調査と交友②

 そんな中で、燎大が首を傾げる。


「ところで、剣聖は何をしているんだ? 家がこの辺りなのか?」

「いや。家はここから南東の山の方だ。ここには……そうだな、買い物に来た」

「おっ、お前もなのか。まぁでも、一人遊びじゃなければそれが普通か」

「お前も、ということは」


 ある程度、冊子をつけて聞く剣聖に、燎太は頷く。


「あぁ。今週発売のあるものを入手しにきた」

「あるもの? 書籍かCDか何かか?」

「ふっふっふ。聞いて驚くなかれ……」


 言って、燎太は手に持っていた買い物袋を取り出した。


「どどん! ずばり、人気音ゲーである『ぎゃるろっく』シリーズの最新作だ! 音楽バンドをテーマにした音ゲーで、女子高生の甘酸っぱい青春を堪能しつつ、オリジナル楽曲を初心者から達人までプレイできるという――」

「テレビゲームか。前に俺に薦めようとしていたものか?」


 何やら饒舌に語る相手の、話の腰を折る様に剣聖は問う。

 やや空気を読まない問いかけであったが、燎太に気分を害した様子はない。


「いや、それとは違うな。これは、お子様な剣聖には少し早いかな。ゲーム難易度は親切設計だが、少し癖があってな。完全な初心者向けとは少し違う感じだし。まぁ、剣聖くんには少しばかり刺激が強そうな可能性もあるし」

「刺激が強い?」

「そう。プレイムービーの中に、所どころでお色気ムービーも流れるからな! お子様な剣聖にはまだ早いシーンもたくさんあるからな。ぐふふ……」

「……さっきお前、甘酸っぱいとか言っていたよな?」

「あぁ、言ったな」

「お色気とやらは、甘酸っぱいの要素に入るのか?」


 やや険しさを含んだ、怪訝な様子で剣聖は問う。

 その声に、燎太は首を傾げながらにやつく。


「おや、剣聖もひょっとして興味あるのか? 意外とむっつりですなぁ」

「そうではない。過度な表現をするというなら、不快というだけだ」

「えっ……あれ? 剣聖って、もしかしてこういう話題苦手か?」


 毒を吐くような剣聖の言葉遣いに、燎太は少し焦った様子で問いを放つ。

 それに対して、剣聖は静かに目を細めた。


「こういう話題、とは?」

「いやあの、下ネタとか、異性のあれこれに関する話題とか……」

「ものによる。だが、しつこいのややりすぎなものには嫌悪しか覚えない」


 苦々しく、剣聖は言う。

 年頃の少年というのは、異性のその手の話題に興味を持つ者は多いが、中には過度なその手の話題を本気で嫌うものもいる。

 あまりその手の詳しい話題を聞くと、胸から吐き気がするのだ。

 これは、別段珍しいことではないが、異性に興味津々な同世代の人間には、なかなか理解してもらえない、少し厄介な問題だった。

 それを正直に告白すると、燎太は眉を八の字にする。


「そうか……悪い。ちょっと配慮が足りなかったかもな」


 素直に、燎太は謝る。

 普通の高校生なら、ここは更に揶揄を重ねてしまい、墓穴を掘りかねない。

 ただ燎太は違う。

 相手が嫌なら詳しく追及しない、話を続けたりはしない、そういう人物だ。

 決して、相手との距離感を間違えたりするような人物ではなかった。

 燎太の謝罪に、剣聖も事を荒立てない。


「別に構わない。これから分かっていれば、な」

「おうそうか。ふぅ、安心した」


 安堵した様子で燎太は言うと、それから再び首を傾げる。


「で、剣聖は何を買っていたんだ?」

「……まだ買っていない。これから買いに行くところだ」

「へぇ。何を?」

「生活雑貨、とかだ。聞いてもあまり楽しくないぞ?」


 適当に、剣聖は言葉を紡ぎだす。

 実際には魔の調査をしていたわけだが、そうは素直に言えない。

 なので、適度な嘘も交えつつ、会話を流す。


「そうか。あ、そういえば、この先にある『あおのスーパー』が、そろそろタイムセールの時間だぞ。食料品が安くなる」

「そうなのか?」

「あぁ。ここをまっすぐ行けばつく。というか、もうすぐ始まるな」


 説明しつつ、燎太は腕時計を見て言う。

 時刻は、午後の四時になろうとしていた。

 自身も腕時計を見てそれを確認すると、剣聖は顎を引く。


「分かった。じゃあ行ってみる」

「そうか。じゃあ俺はここで帰るわ。早速、ゲームしたいからな」

「あぁ。じゃあな」


 別れを告げ、二人はそこから離れて行く。

 偶然の邂逅であったが、適度に言葉を交わし終えて別れた剣聖は、喋り疲れでもした様子で軽く息をつく。

 決して煩雑ではないが、あまり口数は多くないだけ、長い会話は一苦労だ。

 そんな彼を見て、頼重は笑う。


『いい友人だな。あぁいう人間は、大切にすべきだぞ?』

「分かっている。ただ、少なからず疲れるがな」

『知己との会話は疲れなど知らぬものだが……まだまだ絆が浅いな』


 からかうように言われ、剣聖は目を細める。


「絆って言うのは、言われて築くようなものなのか?」

『いいや。それはあくまでお前自身が――おや?』

「どうした?」


 訝しげに剣聖が尋ねると、頼重は言う。


『あれは、白藤殿ではないか?』


 そう言われ、剣聖は目の前を向く。

 するとそこには、何やら買い物袋を抱えて、満足そうに顔を綻ばせている少女の姿が確認することが出来た。

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