退魔の剣士と正義のヒロイン②
「まぁいい。ここに来たということは、お前も魔を退治しにきたのか?」
「そうね。そういうことになるかな。貴方も?」
「あぁ。倒した魔の一体が、気になる事を口にしたからな」
意外ながら、二人の会話はスムーズに進んでいた。
いがみ合い、探り合いになるかと思いきや、思いのほか素直に会話を紡ぐ。
剣聖は、周りを見回す。
「それで、実際にここへ来てみたらこの敵の数だ。どうやらここが、魔の本拠地か、あるいは重要な拠点であることは間違いないらしい」
「そうね。私は過去の歴史の伝承を調べてここに来たのだけれど。その推測も、あながち間違いじゃなかったかもしれないかな」
「過去の、伝承?」
胡乱げな目で剣聖が向くと、晶は頷き、話しだす。
彼女は、数百年前も同じ事件があったのだという自身の調査内容を語る。
そしてその時は、多くの犬の死骸が見つかったという結末も告げた。
それを、剣聖は黙って聞いていたが、話が締めくくられると、頷く。
「なるほど。確かに気になる伝承だな」
「えぇ。ところで、貴方が言っていた、倒した魔の気になる言葉って?」
「親玉、と呼べる存在がここにいるらしい。今倒した中に、それらしき存在は一体もいなかったけどな」
ふぅん、と晶は剣聖の話に相槌を打つ。
そして、少し考える姿勢を取る。
伝承からは、親玉と呼べる存在は探れなかったが、剣聖が聞いたという魔の言葉を造言だと切り捨てることも出来ない。
一体どういう真実があるのだろうか、と考える。
その態度を、剣聖はじっと見る。
「なるほど。ただ好奇心や戯れで、ヒロイン名乗っているわけじゃなさそうだ」
「ん? ごめん、今何か言った?」
独白に、晶が反応する。
いいや、と剣聖は首を振った。
「独り言だから気にするな。しかし、敵の実力は未知数だ。ここから先の安全は保障することは出来ないだろう」
そう言うと、剣聖は辺りを今一度見回した。
「出来るだけ早く、この場を去った方がいい。守れる保証はないからな」
「……ちょ、ちょっと待ちなさい。その言い方、まるで私が足手まといにでもなるかのような言い方よね?」
思わず声を荒立てると、それに剣聖は瞬きの後、目を向ける。
「そうとは言っていないが、守れる保証はない」
「同じじゃない! 舐めないほしいのだけれど!」
悪げなく、しかし悪びれもなく言う剣聖に、晶は強く苛立った様子だった。
剣聖に嫌味はないが、それは現に晶を侮った発言だ。
それに、晶は思わず噛みつく。
「貴方こそ、早く帰った方がいいんじゃない? どれだけ自分の実力を過信しているか分からないけど、強がっているだけじゃないの?」
「……なに?」
目だけ振り向いていた剣聖は、その発言にそっと目を据える。
怒ってはいないが、しかし怪訝な目であった。
その反応を、しかし晶は我が意を得たりといった様子に取る。
「その反応見ると、図星だったりするのかしら?」
「誰が。お前も相当、自信家のようだな」
「自信家ではないわ。ただ単に、貴方の言い方が気に食わなかっただけよ」
それに、と彼女は言い加える。
「私だって、貴女を守りながら戦えるかは分からないわ。本当は、私にこの件は任せて帰ってくれるとやりやすいのだけれど」
「そうはいかん。お前のは単なるでしゃばりだろうが、俺のは使命だ。問題を未解決のまま去るわけにはいかない」
「……ねぇ、今でしゃばりって言った?」
聞き捨てならない、と言った様子で晶は目を細める。
それは癇に障った、あるいは逆鱗を撫でた、といった怒りの表情だ。
剣聖の言葉は、晶の矜持と自負を激しく刺激してしまった様子である。
それを見て、剣聖本人は溜息をつく。見るからに、面倒くさげだ。
その反応が、更に晶の怒りに拍車をかける。
「私のやっていることが、そんなに不満? 何か問題でもあるかしら?」
「問題も何も、まず普通に考えて――待て」
口論に応じかけた剣聖だったが、そこでふと目つきを変えて横を見る。
それに、晶も応じる。彼女もまた、目つきを変えていた。
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