少女の招待②
多目的教室の前に到着し、剣聖はその扉を数回叩く。
すると数秒後、扉が開く。引き戸が開かれ、黒の長髪の少女・晶が現れる。
身長差から上下に視線を動かし、両者は目を合わせる。
「来たぞ」
「……どうぞ」
剣聖の言葉に、晶は顎を引き、彼を教室内へ招き入れる。
教室の内へ入った剣聖は、晶の指示を受け、中央に置いてある椅子に座る。
後ろ手で教室の扉を閉めた晶は、彼の前を机越しに通り過ぎた。
「何か、飲む?」
「いらない」
「そう……」
部屋奥のポットへ向かっての問いかけににべもなく断った剣聖に対し、晶は構わずそこまで進み、急須へ湯を入れる。
そしてそこから湯呑みに茶を入れると、自分はそれを持って席に座る。
正面に座りづらかったのか、座った場所は剣聖の斜め前だ。
「………………」
「………………」
会話が、ない。
互いに視線を外したまま、特に何も言葉を交わすことなく、黙り込んでいる。
話しづらい重い空気が流れているわけでないが、探り合いのような空気だ。
「……えっと。本日も、御日柄もよく?」
ややあってようやく、晶がコクンと首を傾げながら口を開く。
感情薄く喋り出した彼女に、剣聖は目を向ける。
「そんな前置きはいらないんじゃないか」
「そう?」
「あぁ。というか、昨日とはだいぶ印象が違うな、お前」
はきはき溌剌としていた昨日とは違い、落ち着いた雰囲気の現在の彼女を見て、剣聖はそう評する。それに、晶は頷いた。
「あの時は、変身していたから。ヒロインに、世を忍ぶ仮の姿は必須」
「……そうか」
素面で何を言っているんだ、と思ったものの、口に出すのは野暮かもと思って、剣聖は思い留まって視線を外す。
再びの沈黙。
互いに相手の出方を見ているようでもあるが、これは単純に、両者とも普段は口数が少ないだけである。その証拠に、特に両者の間に緊張感はない。
「それで、何で俺を呼び出したんだ? 何か、理由があるんだろう?」
「えっと……」
話を進めようと剣聖が言うと、それを受けて晶はまごつく。
言葉を選んでいる、何から話すか考えているようであり、剣聖は返答を待つ。
数秒間、晶が視線を動かし、剣聖がそれを見る――その最中だった。
「でー、ででんでん、でーでん♪ ででででででで!」
意味不明な、くぐもった声のメロディーが聞こえてきた。
剣聖が斜め後ろに振り向くと、そこにあった清掃箱が勢いよく開く。
そしてその中から、一人の小柄な少女が現れた!
「ででん! お助けキャラ、舞子美紅ちゃん登場! 話は聞かせてもらった!」
左手を腰に当て、右手の人差し指を伸ばしながら、少女は言う。
そんな風に急に出て来た少女に、剣聖は静かに目を細める。
その双眸が、語るのはたった一つの不審だ。
「なんだ、お前……」
「ふっふっふ……よくぞ聞いてくれました! 我が名は美紅ちゃん! あきらんの強力な協力者にしてその窮地を助ける者!」
「おい。なんだこの変な奴は?」
謎のカッコいいポーズを決めて喋る美紅を無視し、剣聖は晶に訊ねる。
晶は、その問いに目を瞬かせる。
「私の友達」
「……そうか。俺が言うのもアレだが、友達は選んだ方がいい」
「こらこら、四葉っちも冗談きついぞ~。こんな素敵なJKに向かって♪」
「人をいきなり、た●ごっちみたいに言うのはやめてくれないか?」
「そのツッコミもどうかと思う」
ハイテンションの美紅に淡々と応じ、剣聖はとりあえず晶に視線を置く。
「で、こんなのも呼んで、俺に何の話だ?」
「ふふっ。それは私から話しましょう」
胡乱がりつつも話を戻す剣聖に、少しもったいぶってから、美紅は告げた。
「私たちと同盟を組みましょう、四葉っち。一緒に『退魔同盟』を、ね」
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