退魔同盟への誘い②
「晶はね、以前に街の一つを救っているの。西隣にある商原市のことは知っているでしょう?」
「……知っているが、それがどうした?」
「そこで、晶は半年前に大きな戦いをして、きちんと巨大な魔とその陰謀を倒しきっているの。その時倒した魔の強さと数を語り出したら、どれぐらいかかるか分からないほどよ。訊きたいならば、教えてあげるけど」
「興味がない」
「そう。でもはっきり言えば、昨日貴方が戦ったっていう魔よりは遥かに強い奴だった。そうよね、晶」
「う、うん。自分でも、よく倒せたって思っているけど……」
少し控えめな晶に、美紅は「だから」と言う。
「少なくとも、晶は貴方が思っているほど弱くはないわ。それこそ、命の責任なんて心配するほどじゃないぐらいね。む・し・ろ……」
「……むしろ?」
「私はアンタの実力の方が不安ね。アンタ、晶より強いの? もしかして弱いくせに、威張り散らしているわけじゃないわよね?」
「ちょ、ちょっと美紅」
美紅の暴言ともいえる言葉に、慌てたのは晶だ。
彼女は冷や汗をかきながら、腰に手を当てる友人を抑える。
それに対し、剣聖は鼻を鳴らした。
「幼稚な挑発だな。それで俺を怒らせて、話を進めようとしたんだろ?」
大して苛立ちも見せずに剣聖が言うと、それに美紅は「む」と言う。
図星であるが、こうもあっさり反応されると、肩透かしもいいところだ。
「なによ。少しは乗ってきなさいよ。あ、さては、アンタも意外と図星だったりするのかしらねぇ?」
「まさか。安心しろ。昨日の魔ぐらいなら、俺一人でも充分倒せた。俺の実力を疑っているんだったら、それは見当違いも甚だしい」
淡々と言い、剣聖は相手の続けざまの挑発を受け流す。
実際、剣聖の実力は自他ともに認めるほどのものだ。おそらく一対一なら、同世代で彼に勝てる人間などいないし、五人程度なら、彼一人でも充分同時に倒し切れるほどの強さは間違いなくある、武道の達人であった。
実際、剣聖がそれだけできるだろうことは、普段の物腰から、素人でも容易に判別することが出来る。
何故か本当の強者というのは、自然とその振舞いに強さが滲み出るものだ。
晶や美紅も、それを充分に察していた。
ただ、だからといって引き下がることはしない。
「で、結局はどうなのよ?」
「結局、とは?」
「晶を認めてくれないの? 言っておくけど、晶は自分の命の責任を他人に背負わせるほど甘い人間じゃないわ。それぐらい、自分で持っている」
「……自分が持っていても、それを他人は――」
「ねぇ、ちょっといい?」
更なる口論を始めようとする剣聖たちに、控えめに晶が口を挟む。
二人が向くと、晶はおずおずと言う。
「貴方は、私を何があっても戦うことを認めてくれないの?」
「……いや。そういうわけでは――」
「だったら、協力させて!」
急に、今度は晶が身を乗り出して剣聖に言う。
これには他の二人、美紅さえもがぎょっとする。
「私は、街の皆を、多くの人を守りたいの! 多くの人の笑顔と平和を! だから、そのために戦いたいの! お願いします、一緒に戦わせて!」
「お、おい……」
頭を下げて頼みこむ晶に、流石の剣聖も動揺する。
まさか、急にこんな風に頼み込んでくるとは思ってもいなかった。
「私だって利益や、名誉とか名声とかはいらないから! 貴方の使いっ走りでも部下でもなんでもいいから! とにかく、戦うことに許可を頂戴!」
「………………」
なりふり構わず言ってくる彼女に、剣聖は絶句する。
よもやこのような必死さで、相手が共闘を願い出るとまでは思いもせず、彼とて一人の善良な青年、大いに心を揺らされた。
同時に、彼は昨日のこと、晶と会って魔を倒した後に訪れた、祖父の許での会話を思い出していた。
実はこのことは、退魔士の師でもある祖父へ事前に意見を求めていたのだ。
意外にも、その時の祖父の返答は肯定的であった。曰く「好きにしろ。お前の思う様に」ということだった。厳格な祖父のことだから、断固反対すると思っていた剣聖は、想定外だったのを深く印象に刻んでいた。
「私は、多くの人を守りたいだけだから、それだけだから! だから――」
「……あぁ、もう。分かった、分かったから」
相手の必死な姿勢に、剣聖も根負けする。
「そんなに頭を下げるな。お前の気持ちも充分伝わったから」
「……ほ、本当?」
剣聖が折れたのを理解して、晶は顔を上げる。
やや涙目の彼女に、剣聖は更にドキッとするが、他方で美紅がはしゃぐ。
「やりぃ! あきらんの泣き落とし作戦大成功ね!」
「へ、変なこと言わないでよ美紅! 別に狙ったわけじゃ……」
「……はぁ」
目元を拭う晶を尻目に、剣聖は溜息をつく。
こうして、剣聖と晶や美紅たちの間における共闘の確約、『退魔同盟』が成立を果たしたのであった。
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