させようとしつつ少し洒落た様子の恰好だった。
一方の剣聖は、無難に紺色系のチェックの長袖シャツにジーンズ姿である。
服装はよく人間を表すというが、二人の服装にもややその傾向があった。
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