第2話「ヒーローたちのヒューマンコミュニティ」
ヒロインの信条と二人の条約
「そういえば、一番大事なことを聞いてなかったわね」
魔の親玉と呼べる巨大な人狼を倒しきり、剣聖が刀を鞘へと納めていると、自身も光剣の柄のバトンを消滅させながら、晶は声をかける。
「貴方、何故退魔士をやっているの? これまで街を一人で守ってきたの?」
晶が問いかけると、それに対して剣聖は振り向く。
「そうだな、その通りだ。家が代々退魔士の家系で、その関係で俺も退魔士をやっている。しかし……俺からもひとつ聞くが?」
「なに?」
「お前、いつからこの街に来た? お前みたいな人間がいるなど初耳だ」
今度は剣聖が尋ねると、晶は肩を竦めた。
「まぁ、それもそうよ。私この街に来てから、まだ半月と経ってないから」
「引っ越してきた、ということか?」
「うん。まぁ、そんなところ」
晶は頷くと、視線を外す。
その所作を見て、剣聖ははたとあることに気づいた。
「待て。お前、どこかで見たことあると思ったが……」
「ん? な、何が?」
剣聖が顎に指を馳せながら言うと、晶はやや肩を震わせる。
何やらまずいという空気が、咄嗟に醸成された。
「確か学校で……お前、社宮高校の生徒だよな?」
「ははは……気のせいでしょ」
「ごまかすな。今は眼鏡をかけていないが……記憶力には自信がある」
そう言うと、剣聖は腕を組んで晶を凝視する。
じっと見据える彼に、晶は嘆息した。
「はぁ……ばれちゃった、かぁ。正体を隠すのも、正義の変身ヒロインの大事な役目なんだけれどなぁ」
「意味が分からんが。まぁそれはさておき、その様子だと俺のことも――」
「えっと、確か一年の四葉剣聖くんでしょ? 隣のクラスで見たことあるわ」
「隣のクラスで?」
「そう。貴方、結構評判だし。私は白藤晶。隣の、一年六組の」
名乗られると、剣聖は納得する。
そう言われれば、何度か見かけたことがある覚えのある少女だった。
「でも奇妙な話ね。同じ学年に、同じように魔を倒している人がいるなんて」
「奇妙と言うには稀有すぎると思うが。まぁいい。しかし、何故お前はその、正義の変身ヒロインなんてしているんだ?」
「そんな、正義の部分だけ強調しないでくれる? 私も真面目なんだから」
まぁそれはさておき……と言って、晶は応じる。
「いろいろあって、こういう風に変身する力を手に入れて、それから魔とも呼ぶ存在のことを知って、それからはほとんど、成り行きね。こう見えて、中学時代はある街を守ったこともあるのよ。まぁそれはともかく、今でもいろんな人を平和と安全を守るためにね、戦おうって決めているの」
視線を合わせることなく、そこまで一気に言葉を告げると、晶は淡く笑う。
「私には戦う力がある。これは、多くの人が望んでも普通は手に入れることが出来ない凄い力。このような力を持っているのだから、これを上手く使わないわけにはいかない。多くの人々の笑顔と生活を守る、それはきっと私のような人間にしかできないことなんだから」
「………………」
語る晶を、剣聖は無言でじっと凝視する。
何か考えるような、同時に何らかの感情を押し隠しているような目だ。
そんな剣聖に気づいたように、晶は視線を戻し、首を傾げる。
「それで、貴方は? 家が退魔士の家系だからって、それだけ?」
「……それだけだ。それ以上に、深い理由はない」
憮然とした様子で、剣聖は答える。その言葉、何故かやや固い。
そんな彼の様子に、晶は怪訝の感情を覚えるが、
「そう。じゃあそういうことにしておくわ。藪から蛇が出ても困るし」
「どういう意味だ?」
「なんでもない」
「……お前のは、随分子供っぽい理由だな」
顔を逸らしながら、少し吐き捨てるように剣聖は言う。
「変身ヒロインと言う名乗りと言い、理由といい、よく素面で言えるな」
「当然よ。別に恥ずかしいことじゃないもの。誇りには思うことだけど」
胸を張りながら言うと、それを見た剣聖は微苦笑を浮かべる。
そこには、少しばかりの呆れとある種の感心が混じっていた。
「まぁ、今回は協力できたが、今回はあまり互いに関わらない方がいいな」
やや気を取り直すように、剣聖はそう切り出す。
「俺は昔からこの地を守っている退魔士の家系、対してお前は新参の人間だ。くだらないことだが、あまり干渉し合うと、争いに発展しかねない」
「争いって……魔を倒すための縄張り争いみたいなもの?」
晶が敏く悟ると、剣聖は頷く。
「そうだ。これは、一朝一夕で解決できるものではない。古くから、魔からの土地の守護には様々な権利があって折り合いが難しい。俺一人がこの場で、全てを決定することは出来ない。一度師である爺様に相談せねばならない」
「なるほど。貴方も大変そうね。私は、基本自由だけど……」
剣聖の説明、その立場とやらに理解を示し、晶は納得する。
「しばらくは互いに不干渉ということにしよう。ただ、暫定的な取り決めとしては、こうやって魔の討伐で遭ってしまった場合は協力する、でどうだ?」
「そうね。それが今の段階ではよさそう」
「こちらの対応が決まり次第、俺から連絡する。隣のクラスなら、話す機会を取るのはさほど難しいことではないはずだからな」
「うん、そういうことなら」
晶が頷き、了承する。
こうして、互いが不干渉を貫くと言う一種の条約が成立するのだった。
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